第1話:学校のアイドルの危機
俺の名前は新山緋色。
俺は生まれた時から能力を持っていた。
待て。決して中学二年生になって突然発症する病気ではない。
そこだけは勘違いしないでほしい。
先に釘を刺しておいたところで、俺の能力について説明しよう。
俺が持つ能力は――『危機察知』である。
文字通り、自分に迫る危機を事前に察知できる能力だ。
この能力には、これまで何度も命を救われてきた。
例えば小学三年生の頃。
車に轢かれそうになった瞬間に危機を察知し、とっさに飛び退いて助かった。
小学六年生の時は誘拐されそうになったが、危機を察知して逃げ切った。
中学二年生の時には通り魔に襲われそうになったが、逆に俺が先に気づいて取り押さえた。
他にも色々あるが、ひとまずこれくらいで十分だろう。
少なくとも俺が厨二病ではないことは伝わったはずだ。
そんな能力を持つ俺も、今年から高校生になった。
そして高校入学後、俺の危機察知に異変が起きた。
――なぜか他人の危機まで察知するようになったのだ。
最初に気づいたのは、道でおばあさんとすれ違った時だった。
突然、
『このままだとおばあさんが転んで頭を打つ』
という危機を察知した。
直後におばあさんはバランスを崩した。なんとか咄嗟に支える事ができたが、もし何もしなければ、間違いなく頭を打っていただろう。
それ以降も同じだった。
交通事故に遭いそうな子供を助けたり。
トラックにはねられそうな高校生を助けたり。
色々な人の危機を察知して、助けてきた。
ちなみに助けた高校生が、
「俺の転生がぁぁぁぁぁ!」
と叫んでいたが、意味が分からなかった。
まあ、それは置いておこう。
とにかく俺の危機察知が他人にも発動するようになったことは理解してもらえただろう。
そして今日。
また危機察知が反応した。
対象は――学園のアイドル、
『東條彩乃』(とうじょうあやの)である。
危機察知によって察知した内容は最悪だった。
『今日東條さんが家に帰る。
義父が睡眠薬を夕食に混ぜる。
眠った東條さんを襲う。』
……以上。
最低最悪の危機である。
危機察知が発動したのは朝の出席確認の時。
そして今は一時間目。
ようやく混乱から立ち直ったところだ。
落ち着いてきたので、改めて状況を整理する。
東條さんは今夜、
義父に睡眠薬を盛られ、
眠らされ、
襲われる。
これが危機の内容。
……。
…………。
これ、防ぐの難しくないか?
仮に今日だけ助けても意味がない。
無理やり東條さんの家の夕食に参加できたとしても、相手が実行日を変えるだけだ。
根本的な解決にならない。
そもそも俺が東條さんの家で夕食を食べること自体が無理である。
なぜなら、俺は教室の隅で漫画を読んでいるタイプの陰キャだからだ。
学園のアイドルの家で夕食?
そんなイベントが発生するわけがない。
仮に発生したとしても、その事実がクラスに知れ渡れば俺の社会的生命は終わる。
特に危険なのが一人。
サッカー部キャプテン。
成績は常に学年一位。
しかもイケメンというチートスペックを持っている橘冬馬である。
あいつだ。
あいつは東條さんにベタ惚れしている。
もし俺が東條さんの家に行ったと知られたら、俺の学校生活は危機察知が反応する暇もなく終了するだろう。
だが――。
助けないという選択肢だけはない。
つまり俺は放課後までに、
『東條さんの家に行っても不自然ではない立場』
を手に入れなければならない。
……。
…………。
無理ゲーである。
どうしろというのだ。
しかも陰キャの俺には東條さんと話す機会すらない。
もし俺が陽キャだったなら、
「今日、お前ん家行っていい?」
で終わる話だ。
やはり陽キャはずるい。
そんなことを考えているうちに、一時間目が終わっていた。
「なあ彩乃。今日お前ん家でみんなで遊ぼうぜ。」
橘が当然のように言った。
ほら見ろ。
これが陽キャである。
「あー、ごめんね。今日は予定があるんだ。明日なら大丈夫なんだけど」
「そっかー。残念だな。明日は俺が部活だわ。」
「ごめんね。また今度みんなで遊びに来てよ。」
「おう。」
「了解ー。」
「わかった。」
「また今度ね。」
東條さんが普段一緒にいるメンバーは五人。
男子二人。
女子二人。
そして東條さん。
男子はサッカー部と野球部のキャプテン。
女子は人気モデルとグラビアアイドル。
そして東條さんは学園のアイドル。
改めて見ても豪華すぎる布陣である。
さて。
この中にどうやって俺が入る?
しかも一日で。
考えれば考えるほど無理だった。
……。
…………。
………………。
あ。
いいこと思いついた。
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