2話:作戦C開始
どうも、新山緋色です。
現在、体育館裏にいます。
「これは君が?」
澄んだ声が耳に届く。
心地よく、それでいてよく通る声。
そして、その声の主は――
学園のアイドル。
東條彩乃である。
……どうしてこうなったのか。
話は数時間前に遡る。
◇◇◇
……。
…………。
………………。
あ。
いいこと思いついた。
わざわざあちらのグループに乗り込む必要なんてない。
………女装しよう。
「先生。体調が悪いので早退します」
二時間目の準備をしていた先生にそう告げる。
普段の行いが良かったからだろう。
仮病を疑われることもなく、あっさり早退できた。
やってて良かった先生の手伝い。
……まあ、本当は半分くらい押し付けられていただけなんだが。
結果オーライである。
家に帰った俺は、急いでクローゼットを開いた。
女性物の服を取り出す。
着る。
ウィッグを被る。
メイクをする。
約三時間。
気づけば鏡の中には可愛い女の子がいた。
俺である。
さらに声も女性っぽく調整する。
後は手紙を書くだけだ。
⸻
『私、どうしても東條さんと友達になりたいです。
あまり友達のいない私ですが、東條さんに惹かれました。
放課後、体育館裏に来てほしいです。
どうか私と友達になっていただけないでしょうか?』
⸻
可愛らしい文字で書き終える。
白い封筒に入れ、赤いハートのシールを貼る。
完璧だ。
どこからどう見ても完璧である。
そして学校へ戻り、東條さんの下駄箱へ投入。
そしたら、そのまま体育館裏で待機。
……そんな経緯があって現在に至る。
「これは君が?」
再び東條さんが尋ねる。
「はい。私です。」
「そうなんだね。お手紙ありがとう。友達になるのは全然いいよ。」
「ありがとうございます。それで――」
俺は間髪入れずに本題へ入った。
「今夜、親交を深めるために東條さんの家へ行ってもいいですか?」
「えっ、えっと今日はちょっと……」
「いいですよね?」
「え、えっと……」
「いいですよね?」
「は、はい……どうぞ。」
よし。
押し切った。
多分、俺の圧が凄かったのだろう。
さて。
第一関門突破である。
後は危機察知がどう変化するかだ。
解決したのか。
それともまだなのか。
とりあえず何が起きてもいいように、スマホは録画状態にしてポケットへ入れておく。
◇◇◇
い、今すぐ帰りたい。
今俺たちは東條さんの家へ向かっている。
……ただ一つ問題がある。
俺は陰キャである。
つまり、会話が続かない。
つまり、非常に気まずい。
「……天気がいいですね。」
「……? 曇りだよ?」
「あ、いや、その……心の天気というか……東條さんと友達になれてハッピー。みたいな。」
死にたい。
「すみません。忘れてください。」
「……ふふっ、」
東條さんが小さく笑う。
助かった。
笑われた方がまだマシだ。
「私も君と友達になれて――。」
そこで言葉が止まる。
え?
何?
やっぱり友達になりたくなかった?
「君の名前。私、君の名前聞いてない。」
「あ。」
そうだった。
やべぇ。
名前を考えてなかった。
「えっと……あや……。」
危ない。
今、彩乃って言いかけた。
「あやか、彩香です。」
「彩香ちゃんね。改めてよろしくね。」
「はい。」
危なかった。
我ながら即席にしてはいい名前である。
そんなことを考えていると、
「彩香ちゃん。着いたよ。」
東條さんが立ち止まった。
目の前には立派な一軒家。
「学校から近いですね。」
「そうだね。徒歩五分くらいかな。」
近くて助かった。
遠かったら会話が持たず、気まずさで精神が死んでいた。
そしてムカつきすぎて、原因である東條さんのお義父さんを見た瞬間に金的を決めていたかもしれない。
もちろん今はやらない。
証拠を集めてからだ。
そういうのは順序が大事だからな。
東條さんが玄関の扉を開く。
「どうぞ入っていいよ。」
「お、お邪魔します。」
靴を脱ごうとしたその時。
「お、彩乃。帰ったか?」
男の声が聞こえた。
リビングらしき部屋から、一人の男が顔を出す。
「あ、お義父さん。」
――その瞬間だった。
俺の危機察知が反応する。
今までにないほど強く。
頭の奥で警鐘が鳴り響く。
俺は反射的に男を見た。
そして、その瞬間新たな危機を察知した。
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