表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者とは呼ばれずとも 封じられし精霊と少年の物語  作者: カイメイラ
第4章 胎動する世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/100

第69話 黒き門の残響

王城の中庭を抜け、昼下がりの陽光が石畳に淡い影を落とす中、城の東にそびえる塔へと足を運ぶ。


この塔は、王都における魔法研究と兵団運用の中枢である。


(まるで、戦場の心臓だ――)


各階ごとに用途が分かれ、瞑想室、魔道具研究室、図書室――そして最上階には魔法兵団長の執務室が置かれている。


グラヴィスに先導され、メフレトの使節団はその内部を進んでいた。


「この先の倉庫に、黒き門の残骸を保管しておる」


歩きながら、グラヴィスが振り返る。


「調査はすでに始めておるが……なかなか興味深い代物での」


重厚な扉の前で足が止まる。


――音が、消えた。


その奥にあるものを思わせるように、空気がわずかに重い。


だが――


「……おっと、そうじゃった」


グラヴィスがふと何かを思い出したように手を打つ。


「謁見が許可されておる」


にやりと笑う。


「ついてまいれ」


使節団は進路を変え、王城の奥へと向かった。


王城――謁見の間。


高窓から差し込む光が床を白く照らし、空間の広がりを際立たせている。


高い天井に、足音が静かに反響する。


整然と並ぶ騎士たちの間を、メフレトの調査団が進んでいく。


玉座の前。


セトスは一歩前に出て、静かに頭を下げた。


「メフレト魔導評議国より参りました。調査団代表、セトスにございます」


王はゆっくりと頷く。


「遠路はるばる、よく来てくれた。セトス殿」


一拍。


「私がフェルメリア一世である」


穏やかな声。


「到着が早かったな。驚いたぞ」


「もったいないお言葉」


短い返答。


王はそのまま言葉を継ぐ。


「戦後でまだ落ち着かぬ状況でな」


「其方にも、会議に参加してもらいたい」


「承知しました」


余計な言葉はない。


そのまま一行は会議室へと移った。


会議室。


円卓にはすでに主要な面々が揃っていた。


王。

宰相セオドール。

騎士団長レオン。

魔法兵団長グラヴィス。

大神官セレスト。


そして――使節団長セトス。


重い空気が満ちている。


宰相が口を開いた。


「現状の確認から入る」


「物資は不足、食料は逼迫している。各兵団の戦力はおよそ六割に低下している」


セレストが静かに続ける。


「兵士の治療は順調。結界は修復済みです」


「長期防衛は可能ですが、再展開には時間を要します」


レオンが腕を組む。


「戦術は防衛重視だ」


「見張りを増やし、見張り台の建設を進める」


一呼吸。


「だが――」


低く、唸るような声。


「守るだけでは、いずれ押し潰される」


空気がわずかに軋む。


宰相が目を細める。


「現時点で攻勢に出る余力はない」


短い応酬。


すぐに沈黙が戻る。


レオンは舌打ちし、腕を解いた。


「……瘴気の観測と早期警戒が鍵になる」


「敵は門から現れる」


場が静まり返る。


「出現位置は予測不能。密集は自殺行為だ」


「小隊単位で分散し、各個に対応する」


王がゆっくりと頷いた。


「各地に警戒を広げよ」


グラヴィスが口を開く。


「黒き門の残骸じゃがな――」


「王宮錬金術師エルヴィスによると、非常に特殊な金属でできておるようじゃ」


視線が集まる。


「ただの金属ではない」


「精霊の魔力が宿ったような……もちろん闇のじゃが」


空気が変わる。


「そして……」


グラヴィスはわずかに目を細めた。


「魔王が使った根源魔法」


「その一端ではないかと見ておる」


「……根源魔法だと?」


宰相が低く呟く。


沈黙。


セトスが口を開いた。


「……否定はできません」


「魔王軍はすでに、それを魔道具として運用していると見るべきでしょう」


短い一言。


それだけで、場の空気は決定的に変わった。


「それともう一つ」


グラヴィスが続ける。


「あの時の相手じゃがな……精霊魔法を使う者がおった」


空気がさらに張り詰める。


「一人は闇の導き手――光の導き手と対になる存在」


誰かが、息を呑んだ。


「……!?」


レオンが目を細める。


「精霊魔法か……」


その横で、セトスが小さく呟いた。


「……我が国では、しばらく契約者は確認されていない」


グラヴィスは肩をすくめると、ゆっくりとローブをめくり上げた。


露わになった右足。


――誰も、言葉を発しなかった。


セレストの指が、わずかに震えた。


そこには、見るも無残な傷跡と、銀色の義足がはめられていた。


「ほれ、こっぴどくやられたわい」


軽い口調。


だが、その場の誰もが理解していた。


その一撃が、どれほどのものであったかを。


宰相が口を開く。


「各国からの被害報告は、現時点では確認されていない」


「……だが」


一瞬の間。


「静かすぎる」


――嵐の前のように。


王がゆっくりと立ち上がる。


「防衛を最優先とする」


「各地に通達を出せ」


「警戒を強化し、来るべき事態に備えよ」


一方――アルマリク自由都市。


王都とは違い、空気は乾き、ざわめきが街に満ちていた。


「……間違いねぇな」


報告書を握る手がわずかに軋む。


「こいつは……瘴気だ」


空気が凍る。


「しかも……規模が違う」


フェルメリアからの報告とは、桁が違う。


ザファルが顔を上げる。


「各国に通達を出せ」


「それと――傭兵でも何でもいい。金は気にするな」


一拍。


「雇える連中は、全部抱え込め」


視線が鋭くなる。


「これは――一つの街の問題じゃねぇ」


「世界の問題だ」


職員たちは一斉に動き出した。


その頃。


王城の廊下。


「……黒き門、か」


訓練帰りのリオが、すれ違いざまにその言葉を耳にする。


足が、わずかに止まった。


理由は分からない。


だが――


胸の奥に、引っかかるものが残る。


世界は、まだ静かだった。


だが――


その静けさの下で、確実に何かが動いている。


誰も知らぬまま。


――誰一人として、その兆しに気づいてはいなかった。


戦いは、すでに始まっていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


もし面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。


今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