夜の逢瀬 参
二人の体が重なった。
境界が曖昧になってゆく。
ただ、熱だけがあった。
脈打つ鼓動。
荒い息。
絡み合う肢体。
清音の体中の目が、すべて開いている。
それらすべてが梓を見つめ、そして――涙を流していた。
透明な涙が、目という目から溢れ出し、肌を濡らしてゆく。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
清音が泣きながら謝る。
けれど体は梓を求め続けている。
梓は清音の涙を舐め取りながら、もっと深く、もっと強く抱きしめた。
「謝らないで」
梓の声が震える。
「私も……私も同じだから」
罪人同士。
いや、私の方がもっと。
梓の指が清音の肌を這う。
冷たい肌が、触れる場所から熱を帯びてゆく。
清音の脚が梓の腰に絡みつく。
二人はもっと、もっと深く求め合った。
何度も唇を重ね、何度も名前を呼び合った。
月が傾き、部屋の中の影の形が変わってゆく。
清音の体が梓の腕の中で震え、梓もまた清音に身を委ねた。
波が押し寄せるように、快楽が二人を襲う。
それは愛であり、罪であり、そして――業だった。
清音が梓の名を叫ぶ。
梓も清音を抱きしめたまま、その波に飲み込まれてゆく。
禁忌の血が、体中を駆け巡る。
姉を抱く妹。
妹に抱かれる姉。
片方は知っている。
けれど、もう止まらない。
止める気もない。
やがて波が引くように、二人の体から力が抜けていった。
汗が冷え、呼吸が落ち着いてゆく。
清音の頭が梓の肩に預けられ、規則正しい寝息が聞こえてくる。
梓は清音の髪を撫でながら、その体中に宿る目を見つめた。
目はすべて閉じていた。
満ち足りて眠る子どものように。
梓は清音をそっと抱き寄せる。
この温もりを、忘れたくなかった。
――姉さん。
心の中で、そっと呼ぶ。
――ごめんなさい。
――でも、愛してる。
窓の外では、月が西へ傾きかけていた。
夏の夜は、まだ深い。
どれほどの時間が過ぎたのか分からない。
けれど、確かに二人は結ばれた。
肉体も、心も、罪も。
清音が身を起こした。
乱れた髪の隙間から、月明かりが肩を照らす。
体中の目は、もう見えなかった。
まるで最初からなかったかのように。
二人は身繕いをして、起き上がった。
快楽の余韻が、まだ体に残っている。
「見せたいものがあるの」
清音が梓の手を取った。
「梓には、もう全てを知って欲しい」
「うん」
梓は頷いた。
「教えて。全部」
清音の手は、まだ少し冷たかった。
その手に引かれて、梓は家を後にする。
暗い夜の村を、二人は手を取り合って歩いて行った。
「どこへ行くの?」
「道を外れる。けれど、怖がらないで」
清音が振り返る。
「あなたを待っている人がいるの」
「待っている人?」
「そう……だから行きましょう」
二人は山へ続く小道を歩き始めた。
――この道は……洞窟に続く道。
清音が振り返る。
その瞳の奥に、決意の光が宿っていた。
梓はその背中を見つめながら歩いた。
手のひらの温もりを確かめるように握りしめる。
――あの森の奥に、何が待っているのだろう。
月明かりの空に、夜鳥の声がひとつ響いた。
二人の影が、山道の闇に溶けていく。




