表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者とは呼ばれずとも 封じられし精霊と少年の物語  作者: カイメイラ
第4章 胎動する世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/98

第74話 海賊襲撃

 寝静まったフリーメルの町。


 遠くでは、まだ飲めや歌えやの喧騒が、かすかに尾を引いている。


 その静けさを――


 ズドンッ!!


 腹の奥を鉄槌で殴られたような衝撃。


「っ!?」


 リオは跳ね起きた。


 遅れて、外の音がなだれ込む。


 悲鳴。怒号。木材の軋み。遠い砲声。


「なんだ……!?」


 扉が開く。


「起きろ。海賊だ」


 クロキリの声は短い。


「戦闘準備。赤、青、黄――行け」


「へいへい」

「了解」

「はーい」


 三つの気配が消える。


「私も行く。リオたちは住民の避難を」


「了解!」


「ダリウス! ティナを頼む!」


「任せとけ!」


「リオ様、お気をつけて……!」


「うん!」


 外套を掴み、階段を駆け下りる。


 足音がやけに大きく響いた。



 扉を開けた瞬間、熱と煙が押し寄せた。


 町はすでに混乱の渦に呑まれている。


 火の手。怒号。走る人影。


「こっちだ! 逃げろ!」


 リオは叫び、流れを作る。


『リオ、門に光出すぞ!』


「頼む!」


 アストルの光が門上に灯り、道筋を示す。


 人々がそちらへ向きを変える。


 ファルトが間に入り、押し合いを支えた。



 港へ出る。


 夜の海が赤く染まっていた。


 軍艦と海賊船が砲撃を交わし、火花と水柱が交錯する。


 だが――その陰で。


「……あれは」


 複数の小舟が、静かに接近している。


 砲火の死角。


「上陸してくるぞ!」


 次の瞬間、海賊たちが飛び出した。


 水面に足を乗せる――波紋だけが広がり、沈まない。


「おい……沈まねぇぞ」


「ははっ、なんだこりゃ! いいもんもらったな!」


 海賊たちは笑いながら、そのまま水面を駆ける。


 後方に残った数人が、足を止める。


「距離取れ!」


 次の瞬間――火薬玉が投げ込まれた。


 ヒュッ、と低い音。


「っ!?」


 ドォンッ!!


