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スタニング・ワード⑤

 「ちわーす」


 緊張感の欠片もない声が出入口から聞こえると、町でもよく目にする配送業者の服装をした男がカウンターまでやって来た。顔を見合わせて互いに「げ」と声に出すと、向こう側からばつが悪そうに声をかけてくる。


 「菊池、おま、なんでここに」

 「こっちの台詞だ。学校サボってバイトとはいい身分じゃないか」

 「お前だって授業中だろ。学校抜け出してサボってる方が罪だぜ。オレはちゃんと休むって言ったからな」

 「それどころじゃないからここにいるんだよ」


 なんてことはない。二人目の配送業者は俺の悪友だった。かたや進学よりも目の前の金目当てに学校を休む者、かたや他人のために学校を抜け出している者。どう考えても分は俺にある。


 さっさと本来の用事を済ませようと悪友は店員のもとへと挨拶しにいった。すぐに気づいた店員も会釈するが、悪友の顔を見るなり電話を切るとみるみる表情が青くなっていく。


 「あの、依頼の返品分を受け取りにきたんですけど、いつも通りストックにあるやつを持っていけばいいすか?」


 悪友の声に放心していた店員は、目を覚ますようにはっと目を見開くと急いでカウンターに戻って帳簿を開いた。中にあった伝票を確認すると、すぐに悪友に問い質す。


 「さっきもおたくを名乗る業者が来て……ストックから商品を持っていったんだけど」


 差し出された伝票を受け取った悪友は、学校では見せたことのない真剣な顔で印鑑を指す。


 「ここ、うちは会社のハンコと配送員のサイン両方必要なんすよ。でもこいつはハンコしかない。ちょい待ってください」


 業務用のPHSで電話をかけた悪友は敬語で相手と会話のやりとりを始めた。ものの二、三分で電話は切れたけど今度は悪友の表情が芳しくない。


 「やっぱりオレ以外によこした奴はいないって。あと、このエリア一帯で不正業者の盗難が相次いでるそうです。密輸が横行してるみたいで……社長がそれだったらいけないから聞いてくれって」


 矢継ぎ早に店員は引き出しを開けて在庫を確認していった。ひとつ二つ三つ、狭い店内のすべてを開け終えると、真っ青な表情のまま、彼女は大きく溜息をついて悪友に告げる。


 「やられたわ。高い商品のストック、ほぼ全部取られてる」

 「うちの会社、警察と連携してるからすぐに通報できますよ。盗難された商品、リストアップできますか」

 「おおよそなら」


 失望の表情で店員は帳簿の裏側に商品名を書いていく。


 「ごめんね。カッツェ・シュガーってその辺の砂糖と訳が違うの。心まであったかくなるような甘さがあって、最高の笑顔を届けられると思ったんだけど」


 力なく謝る姿が痛々しい。なんとかならないのか。なにかしてあげられないのか。力も時間もないけど、どうにかして俺ごとき高校生でも力になれることがないだろうか。


 ここに来るまでの道のりと、店員が与えてくれた大人の優しさ。それらを思い返す俺。同じ映像を頭の中で何度も回想していると、胸にぴりっと電撃が走る。


 「小出川、ここに来たとき対向車で軽トラ走ってなかったか」

 「軽トラ?いや、見てねえぞ」

 「ここから市街地までのルートはたった一本。向こうに着くまで数十分はかかる。それもついさっきの出来事だ。お前の記憶が正しいなら絶対にすれ違うはずだ。ってことは、犯人が逃げたのは市街地じゃないってことにならないか」


 二人の両目が真開きになると、揃って「ああ!」と声を上げる。


 「店員さん、こっから市街地以外にも逃げ道はあるんですか?」

 「いえ……あっちは行き止まりのはずよ。港で行き止まりになってるもん」

 「それだ!」


 今度は俺と小出川が声を揃える。男二人が揃うのはなんか気持ち悪い。ただ、お互いにやろうとすることは理解している。


 「手伝え菊池。助手席が空いてる」

 「任せとけ」


 小出川に続いて店を出ようとした俺は、ふと立ち止まると、カウンターに戻って諭吉を渡すと、カカオマスとバターをポケットに忍ばせる。


 「シュガーも盗まれたもんも必ず取り返してきます。待っててください」

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