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第六話 未来:6

警察署内で得られた資料はほとんど使い物にならないものばかりだった。まあ廃れているだけあって期待していなかったから精神的なダメージはほぼないがそれでも手がかりはもっと欲しかった。……一応あるにはあったが、ごく少数だ。


そのうちの一つは、この街が廃れた原因についてだ。こう聞くと結構重要なものじゃないかと思うが【ゾンビ達がどこからともなく現れ一気に押し寄せてきた為、自衛隊と共にゾンビを処理するが住民■■■】としか解読出来ず、他の文書は赤と緑の血に染まっていた為に解読出来なかった。

つまりゾンビが一体、二体とこの街に徐々に増えてきたのではなく多数のゾンビがいきなり現れ、警察や自衛隊では手に追えず避難せざるを得なかったということだ。殺し損ねたゾンビが、住民を殺しこの街をゾンビ色に染めたという訳だな。


そしてもう一つ。【ゾンビに噛まれた者は数分後にゾンビになる】……ネットで書かれていたことだが、やはりそうだった。ゾンビゲーでは定番とも言える設定の一つだ。俺は何故噛まれた程度でゾンビになるのかが謎だが、この世界のゾンビも同じだ。嫌だ嫌だ。ゾンビに噛まれたら数分後に人生終了だぜ。死ぬまでに時間がある分質が悪い。メニューコマンドがなかったら、いっそのことさっさとゾンビにして殺してくれと願っただろう。


解読出来た資料は二つしかない、それも予想の範囲内だがそれでも一歩前進だ。この街は多数のゾンビに押しきられただけで、ちゃんと警察や自衛隊もゾンビを殺せたということだ。実際この解読した資料に付着していた緑色の血は俺がやったものじゃなく、別の誰かがやったものだ。そのせいで解読も出来なかったが、何せ百年以上も前の資料だ。むしろ解読出来ただけでも良しとしよう。




気持ちを切り替え、歩いて消防署に向かう。警察署の駐車場にあるパトカーを使おうとしても鍵はないし、それ以前に百年以上前のパトカーが使えるのかが不安だ。使えたら使えたで驚きだが、もう寿命だろう。

よく刀を持ったキャラが「刀の錆びにしてやる」というが、あれは刀に付着した人間の血が酸化し刀の錆びの原因となるからであって、ちゃんと手入れすれば錆びず長持ちするものだ。本人は威嚇のつもりで言っているんだろうが俺からすれば、武器の手入れもろくに出来ない馬鹿としか見れない。

話が逸れた。人間の血が付着していても使い物にならないのにゾンビの血が付着しているパトカーは素材になっても使い物になる訳がない。


……素材と言えば本当にパトカーは調合に使えるのか? それを確かめる為にも収納しておこう。ただ車サイズとなると今まで収納したのがゾンビキメラのみで、車サイズの無機物を収納するのは初めてだ。ワープ装置付きの車庫をイメージし、収納するとあっさりと出来てしまった。何でもありだな。

パトカーを収納するとメニューコマンドの道具袋を選択し、調合を選択するとそこには<パトカー>が黒色に染まらずに選択出来るようになっていた。俺はパトカーを使った調合に出来るものが気になり<パトカー>を選択すると全て他の調合出来ないアイテム同様に黒色に染まった。世の中そんなに甘くないってことか。これで調合出来たらどれだけご都合主義なんだと言いたくなるのをこらえ、警察署と目の先にある消防署の中に入る。


消防署も警察署同様に廃れ、資料も武器もありゃしない。そんな消防署に入った理由としてはレベルアップする為としか言いようがない。早速入り口付近にいたゾンビを殲滅するとレベルアップの表示がされ、レベルが上がった。……とにかく消防署内は図書館程ではないにしても多くのゾンビが徘徊している。レベル11まできたら普通のゾンビを普通に狩るだけではなく、徹底的に駆逐するくらいでなければレベルアップは望めないだろう。




そんな無茶に答えるかのようにレベル上げに専念し続けていたせいか、もう太陽が頂上から落ち始め、午後となった。


「ヤバイな……飯がない」


声に出してしまう程の緊急事態だ。これで食の細い社会人なら一食抜いても構わないのだろうが、俺は育ち盛りの高校生だ。腹が減っては戦は出来ないと言う様に、力が抜けていくのを感じた俺は頭をゾンビ殲滅から食糧調達に切り替える。

食糧調達をするには、元のK村に戻るのが一番良いのだがそこまで戻れる程余裕がある訳ではない。道を塞ぐゾンビが余りにも多すぎて、移動する距離がどうしても短くなってしまう。そんな状態が続くので集中力が切れ、ゾンビに弾が当たらない。当たらないからストレスが溜まり集中力を欠く……と言ったようにループしてしまう。

このループを脱出するには一つ。ストレスを溜めないことだ。食糧調達からゾンビ殲滅に頭を切り替えるとゾンビに妨害されるストレスをゾンビを殺せるという解放感に満たされた。切り替えた意味がねえ!


