第四話 未来:4
無人電車に乗り、退屈しのぎにメニューコマンドを開き新しく解禁された『設定』を選択する。設定の中には『マップ表示』『自動リロード』『時計機能』の三つと解禁されていない項目があるのを見てうんざりとする。
「またかよ……」
何故うんざりするかだと? 解禁されていない項目があるってことはチュートリアルをまたやるハメになるからだ。今やらずともいずれ鬱陶しいチュートリアルをやると思うと憂鬱になる。しかし気持ちを取り戻し、それらの機能を一つずつ見ていく。
まず『マップ表示』だ。この表示を選択すると更に『常にマップ表示 OFF』『自動マッピング OFF』と表示され『常にマッピング表示』を選択し『OFF』から『ON』へと切り替え、『自動マッピング』も同様にし『ON』に切り替え、試しにメニューコマンドを閉じると目の前にマップが表示されるのではなく頭の中でマップが表示され、自動でマップの道などの細かい部分が書き加えられる。縮小率からして自動マッピングで書き加えられる範囲は自分を中心とした円の半径100mあたりだと推測出来る。やはり便利な機能だ。こんな機能をデフォルトでOFFにするなんて結構酷いじゃないか。退屈潰しにやっておいて正解だ。
次に手を着けたのは『自動リロード』だ。この項目についてわからない、というか予測できないことが多い為、メニューコマンドの『ヘルプ』に尋ねる。
『自動リロードをONにすることで弾を拾うことでその弾を装弾出来かつ装備している銃や装備袋にある銃を自動でリロードしてくれます』
なるほど。流石ヘルプ機能。仕事してやがる。早速『自動リロード』を選択して『装備品のみON』に切り替えた。いちいち手動でリロードするよりもこちらの方がやり易い。何せ弾を拾うだけでリロードしてくれるんだからな。
そして最後の『時計機能』について選択すると上から順に『日本時間』『未来時間』そしてまたもや未解禁状態の項目が出てくる。この未解禁なのは一体なんなんだろうか? 試しにこの項目を選択──『この項目は未解禁です』……ああ、わかっていましたよそう反応することくらいは。試しただけだ。と、なればこの『未来時間』を調べる必要がある。そして『未来時間』を選択すると驚愕の時刻が表示されていた。
『西暦2190年4月9日午前7時30分36秒』
これだけ見れば極普通かも思うかもしれない。だが俺はその違和感に気づいた。だがそれが間違って欲しい。そう思い、戻って『日本時間』を選択すると予想通りの答えが帰って来た。
『西暦2018年4月9日午前1時15分6秒』
そう。『未来時間』と書かれたにも関わらず、『未来時間』の時刻は今現在、この世界時刻を示しているのに対して『日本時間』は就寝後の時間だ。これはつまり脳が夢を通して現実の時間を教えているか、メニューコマンドがここが正真正銘未来だと教えてくれているかのどちらかだ。
前者はあり得ない。夢で痛覚は刺激されないから無理だ。後者と考えるしかないんだよな……物凄く嫌だけど。日本がこんなゾンビだらけの世界になるんだぞ? よほど日本が嫌いでもない限り日本人なら誰でも嫌に決まっている。しかも百年以上も経って未だに解決していないんだ。地球温暖化問題よりもこっちを優先してくれと言いたくなるくらい何もしなかったんだろうな。
そんな感想を抱きながらも俺はどちらも『常に表示』にしておいた。
そしてメニューを閉じて、あることに気づく。それは日本時間の時刻が動かないということだ。いや、動いていることには動いているが秒針の進む速さがあまりにも遅い。
試しに未来時間の時計で何秒間に一秒動くか比べた。その結果、六秒に一秒の感覚で日本時間の時計は動いていることがわかり、ここの世界とおそらく俺がいたであろう日本とでは時間の進みが違うんたろう。中学時代の学友からこんな話を聞いたことがある。
「僅か数分寝てしまったのにも関わらず、18時間活動した夢を見た」
