↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にくゑ【ある世界が終焉を迎えるまでの道程。そして――】終焉の探偵  作者: カクナノゾム
第一部 にくゑ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/192

夜の逢瀬 弐

 清音の声に感情が混じる。

 寂しさ、恨み、それでも愛情。


「だから、あなたも――」

「嫌」


 梓は清音の手を握った。


 冷たい。

 けれど、生きていた。


「あなたを一人にしたくない」


 清音の瞳から涙がこぼれた。

 お腹の目からも、涙が流れた。


「でも時間がないの。私、もう――」

「にくゑって何?」


 梓は清音を見つめた。


「どうすれば、あなたを助けられる?」


 清音が微笑んだ。

 その笑顔が、切なかった。


「にくゑ様は昔、この村を救った。飢饉の時、土地神が与えた肉の神……でも祈りを失えば、すべてを食い尽くす。だから巫女が必要。でももう――」


 言葉が途切れた。

 月光が弱まって、二人の影が重なる。

 清音は巫女装束を脱ぎ去った。白い布が床に落ちる。緋色の袴が、静かに広がる。

 その姿を、梓は息を呑んで見つめた。

 両手で身体を抱きしめる清音。震えている。


「これが……私」


 背中にも、幾つもの目が浮かんでいた。


「うん」


 梓はそっと近づいた。


「それでも、あなたは清音」


 清音の額に、唇を寄せる。


「私の、大切な人」


 ――姉。

 ――愛する人。


 心の中で呼ぶ。

 言葉にはできない。


 清音も泣いている。

 二人は泣きながら、抱き合った。


 やがて清音が囁いた。


「触れて……いい?」


 梓は頷いた。


 清音の手が、梓の頬を撫でる。

 その指先の冷たさが、胸の奥まで染み込んでくる。


「あなたは特別」


 清音の声が震える。


「私の力が効かない。にくゑ様の神薬も効かない。どうして?」


 梓は答えられなかった。


 ――それは、私が禁忌の子だから。

 ――歪んだ命だから。


 でも、その言葉は喉に詰まる。


「分からない」


 梓は嘘をついた。


「でも、こうしてあなたと一緒にいられるなら、それでいい」


 清音の瞳が揺れた。


 そして――唇が重なった。


 最初は触れるだけの、儚いキス。

 けれどすぐに、それでは足りなくなった。


 清音の唇が開く。

 梓の舌を受け入れる。


 甘い吐息が混じり合い、互いの熱を貪るように深く、深く重なった。


 罪の味がした。

 甘く、苦く、そして――もう引き返せない。


 清音の指が梓の襟元に触れる。

 ボタンが外れてゆく。


 布地が肌から離れる。

 白い首筋。

 鎖骨。


 清音の肌は冷たかった。

 けれど梓が触れる場所から、確かに熱が生まれてゆく。


 梓の手が清音の背中に回り込む。

 肩甲骨を辿り、腰へと滑り落ちる。


 指先が、何かに触れた。


 背中の、肩甲骨のあたり。

 肌の下に――小さな"目"。

 閉じていた。


 梓は手を止めなかった。

 指をそっと滑らせ、その目を包むように撫でる。


 瞬間、目が開いた。

 梓を見つめている。


 清音が震え、梓の名を呼ぶ。


「見ないで……こんな、醜いもの」

「醜くなんかない」


 梓は清音の背中に唇を寄せた。

 その目に、優しくキスをする。


 ――これも、あなたの一部。


 梓の胸の奥で、何かが疼いた。


 ――私の肉体にも、禁忌の血が流れている。

 ――姉を愛してしまう、歪んだ業が。


 清音の体が震えた。


「梓……」


 涙が頬を伝い落ちる。

 梓がその涙を舐め取ると、清音は梓を抱き寄せた。


 服が床に落ちる。

 月明かりが二人の裸身を照らす。


 清音の体には、背中だけではなく、脇腹にも、太ももにも、小さな目が宿っていた。


 それらすべてが梓を見つめている。


 梓は清音を布団の上に横たえた。

 髪が枕に広がる。

 月光を浴びて、銀色に輝く。


 梓は清音の上に覆いかぶさり、再び唇を重ねた。


 今度はもっと深く。

 もっと貪欲に。


 舌が絡み合い、唾液が混ざり合う。

 息が荒くなる。


 清音の指が梓の背中を引っ掻く。

 爪の跡が、かすかに熱を持って疼いた。


 梓の唇が清音の首筋を辿る。

 鎖骨。

 胸元。

 そしてさらに下へ。


 清音の体が弓なりに反る。


「あ……梓……」


 甘い声が喉の奥から漏れた。


 梓の手が清音の太ももに触れる。

 冷たく、柔らかく、震えている。


 太ももの内側にも、小さな目がひとつ。

 梓はそこにも、そっと唇を寄せた。


 清音の体が跳ねる。


「や……そんなところ……」

「どこも、愛しい」


 梓は清音の体を、目という目に、すべてキスをしていった。


 清音の手が梓の髪を掴んだ。

 強く、しがみつくように。


「好き……好き……梓……」


 その言葉が、何度も繰り返される。


 梓もまた、清音の名を呼んだ。


 ――清音。

 ――姉さん。


 心の中で、呼びたい言葉を飲み込む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。