断片|巫女相伝之書
【古びた和綴じの冊子より。代々の清音にのみ受け継がれるとされる】
これは、次の清音へ。
あなたはもう、庭の隅や、畑の畦や、井戸端の暗がりに、目を見た筈です。
驚くことはありません。あれは、にくゑ様の目。あなたの目でもあります。
にくゑ様は、村の地の底に、幾筋もの根を伸ばしておられます。
根の先には、目があり、耳があり、時に口もあります。畑の土の中、床下の暗がり、道端の石の裏。数えきれぬほど、村中に散っています。
巫女は、にくゑ様と血を分けた者。望めば、その根の先――目や耳を、自らのものとして使うことができます。
目を閉じ、根を辿るように心を伸ばせば、村のどこであろうと、そこにいるかのように見え、聞こえます。
*
もう一つ、伝えねばならぬことがあります。
にくゑ様の根が張り巡らされた場所――その内側であれば、巫女は歩まずして、そこへ渡ることができます。
目を通した先の場所へ、まばたきの間に、身一つで届く。外の者にはとても信じられぬことでしょうが、これも血の恵みです。
*
ですが、よくよく心得ておきなさい。
目を使うたび、耳を使うたび、渡るたびに、あなたの内で何かが少しずつ、にくゑ様の方へ傾いていきます。
多く使えば使うほど、同化は早まります。若くして目が増えた清音も、多くはこれが理由です。
必要な時にのみ、短く。
それが、長く人でいるための、たったひとつの心得です。
*
この冊子を読んだあなたも、もうお分かりでしょう。
私たちは、見られているのではありません。
私たち自身が、見ているのです。
――先代 清音




