村の日々 参
三つめの穴を掘ったとき――
梓の指先が、冷たいものに触れた。
土の中で、白い球体が覗いている。それは瞬きもせず、赤い筋を走らせながら、じっとこちらを見つめていた。
――それは、人の眼球に見えた。
「……え!?」
心臓が一瞬、音を忘れる。
生々しくぬめりを帯びて、赤黒い筋が走るその球体は、どう見ても人のもの……眼球だった。
「……き、清音!?」
隣で黙々と草をむしっていた清音に、梓は震え声で呼びかけた。
「なに?」
清音は平然と覗き込み、ふっと笑った。
「よく見てみて? 本当にそんな物が見えるの?」
いわれて見直すと、土の中にはそんなものはなく、ただの小さな新ジャガの塊が埋まっていた。
「まだ小さなジャガイモよ。梓は慌てものやね?」
言われて見直すと、そこにはただの小さな新ジャガの塊があった。切り裂かれた根がにゅるりと伸びているだけ。
「あービックリした!!」
ふふ、と清音が笑みを浮かべる。
背後であゆみが「見て! こんな大きいの出たとよ!」と叫び、健太が図鑑を広げて「やっぱりこの品種じゃな」と確かめ、美穂が土を払って籠に並べていく。笑い声が重なり、梓の胸も再び温かく揺れた。
§ § §
籠いっぱいの野菜を抱えて、子どもたちの笑い声が響く。トマトをかじれば赤い果汁が唇を濡らし、胡瓜は驚くほどみずみずしい。
「冷たうてうまいじゃろ!」
あゆみが声を張り、健太も「うまかね!」と笑い、美穂も「みんなようけ頑張ったけぇな」と肩を叩く。
梓はその輪の中で息を弾ませながら笑った。
――この村で、自分はもう一人ではない。
けれど土の中で一瞬見た白い球体の違和感だけは、梓の指先にぬめりのように残り続けていたのだった。