 地面が弾け、土と火が巻き上がる。


 さらに、矢が飛ぶ。


 水面を滑りながら放たれたそれは、軌道が読みにくい。


「ちっ……!」


 リオは身をひねり、かろうじてかわす。


 背後で、矢が壁に突き刺さった。


 ――距離を取って、削る。


 海賊たちは笑っていた。


「セフィーナ、風で流せるか!」


「はい……アネリア!」


『任せて!』


 セフィーナの周囲に風が集束する。


「たつみの風よ、乱れを招け――《ウィンドストーム》!」


 渦巻く突風が前方へ解き放たれる。


 水面ごと押し返すような圧。


 距離を取っていた海賊たちの足場が乱れ、バランスを崩す。


「うおっ!?」


「足が――!」


 数人が水面から弾かれ、海へと落ちた。


 矢の軌道も逸れ、火薬玉が水中で弾ける。


 前線への圧が、一瞬だけ緩む。


「今、まとめて焼く!」


 ミラが一歩踏み込み、杖を振るう。


「烈火よ、我が前に形を取り──流れとなれ。《ファイアランス》」


 放たれた炎の槍は直進せず、風に乗って湾曲する。


 セフィーナの突風に引き伸ばされ、一本の“火炎流”となって水面を舐めた。


 水上に足場を取っていた海賊たちの列を、横薙ぎに焼き払う。


「うあああっ!」「熱ぃッ!」


 足場を失い、炎と蒸気に包まれて海へ転落する者が続出した。


 ――風と火が噛み合い、戦線が一気に押し返される。


 中には、滑るように加速し、波を踏み台に跳び込んでくる者もいる。


 陸と変わらぬ動き――いや、それ以上の機動。


「な……」


 一瞬。


 静かになる。


 次が来る。



 衝突。


 剣と盾がぶつかり、火花が散る。


 数が多い。重い。

 衝撃が肩まで響く。息が詰まる。

 呼吸が浅い。鼓動が速い。


「援護するわ!」

「風よ――!」


 ミラの炎とセフィーナの風が道を削る。


 だが止まらない。


 押し込まれる。


 水面を滑るように横へ回り込んできた海賊が、低い姿勢から刃を突き出す。


「っ――!」


 リオの脇腹をかすめる。


 浅い。だが、確かに斬られた。


(速い……! 横にも来るのか!)


 水上を滑る連中は、陸より自由に動いてくる。


 別の一人が、波を蹴って跳び上がる。


 上からの振り下ろし。


「くそっ!」


 受ける。


 衝撃が腕に抜ける。


 重い。想像以上だ。


 横で、海賊が避難民に手を伸ばした。


「金だ! 女もだ! 全部寄越せぇ!」


 泣き叫ぶ声。


 逃げ遅れた子どもが転ぶ。


「やめろ!」


 リオが踏み込む。


(間に合え……!)


 刃を受け流し、体勢を崩す――パリィ。


 そのまま間合いに入り込む。


「光よ――」


 剣に淡い輝きが宿る。


 ――《ホーリーエンチャント》


 白光が刃を縁取り、夜を裂く。


「はあああっ!」


 弧を描く斬撃。


 ――ホーリースラッシュ。


 光の軌跡が走り、前列の海賊たちをまとめて吹き飛ばす。


 数人が地面を転がり、武器を手放した。


(……効いてる!)


 だが――


 その向こうで、別の海賊が子どもを掴み上げた。


 水上を蹴って後方へ。距離が一気に離れる。


「へへっ、追いつけるかよ!」


 滑る。揺れる。軌道が読めない。


「やめろォ!!」


 すぐに別の連中が詰めてくる。


 さらに横から二人。


 波を蹴って同時に斬り込んでくる。


 完全に囲まれる。


 圧は、まだ重い。


 しかも、引けば水上から追われる。


 逃げ場がない。



「何の騒ぎかと思えば……海賊か」


 聞き覚えのある声。


 アルヴァンとテオが横合いから割って入る。


 テオが一歩前へ。


 盾が打ち付けられ、先頭が弾ける。


 ――一瞬の“隙”が生まれる。


「今だ、押し返す!」


 リオが声を上げる。


 ファルトが踏み込み、盾で押し返す。


 リオも続く。


 斬る。受ける。返す。


 呼吸が乱れる。


 一瞬、息を吸う。


(……重い……!)


 腕に伝わる衝撃。


 相手は人間だ。


 だが、その目は濁っている。


 迷いが、一瞬だけ生まれる。


 その隙を、相手は見逃さない。


 刃が迫る。


「っ――!」


 ギリギリでかわす。


 頬をかすめ、血が滲んだ。


(……危なかった)


(これ……人間相手にやる動きじゃないだろ……)


(こいつら……人間なのに、動きが違う……)


 鼓動が速い。


 ――それでも。


 踏みとどまる。



 アルヴァンが弦を弾く。


 低く、澄んだ音。


「――まだ動けるでしょう?」


 音が、わずかに背を押す。


 重かった体が、少しだけ軽くなる。


 だが――


 背後で悲鳴が上がる。


 別の避難民の列が崩れ、将棋倒しになる。


 その上に海賊が飛び込んだ。


 振り向く。


 倒れた住民に、刃が振り下ろされようとしていた。


(また……人が……!)


