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まんまと戦場に行かされた件  作者: 開運満足 


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12/18

変事

物語の転換点がやってきました。謎を作り出した全てが一斉に動き出します。

乞うご期待。



 ===変事===


 ダンの谷からは、隊列を作ってダンガットまで行く。

 ダン迄資材と兵士を運んで来た自動車部隊からすれば「戻る」わけだ。

 隊列を作るのは九四式自動貨車(ぐんようトラック)十台だ。

 偶数号車に兵士二名が乗り込む。

 護衛でもあり、自動車の尻押し要員であり、有事に運転兵の代わりも出来る自動車部隊の面々だ。


 資材や工事を担当する工兵部隊を降ろした後なので、復路の今回は、荷台は軽く、尻押しの機会は往路よりは少ないだろう。八十島もそう考えていたが、甘い考えだった。


 出発してみると、往路の上り坂では、何度も車輪を抜かった地面に食い込ませ、地面を掘るように空回りさせて、その度ごとに人力で尻押しなければならなかった道路は、穴だらけだった。そして往路の上り坂は復路の下り坂である。谷側に転落しないように下り坂で車体の軽くなった自動車を操作するのは案に反して難しく、注意を要することだった。


 「下り坂であまりにも、大きゅう跳ねると谷に落ちそうや。怖いな」

 「それより、あんなに大きく跳ねてトラックが壊れないのが不思議です。頑丈なんですね。馬力はともかく」


 途中何度も穴が大きく空いていて、後続車の為や、次の往路のために埋めねばならなかった。

 尻押しが思った以上に必要でなかった代わりに、頻繁な穴埋めが必要だった。

 下り坂で速度が出た状態で大きな穴に自動車が突っ込むように入ると危険だった。何しろ断崖絶壁上の道なのだ。


 「こんなことだったら、スコップの扱いに慣れた工兵を何人か借りて連れてくるんだった。奴ら、そうなると分かってたんだと思う。『大丈夫か、頑張れよ』というだけで、何を心配してるのかを教えないんだ」

 とは、自動車部隊を率いる少尉の愚痴である。穴埋め作業が必要で車を降りた時に、暇なので作業を見に来た八十島に、耳打ちして兵士に聞こえないようにいう。


 八十島ら五人は先頭から三台目の貨車部分(トラック荷台)に乗っている。


 少尉は先頭車の助手席に運転兵と一緒だ。

 問題があるたびに一々降りて後続の兵に指示を与えている。

 「こりゃ、工兵将校や下士官の仕事だな」

 とぼやきながら。



 北北東から南南西に向かう深く高い山の谷間を、時々左岸から右岸、右岸から左岸へと木製の橋を渡りながら、時折はジャングルの中を抜けて走る道だ。高低差もあり上り下りで、実距離は百七十キロぐらいあるだろう。

 朝から走り続ける九四式自動貨車(ぐんようトラック)に、太陽はなかなか当たず、昼間にしては薄暗い。そんな道での作業である。


 自動車部隊の少尉が、今朝から何度目かの愚痴を言って、

 北村が

 「ここまでで、ダンから六十キロぐらいでしょうか。二時間半ぐらいですね。平均時速二五キロは思ったよりも早いです。さずがは自動車です。徒歩や象とは段違いです。自動車部隊様様ですよ」

 そう、慰めた時だった。


 俄かに空が暗くなった。

 皆がおかしいと思い、空を見上げた。

 急に夜が訪れたのだ。


 「どうしたのでしょうか」

 「日食が起きるとは聞いてへんよな」

 「何とも不思議な現象ですな」

 紅葉、八十島、山口が銘々誰に向かってでもなく、自分の見ているものが皆に見えているかを確かめるために声を出す。


 自動車部隊の兵士は、ざわざわと騒ぎ立てている。


 川の右岸の谷の絶壁上に

 煌々と輝く月が現れる。


 「山口さん、月が見えてますか、私だけではないですよね、おかしな事が起きてますよね」

 「全員が何か催眠術か、薬を飲まされてるのでなければ・・」

 岩田と山口が確かめ合う。


 「全車停止せよ!」

 大声の命令が少尉より発令される。このまま走っては危険だと判断したのだろう。

 先頭車が止まり、運転席から運転兵が出てきて赤旗を振って後続車に叫ぶ。

 「全車停止せよー!」

 二番車、四番車の荷台からも兵士が出てきて後続車に合図を送る。

 「全車停止!」

 「全車停止!」

 「全車停止!」

 「全車停止!」

 「全車停止しました!」

 「全車停止しました!」


 少尉が命令する

 「運転手以外は銃を持って降りろ。そのまま指示があるまで待機。」


 絶壁上の月が異常に大きく見える

 その光に照らされて、

 遥か下の河岸のごつごつした岩の上に

 さぁーさぁーと岩を濡らす俄か雨が降り

 竹の密林を揺らす疾風が吹いてくる

 月の光の中の雨と風

 その幻想的な雨風がすっと止むと

 月光に染み出すように現れたのは

 夕霧が虹色に光を返す橋がかかる

 岩の上にいつ現れたのか、

 二匹の美しい虎が月光の中、銀色に光っている


 「なんか見覚えがある現象やな」

 八十島が言う。

 「何か嫌な予感がします」

 と北村。

 「I have a bad feeling about this」と言いたくなった八十島は紅葉を見て、紅葉もそう言いたくなったことを知った。だが、さすがに言わなかった。笑いが止まらなくなったら不審に思われると思ったのだ。


 いま思えば、そんな余裕を感じている場合ではなかったと後悔したのだが、それは後の話である。


 いまや自動車部隊で運ばれる全員が、その景色を見るために、トラックを離れ、何かが起きている谷を覗こうと道に出て来ている。



 二頭の虎は

 雨でぬれた岩から虹の橋の上に大きく跳躍する。


 兵の誰かが言う

 「信じられない、十メートルは跳ね上がったぞ」

 「それより、虹に乗れることの方がおかしいやろ」

 「こちらへやってきます。二頭とも若い虎に見えます」


 二頭の若い虎は、こちらのほうにゆっくりと歩いている。

 重さを感じさせない動きで、恐怖も感じさせない。

 誰も恐怖を感じてないようだ。

 やがてこちらの河岸の下まで来ると、

 三十メートルはあろうかという崖を軽々と飛び跳ね、飛び跳ね、登って来る。


 誰もが、呆然と、声も出せずに、逃げるどころか、

 美しさと軽捷な動きに見とれている。

 近くで見ると意外に大きい。


 八十島たちの方に走り向かってきて

 紅葉と北村に襲い掛かった


 八十島は目を大きく開けて瞬きも止めていた。

 見逃すはずがない。

 電光のような左掌底を虎に叩きつけた。

 紅葉も機敏に体を右に開いて瞬時に右回し蹴りを見舞った

 北村は、左右とボクシングだろう、両手を使って襲撃を避けようとした

 岩田は、もっと凄かった。一瞬で、腰に下げていたホルスターから英軍制式の.455口径リボルバーを抜いて撃った。


 ズバーン、ァーン、ァーン、ァーン、ァーン

 と谷の渓流に銃撃音が木魂する。


 次の瞬間、その襲い掛かった姿勢のまま、虎二頭が消えた。


 虹の橋も消えて、月も消えて、夜も消えて


 やがて、密林の薄暗い昼が戻って来た時


 紅葉と北村も一緒に消えたとわかった。



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