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まんまと戦場に行かされた件  作者: 開運満足 


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9/10

追跡 象部隊

昭和の戦後と呼ばれる時代に建設された古いビルのなかにあるレストランは時空間が歪んでいて、そこだけが過去のある時間帯を繰り返している。亡霊の記憶がそのレストランの時空間を形作っているのだ。


登場人物たちは、亡霊の記憶の時空間と過去に現実であった時空間とをつなげているレストランを、何かの目的をもって一緒に行き来しようとする。

それは歴史を変えてしまうかもしれない危険な行為だ。そう分かっているはずなのに。


ライラ・マーのジャングルに踏み込む八十島と紅葉。

 ===峠越え===


 川を渡り谷を越え、木造の橋や急坂を越えて軍用トラック、九四式六輪自動貨車が行きます。


 山口さん、岩田さん、北村さんとともに海人さんとわたしが関与する極秘任務は、昭和二十年の第二次アキャタン戦以降に大勢死者を出した退却路をもう一本増やそうという作戦です。

 そう、印度(いんど)国内の援蒋ルートを断とうと考えたあの作戦でも大勢死者が出ました。

 少しでも通りやすく頑丈にできれば死者は少なくなると元中佐が考え、F少佐に提案したものです。

 元中佐はF少佐と同一人物です。

 つまり、F少佐からすれば未来の自分からのアドバイスを受けたことになります。

 もちろんこの世界の日本軍の方々には、負け戦で逃げるための退却路とは言えないので「敵の意表を突く奇襲攻撃」と「補給」が目的の道路と説明するという事になります。

 海人さんには「元中佐が考え、F少佐に提案した」という部分は割愛して伝えてあります。

 躰が大きい割に気が小さいので未来を変えてしまう不安に耐えきれないかもしれませんからね。


 未来を大きく変えるのは危険が伴います。

 その為の話合いが元中佐とわたしのハンドラーとの間でなされた結果、もう一本のバイパスを機能させようということなのです。

 象の川のほか、もう一本の川の渡河手段を整備し舟艇も増やす試みも帝都物産を通じて行いました。

 こちらも海人さんに気付かれることなく資金と資材調達の企画案を山口さんに渡しました。

 もちろん因幡風(いなばかおる)さんの発見と事情聴取は海人さんとわたしだけの極秘作戦です。


 さて自動車を用いた道中、辺見さんが言うには、道々の川を横断する渡河地の整備も谷を渡る木造の橋も全て象と駄牛のおかげで出来たものだそうです。

 山岳・密林・泥濘で自動車が全く役に立たない場合に、補給線が維持できるのは牛のおかげだし、丸太運搬・橋梁補強・渡河支援では象が工兵と一緒に働いてくれ、それも大活躍だといいます。

