第五話 未来:5
『セーブ処理が完了しました』
セーブ処理が終わったところで次の段階に移るがこれからの行き先を決めなければならない。脳内で表示され続けているマップを縮小する限りでは西側が発展している。だからこそ西口から出てきたんだが、ゾンビキメラ以上のゾンビがいる可能性も出てきた以上、先に進むのはリスクが高い。この先銃弾がある場所は限られていて、ゾンビを倒すにしても、ゾンビキメラ以上の相手をするにしても銃弾が尽きたら倒しようがない。それよりかゾンビのエンカウント率の低い東側の地域に行ってレベルアップして行く方が良い。その方が弾を補給しながらゾンビを狩れるし、何よりも安全だ。
東側を探索し、数分後。銃弾を設置している場所で十体弱のゾンビに遭遇する。ゾンビ達の頭をぶち抜くとゾンビ達の動きが止まり緑色の血をぶち撒ける。相変わらず汚え花火だ。
「もう少し何とかならねえものか」
心の中の声を代弁するように呟き、緑色の血を見て顔を顰めながらも銃弾を回収すると『自動リロード』の効果が発動し、装備していた銃に銃弾が込められる。自衛隊達や警官達はこれをやらなければならない──警官達は銃を使ったことに対する始末書みたいなものを書かなくてはならないので余計に面倒──のだからさぞ苦労するだろう等と考えながらマップで映し出された次の場所に目を向け歩き出す。
その次の場所に着くと、わかりきっていたことだがゾンビが多数。マップで正確に確認すると35体。これだけのゾンビに囲まれたら普通は諦めるか現実逃避してしまうだろうが、戦車や戦闘ヘリ等ゾンビが太刀打ち出来ない武器を持ち込んだり、あるいは俺のようにメニューコマンドの停止を利用すればこの程度は修羅場ですらない。
メニューコマンドを開くとゾンビ達の時間が止まり、その隙を見て引き金を引く。しかしそれだけでは殲滅は出来ない。当然と言えば当然だ。何せ弾切れしてしまうんだからな。その欠点をなくすのが『自動リロード』だ。弾切れを起こしたら僅かなタイムラグがあるとは言え、ほぼ一瞬で丁寧にリロードしてくれる。リロードが終わり、ゾンビ達の頭に銃弾を放つ。この作業を繰り返し続けていく。
『レベルアップしました』
『レベルが10になりましたので調合の項目にレシピが解放されます』
後数体倒すだけで全滅というタイミングで、レベルが上がり調合のところに新たな項目『レシピ』が加わる。
『レシピ』を詳しく調べると、調合に必要なアイテムとそれらを使って作成出来るアイテムの一覧だが、それを選択すると自動でアイテムを選択して調合してくれるというシステムだ。今まで、調合するアイテムを道具袋から選択しなくてはならなかったがそれによって時間が短縮された。
しかしレシピの調合アイテム全てが出来るようになった訳じゃない。灰色に塗り潰された項目があり、それを選択するとやはり『この項目はまだ解禁されていません』と表示された。おそらくレベルが上がる度にレシピの調合アイテムの一覧が加わるはずだ。
レシピの『全て』という項目を選択すると『全て』『通常アイテム』『回復』『武器』『銃弾&弾薬』と表示され『銃弾&弾薬』を選択すると銃弾と弾薬のリストが表示された。
「こいつは……!?」
まさか、いや間違いない。試しに『片手銃用銃弾』を選択し、『必要素材』即ちその調合アイテムに必要なものを見ると『弾薬×1』『石ころ×1』と表記されていた。これで必要な素材があれば銃弾補給も歩いてしなくても良くなるのに……などと無念があった為、弾薬の項目を見ると『必要素材』の項目に『ゾンビの死体×1』があった……おいっ!
「ゾンビの死体って本当か?」
なんというご都合主義。つまりゾンビを倒すほど銃弾が手に入るってことだ。もしこれが前までいた世界ならクソの役にも立たないシステムだがこの世界ではゾンビの死体なんぞいくらでも作れる為、かなり有能なシステムと言える。早速レシピにある弾薬の項目を選択して調合する。
『弾薬が作成されました』
その表示が出ると弾薬が作成されたことと道具袋にあるゾンビの死体がなくなったことを確認して、足元にあった石ころを回収して先ほどの弾薬と同じように片手銃用銃弾を作成するとすぐさま装備しているハンドガンにリロードされた。
まさしくゲームだ。流石にゾンビが直接銃弾を落とすのは無理があったんだろう。その演出の為のシステムがこれと考えると辻褄があう。…………いや待て。ゾンビゲームのゾンビが弾を落とす描写はほとんどなかった気がする。むしろRPGの分野だ。RPGでアイテムは稀に落とす程度だが経験値と金は確実に落とす。経験値はすでにメニューコマンドが拾い、俺のレベルアップの糧になっているが金は拾っていない。つまり、このゾンビこそがRPGにおける金と言える。
しかしゾンビが出るRPGはあるがゾンビしか出ないRPGってどうよ? 一番ゾンビ離れしているゾンビキメラにしてもゾンビだと一目で分かるのに、他の敵モンスターが出ないRPGなんかゾンビゲームとほぼ一緒だ。そんなRPGをやりたいとは思えない。やりたいと思えるのは変人か、そのゲームが神ゲーと呼べる内容かのどちらかだけだ。
『調合を20回以上実行した為、一括調合が可能になりました』
ゾンビを狩って、それを収納し調合の連続を繰り返すとメニューコマンドに新しく表示される。早速俺は『ヘルプ』を起動させ『一括調合』について調べる。
『一括調合とは、調合前のアイテムの数をそれぞれ増やすことによって調合後に出来るアイテムの数を増やすシステムです』
