白百合の奮闘記
最近アンの様子がおかしいと思う、アンは学園に入学する少し前から何か悩んでいるような不安がっているような…たまに怯えているような表情が増えた。これには普段は感情を表に出さないクロエも心配している様子だった。
だからお誕生日プレゼントを渡せば少しはマシになるのではと思い、アンに似合うリボンを自分でデサインを考えて注文しプレゼントした。とても喜んでいてくれて鏡を見る度に愛おしそうにリボンに優しく触れていてくれているのを見ると頑張ったかいがあったんだなと思えた。
アンはとても立派で強い子に育った、誰よりも優しくて落ち着いていて賢くて……いい所を自慢しだしたら言い終わるまでには一日が終わっているんじゃないかというくらいに私の妹は凄いのだ。
「ロ―ゼ!ロ―ゼ!見ている?あれ!あれは私の妹よ!!」
「静かになさい!分かっているわよ!何回目なの!?」
隣に座るロ―ゼの制服の裾を引っ張って指を指す、私も新入生挨拶をした事があるが緊張で内容を忘れたり少し噛んだりと大変だった。内容を忘れて黙った時に何故か周りの人は私が感極まっているのではと勘違いしてくれたらしくそれはそれで助かった。
問題はここからである…!ノア・ウォ―ドというクソガキ…もといアンに常に色んな方法でまとわりついているお邪魔虫唐変木頑固者堅物無神経…!!アンの自慢をすれば一日はかかるがその逆にコイツの悪口を言えば同じく一日以上はかかる。
初めてアンに会った時から、アンは気づいていないのかもしれないがアイツはずっとアンを見つめていたし!アンと馴れ馴れしく手を繋いで散歩して!全然喋らないからアンを困らせて!!部屋の窓から様子を一緒に見ていたロ―ゼは頬に手を当ててきゃあきゃあと楽しそうだったけど何にも楽しくなんかない!!!
その後アンが嬉しそうにしていたからどうしたのかと聞けば……「いつか杏を一緒に見に行く約束をしたんです…」ですって!!はあぁ!?
それからもアンとアイツは文通を始めて、アンも手紙が来る度に幸せそうにしていたし…!!
お父様が1人で酷く落ち込んでロケットペンダントを見つめていたから理由を聞いたら………!
「ノア・ウォ―ドがアンを婚約者にしたいと申し込んできた…」
それ聞いた時の私の気持ちどんなだったと思う?今すぐにあの黒髪全部剃ってから殴り飛ばしてやりたいくらいに腹立たしいと思ったの!!
アンには絶対に!内緒にしてお父様にも上手く断るようにお願いしたの、アンには幸せになってもらうんだからもっともっと素敵な人を見つけましょうってね!
「私もアンには幸せになって欲しいのは賛成だが、私にはノアを責める権利が無い…今のノアはかつての私だ。ノアにチャンスを与えようと思う…いや試験かな?ノアが公爵令嬢であるアンに相応しい騎士になれたなら許可をすると彼に伝えたよ。」
「そうだったわ…ノアは未来のお父様なのね……それだけは阻止しなければ!アンは絶対嫁には出さないけどそれだけは阻止しなければ!」
父にかなり辛辣な言葉を投げかけてしまったことに気がついておらず、何故か自分が攻撃された事への悲しみにくれた父をそっと執事が慰めている。
それから私は徹底的に邪魔をした、例えばノアがアンに出した手紙に少しでも婚約についての内容が入っていれば、赤ペンで二重線を引いて送り返してやった。アンにはこれが10年もバレていないのはマクレ―ン公爵家に勤めている優秀な人材のおかげである。
会いに来ようとする情報をロ―ゼから聞けばわざとアンを街や旅行に連れ出して合わせないようにした。
毎年誕生日にプレゼントが届けば、送り主の名前カ―ドを適当に考えた偽名に変えた。
今思えば私は多分嫉妬していたのだろう、離れていってしまいそうな妹に少しでも長く傍にいて欲しいが為に酷いことをしたと思っているが、あの男には全く悪いとは思っていないしむしろもっとやればよかったと思っている。
けれども一筋縄ではいかないのがあの男の食えないところである。遠征に行けば誰よりも成果を上げ、馬上槍試合や剣の手合わせなどの試合があれば必ず大人に混じって参加し優勝していた。
そうして何かしらの騎士としての成果をあげる度にわざとアン宛に手紙を送ってくる…中身を覗くと私が突き返すことを知っているかのように憎たらしくてでかい男特有の文字で
「これで少しでも貴方との未来に近ずけたなら本望です。」
気持ち悪すぎて口から砂糖が塊で出るかと思ったわ…勿論私は赤ペンで
「貴様が歩む未来の隣に妹はいない」と書いて送り返してやった。
これを書いている時に後ろであのクロエが吹き出したのは今でもいい思い出である。
