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守護と守護代

春日山城で待つこと数日。

ようやく兄上がこちらに帰ってきた。

随分のんびりとしたものだと思っていたが、それには理由があった。

で、その理由となる人が兄上より上座に座っている。

越後の国内において、兄上よりも上座に座ることの出来る者は決まっている。

そう、越後守護の上杉定実様である。


「此度の黒田秀忠の件、まことに見事だった。晴景も出来の良い弟を持って幸せよな。」

「はい、ここまで良くできた弟を持って、望外の幸せと感じております。」

「それに、古志郡の平定についても聞いておる。その知勇は越後一、いやいやそれ以上のものとも噂されとるようじゃ。」

「恐縮です。」


何故、このような事になったかと言うと、どうにも私の留守中に栃尾城に私を訪ねてきたようなのだ。

しかし、私は既に出立した後の事であり、たまたま居合わせた兄上が饗応してくれたという話のようだ。

しかし、上杉定実ねぇ。

上杉の名字は知っていても、この人が誰だかピンと来ない。

私が耳にしたのは、権威はあっても実力が伴わない、言ってしまえばお飾りのようなものといったところだ。

私が物心ついた頃(というかこの時代にて、意識的に私を私と理解した時点)では、父上が国政を取り仕切っていたし、父上亡き後は、兄上がその役を担っている。

私も面識があった訳じゃないし。

なんで栃尾城に来たのか、皆目検討がつかない。

いきなり来られても、ハッキリと言って困るのよね。

変に偉い人が来られても。

それに、私がこの人と通じているとか思われるのも困る。

それが狙いのような気がするわよね。

古志郡で起きた反乱もこの人の名前が上がっていたし、それが収まったら次は私のところとか、節操無いわよね。

二股、三股するような節操無い男ってどうかと思う。

この人のせいで兄上と反目するような事になったら、シバキあげてやろうかしら?


「しかし、守護様は何故に栃尾城に?」

「ん?うむ。越後の動乱に何より心を痛めていたのは儂じゃ。ゆえに、それを平定させた手腕を誉めてやろうと思うてな。」

「それは長尾家にとっても、景虎にとっても至上の誉れと言えましょう。」

「そうだろう、そうだろう。」


二人とも、笑顔でそらぞらしい事を言い合っている。

これが腹芸というやつかな?

兄上も、何時もより口調が固い。

何とも背筋に嫌な汗をかきそうよね。

ふいに兄上がこちらに体ごと向けてきた。


「して、景虎。お前はそろそろ栃尾城に戻らねばならぬのではなかったか?。」

「あ、そうですね。しばらく空けてしまってましたから。」

「そうだろう。自らの持つ領地を大事にせねばならぬ。民に無用な心配をさせるのはよろしくないからな。」

「それは勿論です。」

「では行け、景虎。時間は有限であるからな。」

「はい。守護様も失礼致します。」

「いや、待て。まだ歓談を続けても良いのではないか?」

「申し訳ありませんが、弟の差配は任せて頂きたく。」

「ふん!仕方あるまい。民の慰撫に勤めるのじゃぞ。」


私は頭を下げた後、部屋を出る。

どうやら兄上が逃がしてくれたようだ。

私としても、このようなところに留め置かれるのは嫌だったので良かったわ。

さて、戻る前にお母様にご挨拶をしていかなくては。

栃尾城では折角来て下さったのに、会うことも出来なかったのだから。

そう思って城内を移動する。


「景虎です。入ってもよろしいですか?」

「まあ、景虎。すぐにお入りなさい。」

「では、失礼します。」


中に入ると、笑顔のお母様が座っていた。

まさに慈母の笑顔でだ。


「栃尾城では申し訳ありませんでした。わざわざ来て下さったのに、何もお構い出来ませんで。」

「何を言うのです。お勤めこそ大事にしなくてはなりません。でも、その気持ちは嬉しく思いますよ。」

「そう言ってもらえると、ありがたく思います。」

「さあ、そんな隅にいないでもう少し近くで顔を見せてください。」

「わかりました。」


お母様に言われた通りに近付く。

すると、私の顔を両手ではっしと掴み、まじまじと私の顔をみてくる。

えーっ、身動きとれないじゃない。


「お母様、動けないです。」

「あら、いけない。」


私が伝えるとすぐに離してくれる。

咄嗟の行動のようで、少し恥ずかしそうだ。


「本当に立派になりましたね、母は鼻が高いですよ。」

「そんな、まだまだ至らないことばかりで、お恥ずかしい限りですわ。」

「そんなことはありません。これからも晴景の力になってあげてくださいね。」

「お母様、言わずもがなです。」

「うん、あなたならそう言ってもらえると思ってましたよ。」

「それでは名残惜しいですが、もう戻らなくてはなりませんので。」

「そうですか。それは残念です。また、何時でもいらっしゃい。母はその日を待っていますよ。」

「はい、ありがとうございます。」

「それから、三人は栃尾城に置いてきました。」

「えっ!そうなのですか?」

「私以上にあなたに会いたがっていましたからね。晴景に相談したら、周囲の安全が取れたから、置いていくのも良いと言ってくれましたから。」


つまり、栃尾城に戻れば妙と結と香の三人娘に会えるということね。

また、林泉寺の時のように仲良く暮らす事が出来るのか。

これは楽しみね。

ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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