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勇者とは呼ばれずとも 封じられし精霊と少年の物語  作者: カイメイラ
第3章 王国騒乱編

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第62話 戦いのあと

第62話 戦いのあと


 戦いが終わり、解散命令が出されたあと。


 リオは母とアストルと共に家へ戻る途中、いつもの道の惨状を目にした。


 崩れた塀、焼け焦げた屋根、砕けた石畳。


 胸の奥に不安が広がる。


 ――家は、どうなっているんだろう。


 急ぎ足で帰り着き、扉を開く。


 だが。


 家は幸いにも無傷だった。


「よかったわ」


 母がほっと息をつく。


「今日はもう休みましょう」


「そうだね」


 その日は三人とも疲れ果てて、すぐに眠りについた。


 翌朝。


 母はありあわせの材料で朝食を作っていた。


 リオは急いでそれを口に運ぶ。


「いただきます!」


 ほとんど同時に、椅子を引いて立ち上がる。


「行ってきまーす!」


「瓦礫も多いから、気をつけるのよ」


 サビアの声が背中に飛んできた。


 慌てて支度を整えると、家を飛び出した。後ろからアストルも軽い足取りでついてくる。


「みんなの様子を見に行くんでしょ?」


「うん。王城の医務室にいると思う」


 二人は顔を見合わせ、小さくうなずくと王城へ向かって走り出した。


 戦いの翌日、王都はまだ騒然としていた。


 広場の噴水は一部が壊れていたが、それでも水だけは止まらず細く吹き上がっていた。


 それでも、人々は瓦礫を脇へ寄せながら店先を開き始めていた。

 簡易の台を出し、パンや干し肉、野菜を並べる者もいる。


 だが、街は確かに動き出していた。


 兵士たちは瓦礫を運び、職人たちは壊れた家屋を見回り、負傷者は次々と医務室へ運ばれていく。


 城下町では大きな鍋から湯気が立ち上っていた。


「一人一杯までだよ! ほら、さっさと取って次の人!」


 騎士団食堂のマリアが腕をまくり、職員たちを総動員して炊き出しを仕切っている。大鍋をかき回す料理人、皿を配る見習い、列を整理する兵士まで手伝いに回っていた。兵士も住民も長い列を作っている。