アンもあの男の事を友達だと言っていたので安心するが、油断は禁物である。学園にはアイツも入学する事をロ―ゼから聞いている。
ロ―ゼは目をキラキラとさせて素敵よねと同意を求めてくるが、本気であの紫の瞳にはなにが映り込んでいるのか全く分からない。
そしてあいつはやらかした。
入学式を終えてアンを探していると少し離れた所に私の可愛い妹の綺麗な金色の髪が見えた。嬉しくなってすぐに駆け寄ろうとすると目の前に巨大な熊…いや人、あの男が真顔で妹を見下ろしている!妹は後ろ姿だけでも分かるくらいに何かに落ち込んで慌てている。
私自身あの男と再会するのはかなり久しぶりだったが、長年アンを巡って戦いを繰り広げてきた私達の気持ちは多分「またお前かよ」と思っていただろう。
アンは私が徹底的に男が寄り付かないように大切にしてきたので少し恋愛や他人からの愛情に疎い。
それのお陰で恐らくアイツはアンに「友達では無くて貴方と恋人になりたい」的な事を言おうとしていたのだろうが、アイツの言葉足らずがさらに助けになってアンは「お前と友達になった覚えはない」と勘違いしたらしい。
アンは見るからに落ち込んでいて悲しそうだったけど、少しホッとした。これでアンもアイツを気にかけなければいいのにと思っていた……のに!アイツは本当にしつこい…アンと久しぶりに一緒に寝ようと思って部屋に入るとベットに転んでアンが嬉しそうに栞とジャム瓶を抱えてはしゃいでいた。
誰から貰ったのか聞けば…「ノアですわ、彼何故か私のお誕生日を知っていたのよ。」とニッコリとした可愛い笑顔で教えてくれた。
完全に抜かっていた、遠く離れていた過去とは違いアイツはアンと近い所にいるのである。
その翌日私はケヴィンを呼び出して会議を開いた、ケヴィンに会う度にアンの話をする内にケヴィンもアンの事を妹のように気にかけてくれるようになっている。
「ついにノア・ウォ―ドが動き出したのかい?」
「困ったわ!アンが最近毎日楽しそうなの!次の休みには王都に遊びに行くらしいし…心配だわ!あの子とっても可愛いから!!」
「護衛を付けてくれるんだろう?なら安心じゃないか。」
「アイツのお兄様よ!?お父様が何人かに頼んだら是非やらせてくれとお願いしてきたらしいの!あれは絶対周りから固めようとしている作戦よ!!もうウォ―ド家が憎い…!」
「それを言ったらロ―ゼが泣いてしまうだろう?」
お土産の可愛いクッキーも嬉しすぎてギリギリまで保管しておこうと思っていたのに、同じものをアイツにもあげると聞いた時は全てを忘れて頭からかじりついてやったわ。
「リリィ…気持ちは分かるけどそろそろ君もアンを自由にしてやるべきだよ。彼女はとても賢いから変な男が寄り付いても逃げる術を知っている。彼女のような人材が王宮にいればいいのにと思うよ。」
「嫌よ!だってまだ15歳よ…アンにはまだ私が…!!」
まだ15歳…?違うもう15歳が来た、守らないといけない、小さい頃からの嫌な予感が近づいている感じがする。アンが本当に遠くに行ってしまう…タイムリミットがすぐそこまで……。
「リリィ…?どうしたのかい?」
「なんでもないわ…とにかく絶対に嫌よ……今は特に駄目、アンが生きて学園を卒業するまで私はやめないわ!」
「……学園はそんなに危険な場所ではないと思うんだけどな…」
呆れたケヴィンの声も私には届かない、私にはあの子しかいない、あの子にも私しかいない。
ずっと手を繋いで歩いてきた、辛い時も嬉しい時も、一緒に海に行った時は楽しかった、夕焼けの海はとても美しかった…でもそれを見て泣いたアンはもっと綺麗だった。
アンは何かに怯えている、オスニエルとかいう隣国からの皇子が留学生として在学していることは知っていた、彼とは話をした事があるけども何を話したか忘れたし割とどうでもよかった。
私の欲しい言葉は全てアンが伝えてくれた、おはようもおやすみも大好きも白百合を好きになれないことを許してくれた…だから他の人に踏み込んてきて欲しくなかった、私とあの子の幸せな日々を終わらせたくなかった。
本当の私を知ればアンは私を嫌いになるかしら?それは嫌だわ死にたくなるもの…駄目ねあのこの前ではしっかり者でいなきゃ!そうよ帰ってきたら優しくおかえりと言って…クロエがお菓子があると言っていたから一緒に食べようと誘いましょう…!
帰ってきた私の妹は何故か恥ずかしそうな顔で片手に黒い短剣を持っていた、しばらく考えた後に全てを理解した私はアイツを心の中の絶対に呪うリストの1番上にランクアップさせた。




