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勇者とは呼ばれずとも 封じられし精霊と少年の物語  作者: カイメイラ
第3章 王国騒乱編

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第66話 魔王軍軍議 ― 黒き門の戦略

 魔王城内――重厚な会議室。


 黒曜石のように鈍く光る円卓。


 まだ誰も席についていない。


 重い扉が開く。


 幹部たちが、ばらばらに入室してくる。


 足音が散り、やがて円卓の周囲に気配が揃っていく。


 最後に――ガルドが入ってきた。


挿絵(By みてみん)


 片手を軽く上げる。


「よぉ」


 気の抜けた挨拶。


 ヴァネッサが、くすりと笑い、軽く手を振り返した。


「ふふ……相変わらずね」


 その直後。


 ヴァネッサの視線が、ゆっくりとノリスへと向けられる。


 じっと、観察するように。


 ノリスは――一瞬だけ視線を受け、何も言わずに外した。


 空気が、わずかに歪む。


 やがて、各々が席につく。


 円卓を囲み、幹部たちが静かに座した。


 その奥。


 わずかに高く設えられた上座。


 玉座ではない。


 だが――そこが誰の席であるかを、この場の誰もが理解している。


 誰一人として、視線を向けようとはしない。


 ノリスは、円卓の外に立っていた。


 そして。


 ――パチン。


 指を鳴らす。


 空間が歪み、黒い膜が部屋全体を覆った。


 外界の音も、気配も、すべてが遮断される。


「これより軍議を開始する」


 静かな声が響く。


 中央に、魔導投影が浮かび上がった。


 世界地図。


「先の奇襲について報告する。ディアス隊がフェルメリア王国東部に潜伏、現地にて瘴気門の試作型を組み立て――魔物の転移に成功した。奇襲は成功。進軍の過程で農地に瘴気を散布、当該地域の収穫は――絶望的だ」


 誰も口を挟まない。


「……以上を踏まえ」


「ザハロス」


 ザハロスは、じゃらじゃらと魔道具を揺らしながら前へ出た。


「ククク……ご覧いただきたい」


 指を振ると、不快な金属音が鳴る。


 同時に、空間に映像が展開された。


 映像の中では、空間が裂け、黒い門が浮かび上がる。


 門が開くと、瘴気があたりを包み込んだ。


 周囲の土地が瘴気に呑まれ、草木は枯れ、汚染されていった。


「名付けて――瘴気門。根源魔法ディメンションゲートの理を解析し、一時的な転移装置として再現したものでございます」


 視線が集中する。


「ただし、展開時間と転移量は反比例する性質を持つ。…であるからにして、精鋭の投入には極めて有効。しかしながら……軍団単位となると、少々困難である! 加えて――退却時にも極めて有効。退却地点に設置することで戦線を即座に切り離し、被害を最小限に抑えられる」


「実際、試験運用の際には――途中で門が閉じてしまいましてな。意気揚々と突入した魔物どもを鎮めるのに、骨が折れましたわい」


 ディアスが低く言う。


「……ああ。途中で閉じて壊れたな」


「ええ、実に貴重な実戦データでございました」


 一拍。


「お得意でしょう?」


 ゼインが肩をすくめ、口角を吊り上げる。


「……へへーん」


「説明ご苦労、ザハロス。では――次の作戦に移る」


「まずは諜報部だ。作戦地域へ潜入――瘴気門の設置準備にかかれ」


 ゼインが、くすりと笑う。


「……はーい。今度は僕のしもべたちも連れていくね。楽しみだなぁ」


「次に、水軍と空軍。海路を確保しろ。今回の主力は海軍とする」


「ガルド、練度はどうだ?」


 ガルドが牙を見せて笑う。


「がっはっは……まぁ、な。連中、寝かせすぎて少し鈍ってやがったがよ。ドワーフどもと遊ばせてやったら、だいぶマシになったぞ。任せておけ」


「主力だ。失敗は許さん」


「空軍は、支援ね。ワイバーン部隊を出すわ。上空から制圧、退路を断つ」


「それで構わん。任せよう」


「また途中で妨害は入るだろう。だが構わん。最優先は――目的地への到達だ」


 一拍。


「主力部隊の到着後、門を開く。陸軍は精鋭を投入し、支援に当たれ。目標は――破壊工作だ」


 バルグが低く笑う。


「応とも。前回のフェルメリアのレオンだったか? あれくらいのがいるとたぎるんだがな。ははっは」


 地図の一点が赤黒く染まる。


 沈黙。


 ヴァネッサが、くすりと笑う。


「ふふ……面白いわね。そういえば各国で行う世界会議とやらが定期的に開かれているわ。今回の奇襲で――各国、相当警戒しているみたい。……盗み見されているとも知らずにね」


 ヴァネッサが、肩をすくめる。


「ただ今回の奇襲は相当堪えたみたいよ。各国の連携が勢いを増している。油断しないほうがいいんじゃないかしら?」


 一瞬の間。


 ノリスの視線が、わずかに細まる。


「当然だ。だが――それで何が変わる。油断などしてはいない」


「ヴァネッサは、アイゼンハルトを警戒しろ。引き続き、防衛を優先としてくれ」


「ふふ……攻めないの?」


「今はまだ、その時ではない」


「……了解」


 その瞳に、愉悦が宿る。


 ノリスが、静かに言う。


「兵站は最小限だ。戦は、長引かせなければよい」


「ディアス」


 一拍。


「導き手が現れた際は――お前が止めろ」


 ディアスは、わずかに目を細めた。


「……ああ」


 ノリスが地図へ視線を落とす。


 指を伸ばす。


 その一点を示した。


「次は、ここだ」


「それぞれ、準備を始めよ」


 誰も、異を唱えない。


 わずかに、誰かが笑みを浮かべた。


 それが――答えだった。


 戦は、すでに始まっている。


 外では、冬の嵐が収まりつつあった。

お読みいただきありがとうございます。

次回で第3章完結となります。

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