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ライカンスロープ  作者: 葉倉千緒
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科学の力

「ちゅーか、詩織よ。メディラボって何な?」

「メディカル・ラボラトリー、医療研究所だし」

「研究所て?」

「医療の研究をする場所。三枝病院の私設だし。治療法や術式、医薬品の開発とかやってる」

「大学の医学部みたいやな」

「まんまだし。医学部と違うのは、学生じゃなくて実際の医者が集まってんの」

「詩織の病院の施設なんか?」

「うーん、ビミョーに違うし。一応、三枝病院の系列の団体だけど外部から医者が来るから、中身は外様だし」

「でも、三枝の人間がトップなんやろ?」

「まあ、名前だけ爺ちゃん名義で、ほとんどが他の病院から転職してきた人間だらけだし」

「そやから、役員の孫権限で入れんねやな」

「まあね。昔は三枝病院の一機関だったけど、赤字部門だから分離させて別法人にしたし」

「わ、私もぉ……メディラボにいましたぁ……」

背後から割り込む塚田。


「わっ!? 何な、おったんかい!」

「は、はいぃ……パスカードが必要なんでぇ……」

塚田は自らの首に掛けたラスターをちらつかせる。


「しゅ、守衛には話をしておきましたんでぇ……」

「ありがと、塚田。みんな、ここだし」

着いた場所は二階建ての小綺麗な建物だった。


「えらい綺麗な建物やんなぁ」

「新築したばかりだし」

「こ、今年の春に完成しましたぁ……」

「去年までは朽ち果てる寸前のボロ小屋だったんだし。それが、守衛まで設けて立派になったし。正直、こんな立派にする必要があったかも疑問」

「何な、詩織。メディラボにええ感じやないんやな」

「工費は三枝病院持ちだったし。医薬品なら薬科の施設で十分、三枝病院にも研究機関はあったし」

「……お嬢様たちぃ、入りましょう」

塚田はラスターをリーダーに押し当てる。ピーという開錠の音がした。


「開きましたぁ……皆様、奥のL4にお越しくださいぃ……」

「シオが案内するし。塚田、ありがと」

「いえいえ、お嬢様……ですが、L4に入るにもパスカードが必要ですぅ……」

「そうなの? じゃあ、案内して」

「はいぃ……」

塚田が先頭に立ち、一同を誘導する。


「暗ないか? 電気あらへんの?」

「ありますよぉ……」

「節約だし」

「そなんか?」

「電気代の節約でLEDにしたから、全開でも薄暗いし。事務室以外は照明も使わせねーし」

「そうなんですぅ……」

「詩織、メディラボに対して厳しいな」

「赤字分を三枝病院本体が埋めてるからだし。初期費用を回収できるほどの利益が出ないからだし。LEDも高いから」

「で、でも、まだこの時間は陽もありますし……」

「言うても、日没まであとわずかやで? 電気点けな見えやんやん?」

「しょうがないです……」

塚田は小さなマグライトを点灯させる。


「看護婦さんから貰った懐中電灯ですぅ……」

「停電みたいやんか」

「だ、大丈夫ですよぉ……L4はちゃんと電気を点けますから。さて、着きましたよぉ……」

通路の突き当たりに目的の部屋があった。


「パスカード……」

塚田はラスターをドアノブに近付ける。入口と同様に、開錠の音とともにドアが開かれる。


「お嬢様たちぃ……こちらがL4ですぅ……」

案内された部屋は中央に手術台、隅にレントゲン機器や様々な医療器具が置かれていた。白いLEDの照明と手術台の無影灯で、部屋の雰囲気は清々しいものではなかった。窓も小さなのが一つ、それもブラインドで閉めきっている。開放的な様子がなく、息が詰まりそうだ。


「ありがと、塚田」

「いえいえ……」

「詩織、ここで俺をどうするつもりだ?」

「まずはレントゲンで体をスキャンするし。ハッセー、そこのロッカーに院内着があるから着替えて」

詩織は入口付近に置かれたロッカーを指差す。長谷川がロッカーを開ける。中には白い寝間着のような衣類があった。


「さくっと着替えろし」

「あ、ああ」

ボクサーブリーフ姿になり、院内着に着替える長谷川。


「うーん、パンツ姿のケモって私の友達が……」

「友里恵、観察はあとにしろし」

「は、はい……」

「……ハッセー、勃起しとるんか?」

「いや、平常だけど?」

「何な、でかなっとるさけ……」

「狼になったら、ここも大きくなったの」

「……そのマスク、どこで買うたん?」

「素顔を取り戻せたら教えるよ」

「ハッセー、着替え終わった? 終わったら、そこのスキャナーに寝転がるし」

手術台の近くにMRIのような、全身を包み込む機器がある。


「私がぁ……ご案内しますぅ……」

「痛っ!」

塚田が長谷川に触れたとき、長谷川の腰に瞬間的な痛みが走った。


「ああ、すみません……ペンを持ったままでした、すみません……」

塚田の手には4色ボールペンが握られている。ペンの先が腰に触れたのだろう。


「あ、いえ、大丈夫です」

「すみません……では、こちらのレントゲンに横になって……」

「はい」


レントゲン機器に横たわる長谷川。塚田がスイッチを入れると、機械が作動する。スキャニングのカメラが長谷川の体を舐め回すように撮影を開始した。


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