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勇者とは呼ばれずとも 封じられし精霊と少年の物語  作者: カイメイラ
第3章 王国騒乱編

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第61話 魔王の声


 ディアスの耳元の魔法陣の中心がゆっくりと沈み込み、小さな闇の空間が口を開いた。


まるで離れた場所と繋がる“窓”のように、闇の向こう側が揺らめく。


「……ノリス様」


低く呟く。


魔法陣の向こうから、冷静な声が響いた。


「ディアス。帰還命令です」


その声は、いつもの冷静さの奥にわずかな緊張を含んでいた。


「……は?今この状況でですか?」


決戦の直前。


その言葉はあまりにも不自然だった。


ディアスの眉がわずかに動く。


だが、ノリスの次の言葉を聞いた瞬間――


ディアスの表情が凍りついた。


言葉を失う。


その直後だった。


美しく、はかなげな旋律が戦場に流れた。


それは音楽というより、空気そのものが震えているような不思議な響きだった。


そして――声。


三十年ぶりに人類が耳にする、魔王の声。


その声に、レオンの表情が一瞬だけ強張った。


大神官セレオスは驚愕した。


その声を聞いた瞬間、戦場の空気が凍りつく。


心の奥底を、静かに覗き込まれるような感覚。


抗えない恐怖が、兵士たちの背筋を走った。


静かな声が落ちる。


「帰還せよ、ディアス」


次の瞬間。


闇が波のように広がった。


――闇根源魔法


《ディメンションゲート》


空間そのものが歪み、黒い渦が戦場を覆う。


闇はディアスの身体を包み込み、転移が始まった。


それは、この戦場だけではなかった。


かつて晩餐会で披露された、魔王の余興。


ノリスの言葉が脳裏に蘇る。


『これは、陛下の永続支援魔法でございます。内容は……そのときが来れば、わかるでしょう』


その魔法が、今この瞬間に発動していた。


戦場にいる魔王軍精鋭たちにも、同時に。


「!?」


ディアスの目が見開かれる。


「さすが魔王様……次元が違う……」


エクリプスが小さく笑う。


「なにこれ……すごい……」


リアーナが驚きの声を上げる。


「うぉお?」


バルグが素っ頓狂な声を出す。


「あちゃー、負けたのもばれちゃうなこれ」


クロキリに首を跳ねられたはずのゼインが、物陰からひょいと顔だけ覗かせ、眉を上げる。


闇の波動がすべてを飲み込んでいく。


その中で――


ディアスは血走った目でリオを睨んだ。


「命拾いしたな」

その声は静かに震えていた。


エクリプスはリオに向かってべろべろばーと舌を出した。


次の瞬間、闇が閉じる。


魔王軍の姿は消えていた。


さらに、そこに転がっていたはずの魔物の死体すら消えていた。


「え……死体まで……?」


静寂が戦場だった場所を包む。


誰もが、その場で立ち尽くす。


やがて――


兵士の一人が声を上げた。


「……魔物が……いない」


ざわめきが広がる。


「終わった……?」


歓声が上がった。


「終わったの……?」とサビアが不安そうに呟いた。


リオはまだ立ち尽くしていた。


「そうみたい……」


そう答えたリオの声は震えていた。


「でも僕……何もできなかった」


拳を握りしめる。


「あんなに訓練したのに……どうして……」


膝が崩れる。


リオはその場に泣き崩れた。


サビアが静かに抱きしめる。


「あなたはよくやったわよ」


少年の慟哭が戦場に響いた。


その肩を、小さな手がぽんぽんと叩く。


アストルだった。


「ここ最近、精霊の力を使えるようになったばかりにしては、かなり頑張ってたと思うよ」


少しだけ間を置く。


「……あいつらが異質すぎるんだ」


しばらくして。


リオははっと顔を上げ、周囲を見渡した。


そこへ一人の男が歩み寄る。


クロキリだった。


「お前の隊の仲間はかなり傷を負ったが、無事だ」


「安心しろ」


周囲ではすでに大神官セレオスを中心に治療が始まっていた。兵士たちも総動員で駆け寄り、倒れた仲間を抱え起こす。


「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」


「こいつまだ息がある! こっちに運べ!」


「回復魔法だ、急げ!」


光魔法が戦場に広がる。


その傍らで、ダリウスが王城からかき集めてきた回復道具を必死に配っていた。


「ほらこれ使え! まだあるぞ、こっちにも回せ!」


王城の門からは次々と人が駆け出してくる。


担架を運ぶ者、包帯を抱える者、傷ついた兵士を支える者。


戦場は一気にてんやわんやの騒ぎになっていた。


その中を、ひとりの女性が駆け抜ける。


ファルトの母、クラリスだった。


「ファルト……!」


倒れている息子の姿を見つけ、クラリスは息を切らして駆け寄った。


「ファルト……お願い……返事をして……」


震える手でその胸に触れる。


――とくん。


確かな鼓動が指先に伝わった。


その瞬間、クラリスの瞳から涙があふれ落ちる。


「よかった……生きてる……」


少し離れた場所では、エルヴィンがひょいと手を上げる。


「よっ!」


リオに軽く合図すると、怪しげな薬瓶を取り出し、次々と負傷兵に塗りこんでいく。


「ちょっとしみるぞー、我慢しろよ!」


一方――


レオンだけは動かなかった。


彼は静かに、自分の胸元の傷を見つめていた。


それは、バルグの魔剣が残した一撃の痕だった。


リオの目が揺れる。


「みんな……よかった」


頬を伝った涙の跡を拭う。


そしてゆっくりと天を仰いだ。


先ほどまで戦場を覆っていた闇は、嘘のように消えている。


(まだ……終わってない)


次は、絶対にみんなを守れるように――強くなりたい。


戦いは、続く。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


ついに戦場に響いた「魔王の声」。そして今回、魔王の扱う“根源魔法”が初めて登場しました。

そしてリオにとっては、大きな敗北の回となりました。


それぞれの戦いはまだ終わっていません。

リオの決意が、この先どこへ向かうのか——。


次回もぜひお付き合いいただけたら嬉しいです。

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