「ヒャッハー、汚物は消毒だぁーっ!」


興奮の余りアドレナリンが出てしまい、空腹だと言うことも忘れゾンビを殲滅させる為に敢えて奇声を上げゾンビがいる場所に突っ込む。

そしてそこにいたのはゾンビキメラ5匹とゾンビキメラ以上の大物の化け物だった。


「うひっ」


やべえ。こんな変な笑い声とアドレナリンがこれ程出たのは初めてだ……真っ先に殺せと興奮状態の脳が命令し、それに従う。いつも通りメニューコマンドを開き、目標目掛けて引き金を引く。


「ーーッ!」


まず最初に倒したのはゾンビキメラ達だ。邪魔な小物はさっさと消えて貰った方が有難い。小物を二体倒すと『レベルアップしました』と表示されたが無視し、小物を殲滅させる。

『レベルアップしました』

それだけでメニューコマンドが更に、レベルアップしたことを告げる。いくらゾンビを倒してもレベルアップしなかったと言うのにゾンビキメラを数匹倒すだけでレベルアップするとなるとゾンビキメラはやはり強かったのだと認識する。小物が緑色の血塗れの肉団子となってしまったことに狼狽えている大物はどれだけの経験値を獲得出来るのだろうと期待してしまう。


大物の特徴はカボチャみたいなゾンビキメラを巨大にさせ脚を8本付け足した化け物だ。しかもその脚はゾンビが組み合わさって蜘蛛の脚のようになっている。はっきり言えばキモい。ゾンビキメラも大概だがこいつはゾンビを使っている数が半端じゃない。数えるのも億劫になるくらいだ。しかし数えるのが億劫になっても倒すに当たってストレスになるわけではない。むしろ逆。アドレナリンが出ているせいか胴体についている頭を潰す度に悲鳴を上げるから楽しくて堪らん!


「ギャァァァァッ!」


頭を潰しメニューコマンドを開く度にこの悲鳴を聞ける。本来であれば非効率極まりない愚行だが、実に快感! まるでFPSの対戦相手のガキが俺に負けて発狂するかのような悲鳴で楽しい。だがこの程度で満足する俺ではない。今度は頭を一つずつから二つずつ潰していく。


「くぁwせdrftgyふじこlp!」


更に何を言っているのかわからないが、苦しんでいることだけはわかる。そんな悲鳴を聞いて実に心地好い。だがその悲鳴も快感に聞こえるのもここまでだ。タイムリミットだ。それまで蛇口から水を出すように出ていたアドレナリンが出なくなり、急に冷めてしまう。

冷めてしまった俺はカボチャの部分や脚の間接部分にあるゾンビの顔に向け引き金を引く。その数30発。弱点を狙ってしかも弱り果てて、カボチャみたいな身体にこれだけ受けてようやく死ぬ生命力は大したもんだと誉めてやる。


『レベル15にレベルアップしました』

レベル14になる過程をすっ飛ばして15にレベルアップ。今の状態では小物とは言えゾンビキメラでもレベルアップするには最低三匹以上必要だと言うのに、大物は一体でそれを補うどころかレベルを二つも上げさせた。単純に計算しても6倍超の経験値を持っていることになる。レベルが上がる度にレベルアップに必要な経験値も増えることを考慮すると10倍くらいかもしれない。そんな相手に余裕でメニューコマンドに感謝すべきなのか、わからないもんだ。


マップを見て周囲にゾンビがいないことを確認しゾンビキメラ達の死体を収納する。ゾンビキメラの大物一体と小物一体だけを残し、後は弾薬に変え駅へと向かう。

これ以上ここに居てもやることはない。というか腹が減ったから元々帰る予定だったんだ。それをこのゾンビキメラ達が道を塞いだからやむを得ず、アドレナリンを出して倒しただけのことだ。お陰でしばらくの間アドレナリンを出せなくなるが、収穫は大きかった。この世界はスタンダードのゾンビやゾンビキメラ、そしてゾンビキメラ(大)が日本や世界を侵略したことが判明しただけでも十分と言える成果だ。