 おまけに牛と象には燃料もエサも要りません。

 その辺に生えてる草がエサになるからです。

 おまけに牛は緊急時の食料としても役だつそうです。

 その象と牛を駆使する最前線の部隊が今から向かう動物隊と呼ばれる工兵部隊です。

 数時間揺られて到着した動物隊幹部の駐留地はジャングルの谷間で、昼なお暗い、隠された闇の中の秘密小屋でした。動物隊の本隊も動物もそこにいませんでした。

 象や牛は、そして大勢の工兵隊は何処にいるのでしょう。象さん以外は最後まで分かりませんでした。


 工兵部隊との談判は山口さんと辺見さんにお任せです。

 海人さんはキリリと勇ましい横顔だけをわたしに見せています。でも殆どしゃべりません。

 わたしが時々

 「ご理解頂きありがとうございます」

 「それについては既に師団の上層部から了承いただいています」

 と、相手の目を見つめて、一つ一つ「要求事項」を「決定事項」に変えてしまいます。


 海人さんは、わたしが時々口を挟むのが気になるようです。

 でも岩田さんも北村さんも何も言わないし、向こうの工兵部隊の責任者も頷いて了承しています。

 ですから、海人さんは、不思議だとは思うでしょうが、時間の節約もできるので

 「おねがいします」

 の一言さえ、発する必要も機会もなかったと思います。



 僕は辺見少尉との話合いを反省して殆ど今度の会議には口を挟まんかった。

 辺見少尉と山口所長が淀みなくそして漏れなく説明しとった。

 事前の根回しができとったんやろうか、動物隊から反論どころか質問もなかった。

 時々、紅葉が決定事項を復唱したり、理解してもらえたことに一々お礼を述べるのが気になった程度だ。

 おかげで時間の節約ができた思う。

 幹部間で了承が取れれば、後は実務を任せられた測量兵二名に岩田と北村が詳細説明をするだけだ。

 直ぐに日暮れ前となり、夕食を取ると、動物隊の隊長がここで少しでも仮眠してから行けと言う。

 作戦行動は夜間だからだ。


 動物隊の基地を出て、一時間ほど森の中を測量兵の案内で歩いて集落で象使い(マフート)と象達に会うた。

 北村さんが象にゆうとった

 「象さん象さん、こんなところに居たんですか、お会いできて光栄です」

 なぜかその言葉が後々まで印象に残とったんは不思議や。


 僕らはその場で象の頭の後ろの両脇に拵えてある籠に乗る。

 左に僕、右に紅葉。象使いの後ろには山口さんが乗った。所長は動物隊や象使いと親しいようだ。

 後ろに三頭の象、動物隊の測量兵の乗った象、岩田さんと北村さんの乗る象、重火器と装備を積んだ象が続く。もちろんそれぞれに象使いと人間が乗れる籠が付いている。

 もう夜中で辺りは暗い。明かり無しで山の森、ジャングルに入るのだ。


 何ヶ所もの渡河点を越えて、僕ら五人は動物隊から派遣の測量兵二名と象四頭とその象使いと一緒に宿営地に入った。象使いの村から六時間は経っていたが、象に乗って興奮してたのか、ジャングルにいるという虎が怖かったのか、「到着しました」と山口所長に言われるまで緊張がずっと続いて時間の感覚がなくなっていた。


 宿営地と言っても誰もいない。象と人間が寝て休息を取れる場所として確保してあるだけだ。

 近くに数件の家屋を持つ部落がある。夜なので誰も出てこない。

 備え付けの飲用水用ドラム缶を、後方から運んで来た新鮮な水が入ったドラム缶と取り換える、といっても横にもう一つ置くだけだ。

 古いのは空になるまで使い切り、使い切ったら動物隊に帰る時に気付いた象小隊が随時に持って帰るそうだ。

 ドラム缶に入っている水は人間用だ。象用のは沢の水を取り込む池が宿営地のそばにある。沢の水も沸かせば人が飲めるのだが、動物隊は敵から発見される用心で夜に火は使わない。

 部落に井戸もある。それは日本軍の工兵が掘ったものだが、部落民専用で動物隊は決して使わない。それは純粋に軍事的理由からやという。


 「軍用トラックに揺られ、次は馴れない象に揺られてクタクタや。どっちかというと軍用トラックの乗り心地は悪すぎや。寝るよ」

 僕は、そう紅葉に伝えるのが精いっぱいやったが、なんと紅葉はもう寝とった。どこでもすぐ寝れる達人だ。それでいて何かる前には敏感に察して起きれるらしい。


 翌日は紅葉に起こされ、その日はひたすらに山影を進む谷のルートで昼間に移動した。敵航空機に上空から発見される懸念があるのは川を超える時と思えたが、数か所の渡河箇所は象の水飲み場でどこも深い山に囲まれた山影の谷にあった、あとはひたすら日のあたらない暗くて深い森の中を進む。森の中でも二回ほど休憩を取って、またも宿営地だ。ここにも小さな村と井戸が傍らにある。

 ここでもドラム缶を置いて寝た。


 その翌朝は夜明けに兵隊に起こされた。見慣れない顔だった。

 最前線に行っていて交代に来た測量兵だという。

 紅葉は朝の鍛錬中だった。空手やと思う。


 測量兵同士の引継ぎが行われたが、実に簡単なものだ。現代のスケッチブック大の「野帳」と呼ばれるフィールドノートを引継ぐだけだ。ズックの肩掛け布袋の中に大事に油紙に包んである。重要事項の説明が終わるとそれを肩掛け袋のまま引き継ぐのだ。