18時間は睡眠時間のないおおよそ一日の活動時間。そりゃナポレオンみたいに睡眠時間が極端に短かったり、某破天荒警官が出てくる超能力者のように極端に長かったりするとまた話は変わってくるがだいたいの人間の活動時間は一日18時間あたりだ。つまり僅か数分でほぼ丸一日分の活動したように感じたんだ。
これは夢だと改めて認識し、未来世界の時計を見ると『西暦2190年4月9日午前7時31分9秒』と脳内で表示されていた。
時計を設定し数分後、近くの駅につくと意外にもゾンビがいない。しかしマップをみる限りでは駅の改札口──運転手も不在なので改札口が必要なのかどうか疑わしい──付近を包囲するように徘徊している。何故駅のホームにゾンビがいないのかが謎だが改札口付近に大量のゾンビがいるのは確かで、そいつらを仕留めなくてはならない。別に正義感に駆られたのではなく、これをやらなければ前へ進むことが出来ないからだ。
俺はホームから改札口付近まで歩き、マップで確認出来る範囲内にいるゾンビを見る。西口よりも東口の方が比較的少なめに見えるが、どうしたものか。時間と弾を使う代わりに経験値を取るか、それとも短時間で先に進むかだな。
「こういう選択肢を迫られるあたりマジでダンジョン物だな」
ダンジョンというよりもゾンビゲームそのものなんだが、と一人でツッコミながらメニューコマンドを起動し西口の方にいるゾンビに狙いを定める。
視野が狭くなるのはよろしくないが、メニューコマンドがあることでこうやってゾンビを楽に倒せるんだ。本音を言えばメニューコマンドが鬱陶しいので少しズラし……おお? 本当にズレた。なんだよ。ズラすことが出来るなら早く言って貰いたいもんだよ。これで視界が広くなり、生ぬるいゾンビゲーから超生ぬるいゾンビゲーとなる。リアルはクソゲーというが今ほどそれに反論したくなる気持ちが芽生えたのは初めてだ。
そんなこんなでゾンビを倒しまくると『レベルアップしました』と二回ほど表記され、レベルが上がったことを知らせる。まだ西口のゾンビしか倒していないのにレベルアップ、それも二回もか。東口のゾンビも一応倒しておこう。
「しかし駅での人とのエンカウント率がここまで酷いとは思いもしなかったな」
どんな田舎でも必ずと言っていいほど駅周辺なら人と出会う。少なくとも俺の体験上、駅におりて他の人と遭遇しなかったという例はない。しかしゾンビが現れたことで避難した先から外に出るものがいなくなり、電車を使う物もいなくなってしまったんだろう。それだと運転手もいない無人電車があるのは非常識としか言いようがないがあるものは仕方ない。……話を戻す。とにかく駅というのは人が集まりやすいところだ。駅近くというだけでその土地の値段も上がるし、賑わいもする。しかし今現在賑わいを見せているのはゾンビだけで駅周辺にいる人間はマップを見ても俺だけという有り様。これを嘆かずしてどんな時に嘆けばいい?
「感傷的になるのはよそう。今はこいつらを倒すことだけを考えればいい」
俺はそう呟き東口にいるゾンビを殲滅させていく。敢えて口に出すことで体がその通りに実行する。これはちゃんと科学的に実証されている。とある科学者、いや心理学者だったか自分の体で溜息を吐き続けるとどうなるのか、あるいは笑顔でいるとどうなるのかという実験をした。前者はうつ病になり、後者は明るくなるという結果が出た。言葉でも同様の結果が出ており、暗示染みた効果を得ている。言うなれば自己暗示の一種で誤魔化しているにしか過ぎないが、気休め程度には効果はあるので実行する。
銃声音が響き、メニューコマンドを解除すると東口にいたゾンビ達が一斉に倒れ、床を緑色に染める。
「なんでゾンビの血は緑色なんだ?」
今更そんな疑問が浮かび、思考しながら弾を補給しに向かう。普通血ってのは鮮やかな赤か赤黒いもんだろ。ところがこの世界のゾンビ達の血は緑だ。ゾンビにしかないってことはゾンビになる原因がこの緑色の血にあるってことだぞ。これを研究すればゾンビの特効薬なんてすぐにでも作れそうなものだが、上手くいっていないんだろうな。上手くいっていればこんな世紀末みたい──実際二十二世紀末期、だというのにドラ○もんは実在しない──に廃れるものか。まあ上手くいっていたとしても日本国内よりも先に海外連中が研究に成功して、日本相手に吹っ掛けるイメージが湧いてくる。どっちにせよ大迷惑な話だ。
