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杏姫と寂しがり屋

1日学園を休んだ次の日、朝デイジーの所に向かうととても心配していたのか泣きそうな顔で私の体調を心配してくれた。


「良かったわ!アンが倒れた聞いて心配になったのよ!!」

「ごめんなさいデイジー、昨日は念のためにお休みしたのだけどもう平気よ。心配かけたわねありがとう。」


それから2人でしばらく雑談した後に、授業の為それぞれの教室に戻る。1日休むと授業も進んでいるので分からない所もあり、後で聞きに行くべきか悩んでいるとふと隣の席の男子生徒がノートを片手に話しかけてきた。


「やぁアン公爵令嬢、昨日はお休みしていたんだろう?これ良かったら板書と説明をノートにまとめてあるから使ってくれたら嬉しいよ。」

「まぁ…!ありがとう、とても助かりますわ。」


ノートを見せてくれた彼はアベル・セレスタン、辺伯爵の家の三男で休み時間に話をしてみると彼とは妙に話が合った。同じ猫好きや読書好き…特に童話や図鑑が好きな事も同じでお互いに話が盛りあがる。


「公爵令嬢が同じクラスだなんてみんなびっくりして、話しかけずらかったけど案外君は話しやすい人なんだね!もっと早くに話しかけていればよかったよ。」

「私も自分から話しかけるのは勇気が必要だったから…とても嬉しいわありがとうアベル、宜しければ私の事はアンで構わないわ。」


それからお昼が来たのでいつものようにデイジーとの待ち合わせ場所に向かおうと思いアベルに声をかける。


「ごめんなさいアベル、私お友達とお昼を食べる約束をしているの…ここで失礼致しますわね。」

「ねぇその友人ってデイジー・アンダーウッド子爵令嬢のこと?」

「ええそうよ?彼女がどうかしましたか?」


アベルは少し辺りを見渡すと私に手招きをして耳元でそっと囁いた。


「あんまりこういうこと本人に言うのはどうかと思うけどさ……デイジーちゃんだっけ?裏で君の悪口とかありもしない噂を流してるみたいなんだよ。この間なんて自慢気に公爵令嬢の杏姫は私しか友人がいないのよ?滑稽よね!って言ってたらしくて…あっ!ごめんごめん!違うんだ!君が少し心配でさ……。」


デイジーがそんな事を言うだろうか?彼女は私ともう10年以上の親友である。彼女がそんなことを言う人間には思えない…私は信じない、そう思いながらデイジーの元に向かうといつもの場所に彼女がいない。

いつもここのベンチに座って待っていてくれて、私を見つけると笑顔で手を振って名前を呼んでくれる彼女の姿が無い…私が少し遅れて来てしまったので私より遅くなっていることもないだろう。


ふとベンチのすぐ側にデイジーがいつも付けていたネックレスが落ちている。首につけるネックレスを簡単に落っことしてしまうだろうか?………嫌な予感がする。


私は何となく彼女が何処にいるか見当がついた、もし彼女があれに巻き込まれているのなら……きっとあそこにいるはずである。

学園の校舎の隅の壁際に何人かの姿が見える、走って向かうと案の定何人かの令嬢がデイジーを取り囲んでいた。デイジーは涙目でけれども怒った顔で令嬢達に負けじと睨みつけている。


「貴方達は何をやっているの!!!」


大声で怒鳴るとびっくりしたように令嬢達が振り返る、私は無視してその間をズンズンと進みデイジーを庇うように立つ。


「アン…!」

「大丈夫デイジー…ごめんなさい、遅くなったわ。」


デイジーから視線を外し、令嬢達を睨みつけると一瞬怯んだように見えたが彼女達はすぐに


「ア、アン・マクレーン様…貴方はそこの子爵の家の者に騙されているんです!そこの女は貴方様の悪口やありもしない噂を広めている犯人で…!」

「お黙りなさい!デイジーがそんな人間ではないことは私が1番知っています!!よく見ればデイジーの服が少し乱れているわ…それに少し頬も赤い……彼女が本当にそれをしたのか貴方達は確かな証拠と確証を得て彼女に暴力を振るったのですか!?」