 出かける前の宿営地に僕らの四頭を合わせて木立の中に象が七頭も並ぶのは壮観だ。他に牛が二頭もいる。護衛の兵士が三名も付いている。

 いつもは交代した測量兵は引継ぎが済むとすぐ帰っていくことになるが、僕らが来たことで彼らはこの宿営地にもう一泊することになるそうや。



 その日の日が暮れて六時間後、僕ら五人は動物隊から派遣の測量兵二名と象三頭とその象使いと一緒に、西側から来る案内人と連絡を取るというその某地点近傍にいた。

 某地点は夜空が見える谷の切れ目の岩場から二キロ以内と言う。

 象の道は象の水呑み場となる場所を必ず通る。

 そんな水場のひとつである。

 象使いが象について水場で適当に遊ばせている。

 測量兵二人が星の観測ができるちょっとした高所を探している。

 時計の時間と星の位置を使って現在位置を確かめるためだ。

 川から立ち上る靄が次々に小さな滝に落ちて行く。谷を吹く風が次々に湧き出る靄を滝下に追い払うので上空の星が見えやすい特異点になっている。


 測量兵は、河原に立つ大きな岩の上に立つと、方位磁石を置き、六分儀を目に当てる。六分儀の鏡板ミラーの調製をしながら、空を見てもう一人に観測数値を伝える。

 その一人がその数値を復唱確認しながら、紙の上で計算をしている。

 やがて計算した紙を六分儀を持っていた測量兵に見せる。

 彼は六分儀を持った手を降ろすとこちらに目をやり、空を指さした。


 僕、紅葉、山口所長、岩田と北村が岩の下に集まり、星影に浮かんで空を指さす測量兵の言葉を待つ。

 

 「ご覧ください。時刻は 0000(まるまるまるまる)正子(しょうし)です。(プレアデス) があそこまで上がっ来ています。ほぼ真南にあって天頂まで六割ほどの高さです。ということは……」

 僕らは闇に慣れた目を空にむける。

 青白く光る星の集団が、黒い山影の上に鮮やかに浮かんでいる。

 それは、日本で見るより高い場所に、はっきり見える。星も五、六、七と数えられるぐらいだ。

 僕らにとって確かに方向と位置を示す道標(みちしるべ)だった。

 「……アラタン山脈横断約百八十キロメートルの東端からおおよそ一三五キロメートルの地点です。残り四十五キロを突っ切ればルートの出口、ダンの谷に出られる見込みです」

 山口さんが僕と紅葉に明るい声で言う

 「そこに出れば穏やかな盆地がある。英軍が簡易滑走路として利用していた土地があるはずだ」

 続けて、ここから無線が使えないんで厄介なんだがね・・と呟きながら

 「岩田君、北村君、案内人がそこまで着とるはずだ。見つけてくれ。頼むぞ」


 測量兵からこの場所で測量した正確な座標を聞いた岩田と北村は、今度は何やら象使いと話をする。


 秘密裏の峠越え道路建設に必要な測量は毎夜行われる。昼間は英軍の航空偵察があるからだ。

 英軍が感づく前に峠の東西を道路として何としても繋げてしまわねばならない。

 そのため、峠の西側からやってくる案内人の象との接触が必要なのだ。

 

 岩田が山口に

 「所長、二、三時間ほどで戻ります」

といってサウンガウというビルマの竪琴を持ち、北村と一緒に象使いのところに行き一頭の象に乗る。

 紅葉が声をかける

 「お気をつけて」

 岩田が言う

 「ありがとう、虎の餌食にだけはならんよう気い付けていきますよ」

 象使いの左右には籠がある、岩田と北村はそれに乗って行った。

 

 暗闇に、谷から山に登っていく象の姿と歩む微かな音が消え、人同士の会話が途絶えると暗闇から誰かの囁きが聞こえてくるような錯覚に陥る。だが耳を澄まして聞こうとしてみると、途端に森は沈黙してしまう。