K村に着き、目を覚ました家に戻る。冷蔵庫には何故か食材があり、飢えていた俺はそれを使って調理する。調理と言ってそう難しいものではない。冷奴に納豆ご飯、そして茹で卵3個と余程の料理音痴でない限り出来るものだ。飢えているのだからもっとボリュームのあるものを食いたいがいきなりボリュームのあるハンバーグやステーキなんかを食べたら油濃っ過ぎて逆に吐いてしまいそうだから止めた。最初は身体の消化に良さそうなものを調理して食べた後、別のものを調理する。その方針で食べることにした。


「うむ。旨い」


やっぱり疲れた身体にはこういう詫び錆びの効いた料理が身体に染みる。空腹こそが最高の調味料というのは世界共通認識であることを噛みしめながら、豆腐の冷奴につゆをかける。……つゆと言えば去年の事件を思い出すな。

そう、あれは去年行った修学旅行の時だ。班の中に豆腐に醤油の代わりにつゆをかけることに真っ向否定した奴がいて、そいつとは大論争し、部屋の中でも大喧嘩したんだ。あまりの騒ぎにそいつだけ部屋を変え、別の場所で寝たらしい。らしいというのは同級生や教師達の大半──その大半以外も女子のみでそいつ以外の男子は全員賛成派だ──がつゆを醤油の代わりに使うことに文句を言わないので、文句を言わない女子の場所で寝たという噂が流れたからだ。もちろん本人は否定していたがそれが真実であるかはわからない。永遠に闇の中だ。

そんなアホな事件だが、修学旅行一番の思い出となったことに違いない。修学旅行という単語を聞くだけで真っ先に思い出すからな。


次に調理したのはお好み焼きだ。小麦粉、卵、油、キャベツ、人参、牛肉を使い、楽に作れかつしかも手頃な料理と言えばお好み焼きだ。いや俺の場合もどきだな。あれは焼くというよりも、揚げるものだ。どちらかといえばかき揚げ……?

俺のお好み焼きは小麦粉に対して水の分量を多くし、液体に近い状態にしてフライパンで焼く。ある程度焼けたらひっくり返し、三十秒ほど経過させると油をお好み焼きの表面まで浸す程度まで入れきつね色になるまで揚げる。そして再びひっくり返し同じ事をやるとかき揚げのようなお好み焼きが出来上がる。


「何でこれがお好み焼きじゃないんだ?」


揚げたことにより、ソースやマヨネーズなどの調味料が不要になるほど旨く出来上がるだけではない。凍りついていた牛肉はお好み焼きの元となる液体によって焦げることもなく、絶妙な温度を生み出し肉汁が溢れ飛び出てくる。

これを最初に作った時はソースやマヨネーズ不要の究極のお好み焼きが出来た! と感動していたが、お好み焼きの定義によると水の量が適量でないとお好み焼きとは言えない為にお好み焼きではないそうだ。それ以前に揚げているからお好み焼きではなくお好み揚げと名付けられるだろう。


そんな馬鹿なことを考えながら食事を終えるとこれまでのことを整理しながら冷蔵庫を収納した。冷蔵庫を収納した理由は至って単純だ。焼いた食パンを収納して暫く経っても出来立ての焼いた食パンのままだった。そう、道具袋にあるアイテムは時間の影響を受けない。それが冷蔵庫を収納した理由だ。冷蔵庫の中には食材があり、それを一々出して収納するのも面倒なので冷蔵庫ごと食材を収納したと言う訳だ。しかし時間を止めるということは冷やすという作業も止まってしまう為に収納後は冷蔵庫を選択し、食材や氷などの中身を全て取り出しもとの場所に戻した。


逆もしかり。暖める作業も出来ない。出来立ての料理を収納しておけば良いのだろうが、それだとレトルトを食べているようになるような気がして気が引けるんだよな。

いつでも調理が出来るようガスコンロなどの日用品の買い物をしようとすると金を持っていないことに気がつき、顔を顰めながらベッドでふて寝した。

それではまた一週間後にお会いしましょう!

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