「そ、それは…!ですが私達は本当に!!!」

「本当に?なにが本当なのかしら?」


そう言うと令嬢達は黙り込む、どうやら彼女達の方がありもしない噂に騙されていたのだろう。とにかく名前を聞き出してその場を立ち去ってもらう。


「アン……私本当にっ!信じて!!私アンの悪口なんか言ってないわ!私のお友達もアンだけだもの!大切なアンを傷つけたりしない!」

「知っているわデイジー…貴方こそこれしきの事で私が貴方を疑うと思ったの?…貴方は私の1番のお友達だから……それより助けるのが遅くなったわ…怪我してるわね医務室に行きましょう。」

「怖かったよぉ…!わ、私っ!言ってないのに!!」


泣きじゃくるデイジーをそっと抱きしめて背中をさする、デイジーの肩は震えていた。自分の情けなさや不甲斐なさに怒りが込上げる。


「デイジーこれ貴方のでしょう?これが落ちていたおかげで気づけたのよ…。」

「ネックレス…!ありがとうアン!!!」


その後はデイジーと医務室に向かい、職員室で教員に事情を説明した。彼女達は貴族だから多分罰も数週間の謹慎と軽いものだろう。だとしても帰ってきたら私が直々にちゃんとした罰を与えてやりたい気分だった。


「やぁアン…今日は2日前と比べて体調は悪くなさそうだし、どちらかと言えばご機嫌ななめのようだね。」

「オスニエル様……御機嫌よう。」


常に彼の近いところにいないか気をつけていたつもりだったのに、友達を傷つけられた怒りで忘れていた。


「昨日休んでいたみたいだから心配だったんだ、君のお姉さんとも話をしたけど彼女は妹思いの優しい人だね。少し君とも話がしてみたいんだけどどうかな?」

「ご心配頂きありがとうございます、私はこれからやらなければならない事があるので…申し訳ありませんがまた次回に。」

「レディをお茶に誘って断られたのは初めてだよ…でもいいのかな?俺は君が知りたがっている情報を知っているよ?」


私が知りたがっている情報…?デイジーの事だろうか??誰かが私のありもしない噂を流し、犯人をデイジーに仕立て上げた…私としてもそいつの顔面をぶん殴ってやりたいくらいに腹が立っている。

私はオスニエルのお誘いを受けることにした。


「俺の事はオスニエルだけで構わないよ、この国にいる限り俺は余所者だから…それに呼び捨てで呼び合う中も悪くないと思うしね。」

「オスニエル様が知っている情報はなんですか?」

「スルーされたのも初めてだよ、まあデイジーという子爵令嬢の事だけどね…彼女が犯人じゃないよ。なんで知っているかと言われれば俺は噂話が大好きだからね、それに俺についての噂もあるだろう?放っておくとさらに嘘を流されてしまう。」


確か、オスニエルが倒れた私をお姫様抱っこして保健室に連れていった事だろう。あれに関してはオスニエルと私が恋仲ではないかなどの噂が流れていて、姉に問い詰められた時はヒヤリとしたものだ。


「デイジーじゃないなら誰なのですか?」

「それがよく分からないんだよね、その噂を流している人は誰かに変装しているみたいでさ…今回の噂はアンの友達に変装しているんじゃないかな?緑色の長い髪の女に噂を聞いたと言っていた人が何人かいるんだよね。」


腹立たしいコソコソと人に化けて、ありもしない嘘で人を惑わせて大切な友達を傷つけた。


「君はお姉さんとはまた違って綺麗な人だよね…_怒ったら普段は優しそうな杏色の瞳がまるで空が燃えているように見えるんだ。……君くらいだよ俺と話す時にそんなにも不機嫌そうな顔をするのは。」

「そうやって軽率に女性を弄ぶような発言はあまり宜しくないかと、勘違いして貴方に恋焦がれ嫉妬に狂った女性は恐ろしいのですから。後ろから刺されてしまいますよ…。」


彼はきょとんと私を見つめると可笑しそうに笑う、なんで私は彼を好きになったのだろうか?優しい仮面を被った酷い人、この人は何を言えば人が喜ぶのかを知っている、自分の言葉や態度一つで簡単に人の心が動かせれることを彼は理解している。


……残酷で冷酷で寂しい人


貴方も愛を知らないのね、ずっと知らずに生きているのね。

悲しい人


楽しそうに笑う彼を私はしばらくの間冷めた顔で見つめていた。



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