 その錯覚の囁きの向こうで何かがこちらをじっと見ているような気がしてならない。


 二時間半ほどで象使いが象だけを連れて戻って来て、一緒に来いと言うので、その象に従って三頭の象に分乗した八十島らは夜のジャングルに踏み入った。

 夜も夜半を過ぎ朝が近づくにつれて急に気温が下がっている。熱帯の湿気が白い霧になって闇に漂う。毛布は荷物の中だ。だが象の躰のそばだけは暖かかった。


 八十島の目には道どころか目の前の木も見えないような霧の闇だが、象は道が分かる、しっかりヌッツ、ヌッツと歩いてゆく。

 突然、進行方向の左が開けた。

 象使い(マフート)の後ろに乗った山口がその言葉を横から伝える

 「八十島局長の側が谷川に落ち込む断崖絶壁になっているそうです。覗き込むと怖いかもしれませんが騒がないでください。象を驚かす方がもっと危険ですので」

 夜霧が風で途切れる。

 身を切られるように寒い。ちらりと足元の先の方、その遠くに谷川が見えた。

 「なるほど、真下のものすごく遠くに川が見える。遠近がつかめない、が、凄い絶壁だ」

 時折吹き抜ける風が昼間の暑さで汗を吸った軍服から容赦なく体温を奪っていく。

 八十島は眼下がとんでもない断崖絶壁だと分かったが、霧も深く暗くてよく見えないことを幸いに、覗き込むのは止めた。

 「我が身の程をわきまえて行動せにゃ、な」


 象の歩きはゆっくり見えるが思ったよりも早い。乾ききらない地面にキスするように吸いついては離れる象の足の柔らかい肉球がヌッツ、ヌッツ、ヌッツ、ヌッツと低い音を立てている。

 象どころか人でも狭く感じる細い崖沿いの上り勾配を、巨体が足の踏み場も迷うことなく、しっかり登ってゆく。


 やがて左に崖を見ていたはずだったのが右側に崖が見える。八十島は方向感覚を失って元居た場所に戻るのではないかと錯覚しかかった。その時、急に象が立ち止まる。

 「どうした」

と象使いに声をかけようとした八十島の耳にサウンガウの音色が聞こえてきた。


 やがて一頭の象が右前の数メートル先、小高い棚のような場所に現れた。

 目がいつの間にか星明りの暗闇に慣れていたのだろう、岩田が象使いのすぐ後ろでサウンガウを手にしてこちらを見ていると分かった。

 そのすぐ後ろに重なるように北村が乗っている。

 二人は一頭の象の背中に象使い(マフート)とともに乗っていた。例の案内人の象なのだろう。

 「位置確認はできますか」

 と北村が僕らの後ろの象に乗っている測量兵に聞く。


 象の背に乗った兵士が、ランプを覆った布をそっと開く。漏れた光が、もう一つの大きな淡いランプのように霧の中に灯った。


 白く滲む光りだ。


 その滲む円球状の光の中で、測量兵が野帳(フィールドノート)を開く。横に方位磁石を置く。何かをふたりで確認すると野帳を閉じて再びランプを布で巻くと滲む白い円球が闇に消えた。

