断片資料|二通のカルテ
【東京の吉川の自宅において発見。同一患者の複写版が二通、日付を同じくして保管されていた】
【〇〇病院 小児科病棟】
患者名:虚木 真弓(一四歳・女性)
病名:急性白血病(寛解)
担当医:吉川直樹
八月十二日 二十三:四十五
血圧:百十八/七十二(安定)
脈拍:七十八(正常)
体温:三十六.八℃
SpO二:九十九%
患者、経過良好。自覚症状の訴えなし。
所見:
血液検査上、特記すべき異常所見なし。
本日をもって寛解と判断。
特記事項:
患者は家族の意向により転院。
以後の経過は不明。
§ § §
【〇〇病院 小児科病棟】
患者名:虚木 真弓(一四歳・女性)
病名:急性白血病
担当医:吉川直樹
八月十二日 二十三:四十五
血圧:九十二/五十八(低下傾向)
脈拍:百十(頻脈)
体温:三十八.二℃
SpO二:九十四%(酸素投与下)
患者より「息苦しい」「お腹が痛い」との訴え。
腹部触診にて圧痛あり。
至急、血液検査実施。
結果:
白血球 八百/μL(著明な低下)
CRP 八.二(上昇)
血小板 二.一万/μL(危険域)
所見:
敗血症の可能性を強く疑う。
ICUへの転送を検討中に、患者が「笑い出した」。
声は出ていないが、表情が不自然に引きつっている。
直後、心停止。
蘇生措置を試みるも、二十四:十五 死亡確認。
特記事項:
遺体の腹部が異常に膨張しており、切開したところ、
中から大量の「赤い肉状の組織」が溢れ出した。
病院側の指示により、即座に火葬。記録は破棄されたはずだった。
――同じ日付、同じ患者、同じ筆跡。だが、内容はまるで別人のものだった。
どちらが、本当に自分の書いたカルテなのか。吉川には、もう分からなかった。
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