 胸の奥が軋む。


 踏み出す。


 迷っている暇はない。


「いくぞ!」


 リオが踏み出す。


 光をまとった刃が、再び走る。



 テオの一撃で前列が弾け、わずかな空隙が開いた。


 その“隙”に、影が差し込む。


 まず――黄狐。

 低く滑り込み、足首を払う。

 軸が崩れた瞬間、肘が顎を打ち抜く。


 間。


 青鬼。

 極細の糸が走る。手首、肘、肩、首――一気に絡む。

 ――引く。

 ぐらり。動きが止まる。


 そして――赤鬼。

 影のように割り込み、火薬玉を二つ、三つ。


「通り道、空けとけよ」


 離脱。


 ――ドォン。


 足元で爆ぜる。水と火が弾け、列が割れる。


 爆煙がゆらぎ、視界が歪む。


 その奥――


 ゆっくりと、影が立ち上がった。


 船長。


「やってくれたなぁ……クソガキどもがァ!!」


 大戦斧を振り回し、無理やり道をこじ開けようとする。


 振り抜くたびに風が唸り、地面が抉れる。


「海賊ナメてんじゃねぇぞォ!!」


 だが。


 テオが盾を差し込む。


 ドンッ!!


 衝撃で後退。


「ぐっ……!」


 そこへファルトが横から叩き込む。


「止めるぞ!」


 大盾で押し込むが――


 船長は笑った。


「甘ぇ!」


 戦斧が振り下ろされる。


 ゴォンッ!!


 地面が割れる。


 衝撃で足場が崩れ、全員の体勢が一瞬で崩れた。


「っ……!」


 リオもバランスを崩す。


 その瞬間。


 ――影が割り込む。


 黄狐。


 踏み込みと同時に、拳が顎を打ち抜く。


「ぐあっ!?」


 体勢が崩れる。


 その瞬間。


 青鬼の糸が走る。


 四肢へ絡みつき、動きを止める。


「動くな」


 低い声。


 ギチ、と締まる音。


 船長の身体が強引に固定される。


「今だ――!」


 リオが踏み込む。


 光をまとった剣が、まっすぐ振り抜かれる。


「――ホーリーブレイク!!」


「な、なんだこの光は――ぐあああああっ!!」


 白光が弾ける。

 その瞬間、肉を断つ感触が、はっきりと手に残った。

 鉄と血の生臭い匂いが鼻を突き、耳の奥で短い断末魔が途切れる。


(温かい……人の、血……)


 拘束された船長の体を正面から叩き割るように斬り抜けた。


 衝撃が内側から走り、体勢が大きく崩れる。


「くそ……っ!」


 もがく。足掻く。


 刃を振り上げようとして――止まる。


 それでも。


 ほんのわずかに、刃が振り下ろされる。


「っ――!」


 リオは咄嗟に身を捻る。


 斧が頬をかすめ、空気を裂いた。


 次の瞬間――


 赤鬼が一歩踏み出し、にやりと笑った。


「がっはっは! こっちは任せたぜ!」


 視線は海へ。


 その姿が弾けるように消える。


 残るのは、拘束された船長と――


 リオの掌に残る、ぬるりとした重さと鉄の匂いだけだった。


「くそ……っ……」


 短く、息が漏れる。


 青鬼の糸がさらに締まる。


「終わりだ」


 黄狐が肩をすくめる。


 そのとき――


 ドォンッ!!


 港の外。


 海賊船の側面が、内側から弾け飛んだ。


 炎が夜を裂く。



 音が止む。


 海賊たちの動きが鈍る。


 視線が揺れる。


 武器が落ちる。


 膝が折れる。


 勝負は、ついた。



「まぁ、何とも使えない連中でしたね」


 頭上。


 屋根の上の男。


「……貴様の手引きか?」


 クロキリの声。


 男は笑う。


「それでは、本日はこの辺で」


 輪郭が歪み、消えた。



 火だけが、残る。


 人々の息遣いが戻り始める。


 だが。


 リオは動かなかった。


 戦いの最中、何度もよぎった感覚。


 剣越しに伝わる、肉の重さ。


 温かさ。


 そして――鉄の匂い。


(どうして……人同士で……)


 斬るたびに、胸の奥がざわついた。


 守るためだと分かっていても――


 割り切れない。


 離れない。


 消えない。


 答えは出ない。


 夜だけが、重く沈んでいた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


もし面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。


今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