 「我々が付けた印が付近の樹木に確認できる場所です。ここから測量可能です。大丈夫です。北村さん」

 「もっとずっと先の方まで調査済みですが、こんなに手前で峠の抜け道があるなんて」

 と測量兵二人。

 「ではここを起点に此方の象が通ってきた道を辿って行けば峠を抜けられます。これからは測量だけに集中できますよ」

 と北村が言う。暗くて見えないが笑顔のようだ。


 どうやら測量兵の今夜の主任務は、峠の抜け道の案内人とその象と出会うことで、無事にほぼ終了したようだ。安心した顔が見えるような気がする。


 「案内人がすぐ見つかって良かったですね。山口さん」

 と紅葉。象の反対側に居るので八十島が見えない。なので、山口が八十島に声をかける

 「すぐに連絡が取れて良かったと局長秘書殿が仰っております」

 八十島が大きな声で皆に言う

 「本当に良かった、暗くて寒い中を何時間も捜索しないで済んだ。測量兵と皆さんのおかげです。ありがとう」



 象は他の群れが通った道を、象が通れる安全な通路と判断する。その通路の先には水場、餌場があると分かるのだ。だから自然とそのルートを追っていける。

 ライラ・マーの象使い(マフート)が、森で 虎 などの敵を避けながら進むのに最も頼りにする能力だ。


 山脈の東側から来た測量兵の乗った象の群れが、峠の西側から来た案内人の象の群れと出会った。

 これで峠の東西が繋がる。

 お互いの象の群れの匂いと足跡で。

 日本軍の極秘工事は飛躍的速度で進むことだろう。

 史実より北で日本軍が使える道がもう一本通ることになる。


 僕らは、それから一時間ほど測量兵の仕事に付き合った。彼らはいつもなら夜明け近くまで作業を続けるのだ。

 それにしても、西側から来た案内人の象が今いる場所は、河岸段丘の断崖の切れ目で、二メートルぐらいの高低差がる。星明りを頼りに象を登らせるのはこのうえないほど危険だ。

 象を登らせるためには、今来た道の何処からか、新たに坂道をつける必要があった。

 二メートルの高さを当時の軍用トラックが荷物を満載して登るには二百メートル以上の距離が必要だった。

 そしてその道路を作るとなれば隠密裏に武装した護衛を伴って工事作業をしなければならない。

 それは明日以降の話である。


 今日して置くことは、新しく発見した峠の抜け道に続けられるように仮決めした旧道の「新起点X」と名付けた点の位置確認だ。

 象の歩幅と巻き尺で概略の距離を計り、地上一メートルの高さで地形の傾斜を計る。

 目印や注意点を野帳(フィールドノート)に書き込む兵士。その胸にはコンパスや方位磁石が紐でぶら下がっている。闇の中で落とさないためだ。

 「新起点Xから北東微北、下り五分の一、左側断崖」

 木の幹の陰にナイフで印をつけていく兵士。 メモの数値はこの場所で採られたという目印だ。

 後から来る工兵隊がその印を頼りに道路を作る。

 次に測量兵二人は案内人の象がいる崖によじ登る。

 今度は巻き尺ではなく測距器(レンジファインダー)を覗いて新起点Xに置いたランプまでの距離を測っている。

 測量兵二人による作業が進む間に八十島と紅葉は乗っていた象を降りて、案内人、岩田と北村の象の群れの象に乗り換える。

 案内人の象使いも自身の象を含めて三頭の象を連れてきていた。夜の森の王者である虎を遠ざけるための象の成獣三頭なのだ。

 象使いたちと象の手助けも借りて、乗って来た籠ごと荷物を崖の上にあげて、象に積みかえる。


 ダンの谷に先行し、そこから港に出て船でダンガットまで行き、因幡氏に会わなければならない。


 『ライラ・マーのスマゴト駐在所長の山口さんは今日のところは測量兵二名と行動を共にし、無線を使える場所まで戻って案内人との首尾を関係各所に報告しに戻るそうや。ここで一旦お別れや。動物隊と呼ばれる工兵隊の本隊は測量兵の三日遅れで道を作りながら追ってくるんやそうや。道が出来たら自動車部隊の辺見さんも資材や兵隊を積んで追ってくることやろう』


 新しい象に乗り換えた僕らはゆっくりと象の向きを反転させてダンの谷へ、その方向に進む。

 ちなみに象の反転は、大きな体にも拘らず意外に器用にできるので驚いた。

 

 夜の闇の不気味な静けさに慣れたのだろうか、寒さが先程より堪える。

 山間部一八〇キロメートルのうちあと四十五キロメートルを進まねばならない。


 「マラソンの距離よりちょっと長いんやが、そんなに困難はないやろうな。すでに西側から案内人の象が来たくらいなのやから」

と考えた僕はいつもながら甘かった。



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