 疲れきった顔の中に、少しずつ活気が戻り始めていた。


 昼頃。


 王城の見晴らし台に二つの人影が現れた。


 フェルメリア一世。


 そして隣にはセオドール宰相。


 王は拡声器のような魔道具を手に取り、王都中に声が届くよう魔力を込めてから口を開いた。


「皆の者、突然の襲撃であったが、よく耐えてくれた。王として感謝を述べる」


 ざわめいていた城下町が静まり返る。


「我々は生き延びた。それこそが勝利だ」


 王の声は落ち着いていたが、確かな力を持っていた。


「王都はひどい有様だ。だが、皆の力を貸してほしい」


 一呼吸。


「そして感謝の意を込めて、私の財産から復旧支援を行う。そして今年の税は免除する」


「以上だ」


 一瞬の静寂のあと――


「うおおおおおおお!」


 城下町から爆発するような歓声が上がった。


 その頃、王城の廊下。


 リオは病室へ向かって歩いていた。


 途中、荷物を抱えた男とすれ違う。


「おう、坊主!」


 ダリウスだった。


 回復薬や包帯が山のように積まれた箱を運んでいる。


「戦場は物資不足でな! ありったけ売りつけてやったぜ!」


 満面の笑みでほくほくしている。


「さすがだね」


「おう! またな!」


 手を振りながらその背を見送った。


 その後ろからエルヴィンが現れた。


「結界装置の件で王から呼び出されてね」


 肩をすくめる。


「魔族すら一瞬ひるませたって評価されたよ。改良しろってさ」


「うん、あれすごかったよ。あれがなければ死んでたかもしれない」


「おっと、命の恩人になったってことか。今度また研究に付き合えよ」


「お手柔らかに……」


 その横を白衣姿の男が駆け抜けた。


 白衣の袖を腕まくりした医務室の勤務医──パトリックだ。


「次! 重傷者をこっちに運べ!」


 大忙しで走り回っている。


 リオは小さく会釈すると、そのまま病室へ向かった。


 病室の扉を開く。


 そこには静かな空気が流れていた。


 ベッドに横たわっているのは、レオン、ファルト、ミラ、セフィーナ、そしてグラヴィス。


 ディアスとの戦いで受けた傷は深い。


「みんな大丈夫?」


「まぁなんとかな」


 ファルトが答える。隣には母のクラリスがおり、静かに会釈した。


「ファルトに比べたら平気よ」


 ミラが強がる。


「そうですよ」


 セフィーナがフォローする。


 リオはそっと手をかざした。


「リカバリー」


 柔らかな光が広がる。


 だが、何度かけても劇的な回復には至らない。


 消耗を少し和らげる程度だ。


「無理はいかんですぞ、リオ様」


 セレオスが穏やかに言った。


「本格的な治療はこちらで行いますので、安心してください。皆回復傾向です」


 その言葉に、リオは小さくうなずいた。


 レオンがゆっくり体を起こす。


 セレオスは胸の傷を覗き込み、眉をひそめた。


「これは……魔剣の傷ですかな」


「あぁ、厄介な剣だった」


 傷口の周囲に黒い影のようなものが広がっている。


「瘴気のようなものが侵食しております」


 静かな声で続ける。


「完全な治療には時間がかかるでしょう」


「まぁ、とりあえずは動けるようになりさえすればいいさ」


 レオンは傷口をちらりと見て、小さく笑った。


「借りができたな……次は、返す番だ」


 リオはその言葉を聞きながら、拳を握った。


 ディアス。


 あの男との力の差を、改めて思い知らされる。


「ねえ、アストル」


 リオが小声で尋ねた。


「ディアスは……精霊紋を解放したみたいに、さらに強くなっていたけど……僕にもできるのかな?」


 アストルは腕を組んで首をかしげた。


「うーん……たぶん、もっと精霊魔法を使いこなせるようになったらできるんじゃないかな?」


「そうなの?」


 アストルはニシシと笑う。


「まあ、ホーリーシールドを使いこなせるようになってからの話だね」


「もうちょっと色々教えてくれると嬉しいんだけど」


「色々曖昧でね。僕もわからないことが多いんだ。ごめんね」


「そうなんだ……」


 その時、セレオスがぽつりと呟いた。


「……あの声」


 皆の視線が向く。


「かつて宣戦布告の時に響いた声です」


 遠い記憶を見るように目を細める。


「私がまだ修業時代の頃。アクウェリナ様が囚われた映像が映し出されたとき、この声を聞いて……震えたものです」


 部屋の空気が少しだけ重くなる。


 そこでグラヴィスが口を開いた。


「根源魔法と言っておったな。ディメンションゲートとな……」


 皆がそちらを見る。


「大精霊様がこの世界の理を作られた時に関わる魔法じゃろう」


 顎髭を撫でる。


「人間にはとても扱えるものではないわい」


「おそらく伝説とされる転移系の魔法であろう。魔王軍が消えたことから魔王領まで転移したのかもしれんな」


 しばらくの沈黙のあと。


 グラヴィスがベッドからひょいと立ち上がった。


 金属の音が小さく響く。


「ほーれ」


 失ったはずの右足に銀色の足が生えていた。


 器用に義足を動かして見せる。


「指まで動くぞい」


 金属の足をくいくいと動かした。


 そのまま病室の中をぴょんぴょんとスキップする。


「ほーれぴんぴんしとるわい!」


 ミラが頭を抱えた。


「すごいんだけど……はぁ……もう、おじいちゃん!」


 グラヴィスは満足げに笑う。


「そういや楼蘭帝国にいる弟子が昔研究しておってな」


「あそこは金属魔法の国でのう」


 病室に、小さな笑いが広がった。


 戦いは終わった。


 だが──


 リオは静かに窓の外を見上げた。


 王都の空は、まるで何事もなかったかのように青く澄んでいる。


 まだ、すべてが終わったわけではない。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は戦闘後の王都の様子と、それぞれの傷や余韻を書いた回でした。

まだ戦いは終わっていませんが、次回は魔王軍側の動きも少し描く予定です。


引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

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