ようはこれまでのようにチマチマとやらずともまとめて調合出来ると言うことか。試しにレシピを開いて弾薬を選択すると調合後の数の項目が変更出来るようになっており、それを増やすと必要素材の項目にあるゾンビの死体の数が増えていた。ゲームが新しくアップデートされたみたいでますますこの世界がゲーム臭く感じる。
『セーブ処理が完了しました』
ゾンビの死体が弾薬になることや一括調合のシステム導入により、パワーアップ──しかもレベルアップの恩恵も受けている──した俺はゾンビが数多く存在する西側へ向かうことにした。
西側は東側とは違い、様々な施設がある。だからといってコンビニやスーパー等は人がいない為使える訳でない。使えるのは図書館や警察署、消防署だ。もっとも警察署と消防署は本来の使い方をするのではなく、資料や武器の回収だ。
資料についてだがこの廃れた街に資料があるとは思えない。だが何かしら痕跡は残しているはずだ。そもそも何故ここに人がいないのかがおかしい。いくらゾンビキメラが強いとはいえ、自衛隊によって処刑、もとい殺せたはずだ。だがゾンビキメラ以上の相手がいて失敗したのかあるいはゾンビが住民に被害を及ぼす程多く避難を優先させたのかは不明だが、街は廃れゾンビが徘徊するようになった。この世界が未来の世界じゃないにしても経験になる為、現場検証する価値はある。
俺は図書館に武器があることを期待していない。その代わり資料は膨大だ。マップを見る限りK村は警察署や消防署があっても図書館という施設がない程田舎だ。資料がないならネットで調べればいいなんて考えは甘い。ネットの情報は嘘だらけで信用が出来ない上に一つのページに載せる量に限界がある。要は膨大過ぎる情報量に圧倒されてしまうからいくつかの本を読んだ方が効率的だってことだ。
図書館に着くとやはりと言うべきか、図書館は屋根はあるものの窓ガラスが割れカラスがたむろするほど廃れていた。武器は元々期待していないが資料も無さそうだな……そんな絶望を胸に閉まい、中へ入る。
「ヴォォォオッ!」
ゾンビが扉を開けた瞬間叫び声を上げながら襲いかかる。その叫び声を聞いた瞬間、身を硬直させるものの、本能なのか俺はメニューコマンドを開いていた。
「……襲ってこないな」
身を硬直させてしまう程度に驚いてしまった俺は心を落ち着かせる為にゆっくりとハンドガンを構え集中する。集中すると心臓の音が遠くなり目の前にあるのは俺を襲おうとしたゾンビだけだ。そして引き金を引き、襲って来たゾンビの頭に銃弾が刺さるのを確認すると他多数のゾンビにも同じく銃弾を放ち、メニューコマンドを解除した。
威勢の良い銃声が響き、図書館が緑色の血に染まる。これで廃れた図書館でなかったらマナー違反も良いところであり、永久追放処分を言い渡されてもおかしくない。しかし幸いにも人がいないことでどんな行動を取っても注意されないし、追放処分も言い渡されない。
とにもかくにも、俺は行く道を防ぐゾンビを殺しながら図書館の本をありったけ回収する。その度に図書館の床や本が緑に染まる為、メニューコマンドの収納が使える範囲内である半径1mまで本棚に近づき本を出来るだけ収納してからゾンビに銃弾を撃つことにした。
「ろくな本がねえな」
図書館で収納した本はノンフィクションやラノベばかりで、役に立つかと言われれば立たないものばかりだ。しかも読めるのが奇跡とも言える程、黄ばんでおりボロボロだ。仕方ないのかもしれない。そもそもラノベはノンフィクションは娯楽品だ。カカオやコーヒー豆など趣向品の原材料を作っている国は発展途上国であり、先進国が貧しくなったら趣向品を減らし貿易で黒字にさせ、発展途上国のことを見捨てるという話を聞いたことがある。おそらくラノベやノンフィクションも同じ理由でこういうものがおいていかれたんだろう。娯楽品は対して生きるのに必要ではないからな。退屈するけど。
図書館の探索が終わった後、警察署にお邪魔させてもらう。近い未来自動車免許などで警察署にお世話になる予定だったが、図書館と同様に廃れ、誰もいない警察署に来ることになるとは予想もしてなかった。しかし図書館よりかゾンビが少ないお陰でいくらかマシだがそれでも鬱陶しい。
U字形の金具に2-3メートルの柄がついている道具を見かけ、それを手にする。これは刺叉──刺股、刺又とも書く──だ。この金具の部分で相手の首や腕などを壁や地面に押しつけて捕らえたり、先端金具の両端には折り返し部分を対象者の衣服の袖等に絡めて引き倒す際にも利用される。早い話が鎮圧用の武器だ。
この武器が必要不可欠かそうでないかと言われれば言われるほど必要ではない。しかし現在持っている近接用の武器の刃渡り20cmのナイフだけで満足出来るかと言われれば満足は出来ない。それに図書館のこともあってか、こういうものが役に立つと実感してしまいそれを手にしてゾンビを血のついている床に押し付けて拘束させてから銃の引き金を引く。床が緑色に染まるものの、立っていた時よりも拡散せずに済む。
「便利と言えば便利だが……微妙だな」
刺叉をメニューコマンドの装備品袋に入れ、ゾンビの死体を弾薬に変えて別の部屋に向かう。警棒や拳銃が目について収納するがとっくに使えない状態だった為に装備品袋ではなく道具袋に収納されていた。この調子じゃ消防署も武器に関してあまり期待は出来なさそうだ。消防署に時間をかけるよりも警察署をもう少し探索してみるか。
それではまた一週間後にお会いしましょう!