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佐藤沙織 診療所の朝
沙織の目に診療所の白い天井がぼんやりと視界に映っていた。
薬草と消毒薬の匂いが鼻をくすぐる。廃屋の煤と湿気に満ちた空気とは違う、清潔で穏やかな匂い。
隣には、毛布にくるまった陽一が寝息を立てていた。診察室の奥から、吉川先生が俊夫の処置をする気配が伝わってくる。
運び込まれたとき、戸の先には小さな土間があり、上がり框の先が待合室になっていた。診察室はその正面で、廊下の奥には三台のベッドを並べた入院部屋、さらに進むと吉川先生の住まいへ続いている。
暗い廃屋から連れ出されたばかりの沙織には、靴を脱いで上がるという当たり前の所作だけで胸が震えた。自分たちはもう牢獄の中ではなく、人の暮らす場所に入ったのだ――そう思えたからだ。