「……試しにゾンビを収納してみるか?」
もしこの世界が本当に未来だったら動かないゾンビを収納し元の世界に持ち帰れば、ゾンビのいる世界に行っていたことの証明になる。だがあまりにもリスクが大きい。まともな科学者にそれを渡してゾンビの特効薬を開発出来ればいいが、ゾンビを利用した兵器を作らせる悪人にゾンビが渡ったらと思うとこの世界、いやそれ以上に悲惨なことになる。現時点の結論としては「収納はするものの、取り出し厳禁」だな。そもそも現実世界でゾンビを取り出せるとは限らないからまたその時に考えてみるか。
そう結論付けた俺は複数のゾンビを収納し、ゾンビがいないかマップや自分の目で周囲を見渡し確認しながら西口から出てしばらく歩くと、街が見える。いや街だったものだ。アパートや一軒家、そして駅のマンションがあることからここはK村よりも田舎ではない。だが気がかりなのは廃墟の多さだ。不自然なほどに多い。よくこれまでK村が無事だったのかが不思議なくらいだ。……おっと、ゾンビがいるな。それじゃやるか。
今度のゾンビ2体は明らかに異質。腐敗した体を組み合わせたカボチャのような体に5つの人間の頭と20の手足をくっつけたグロテスク過ぎる化け物。ここまで来るとゾンビというよりゾンビキメラと名付けるべきだ。日本じゃキメラ──二種類以上の動物が組み合わさった合成獣──は鵺──平安時代の妖怪。顔は猿、体は狸、手足は寅、尾は蛇という妖怪。他にも干支の示す獣の合成獣等多数の説有──と同意義にされることもあるが、この見た目を見て鵺と呼びたくない。そんな奴が二体もいる。
「とりあえずくたばれ」
恒例とも言えるメニューコマンド停止状態での一斉射撃。メニューコマンドを解除するとそれぞれについていた頭が潰れる。だが俺は油断しない。メニューコマンドを開き、敵シンボルである赤い丸シンボルが消えていないことを確認するとメニューコマンドを解除してすぐにバックステップをして距離を取る。
弱点は頭じゃないか……そうだとすると一体どこが弱点なんだ? と心の中で疑問にするとメニューコマンドが勝手に作動し『ヘルプ』が選択された。
『ゾンビの倒し方は一定のダメージを与えることにより倒せます。頭や心臓を銃を撃つことで大抵のゾンビが死に、残り少数のゾンビでも大ダメージを与えることが出来 ます』
ああ、そう言えばそんな解説してたな。つまりこいつが残り少数のゾンビってことか。そのくせチュートリアルが出ないということはチュートリアルはもうないと見なしてもいいのだろう。
とにかくこのゾンビキメラは体力はさほど残っていない。ハンドガンでも胴体に数発撃つだけで死ぬだろう。銃声音がその場に響き、緑色の花火がその場に打ち上がった。
「汚ねえ花火だ」
半分ネタ、半分本音の呟きを拾うのはただ一人、俺だけだ。
『レベル8にレベルアップしました』
レベル4から8か。こいつはどんだけ格上だったんだ? いや、俺の認識が間違っているのか。これは紛れもない現実。たまたま倒せたからよかったものの本来であれば倒せない相手だったんだ。少なくともメニューコマンドなしでかつレベル1──つまり恩恵を受ける前──の状態で勝てと言われたら無理だろうな。日本、いや自衛隊はこれよりも恐ろしい敵を食い止めていると考えると善戦している方なのだろう。そんなことを考えながら更にもう一体倒すと『レベルアップしました』の表示が浮かぶ。
「一度、調査してみるか」
独り言がやたらと多いのはこれもそれも皆俺の怠け癖のせいだ。俺は怠けやすいからこうやってやることを口にしていかないと面倒になってやらなくなる。それを防ぐ為に独り言、あるいは呟いてから実行している。
調査すると決めたからにはこれ以上ここに居ても仕方あるまい。ゾンビキメラを回収したらセーブして他の場所に向かおう。
それではまた一週間後お会いしましょう!




