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揚物

栃尾城に戻ると、三人娘に出迎えられる。

妙は淑やかに、結は朗らかに、香は元気良く「お虎様、お帰りなさい。」と言われる。

そして、香には飛び付かれる。

久々の三人の顔を見れて、私も満足だ。

いつの間にか、お虎兄ちゃんからお虎様に変わっているが、私は気にしない。

好きに呼んでくれれば良いと思う。

なんか、女性を呼ぶみたいでなんか良いじゃない?

飛び付いてきた香を落とさぬように抱き抱えながら、廊下を歩く。

本当に昔に戻ったみたいだ。

それが何ともくすぐったい。

三人には、これからは栃尾城で生活をしてもらう。

とはいえ、お姫さまのような生活をさせることは出来ないので、侍女の真似事をしてもらいながらになる。

春日山城で仕込まれたのか、きびきびと働く姿に驚かされた。

また、しばらくの間は城を出る事なく、内政に力をそそぐ事になった。

部屋に籠りっきりになってしまうが、誰も文句は言わない。


「重太、そっちの帳面を取ってもらえる?」

「これですか?」

「そうそう、それよ。全く、こんなんでよく国が治まっていたわよね。」

「そんなに酷いんですか?」

「酷いというか、何もやってないに等しいのよね。どれもどんぶり勘定っていうの?どれも大雑把な計算でしか出来てないし。これ多分、年貢も取りすぎてるところがあると思うのよね。」

「へー。スゲーな、お虎兄ちゃん。よくそんなこと分かるよ。」

「弥太も出来るようになってよ?」

「うへー!」


内政と言っても、大したことはしていない。

ひたすら、ざっくばらんな帳簿をより分かりやすく直すというだけだったりする。

何かをするためには元手がいる。

その元手を捻出するためには大事な事だ。

収入と支出の欄を分けて、現在の備蓄がどの程度あるか。

どれだけマイナスがあって、どこに無駄に使われているか。

ただそれを直すだけで、全然見え方がかわってくる。

ハッキリと言って、家計簿に毛が生えたような程度なのであるが、それでも現在の状況よりましになるのだから、その杜撰さがよく分かる。

もっとしっかりとした内政官が欲しいところだ。

何せ、私の周りには俗に言う脳筋な人達ばかりなのだから。


さて、そんなことをし続けて数日経つ。

毎日、数字とにらめっこなんてしていると、どうにも肩が凝るわよね。

憂さ晴らしが、そろそろ必要になってきたんじゃないかしら。

私の手元には、兄上からの書状が届いている。

内容をざっくり言うと、定実様がどうにも私に興味を持ったらしく、また栃尾城に来訪するかもしれないというのだ。

面倒事はごめんではあるが、来たいというものは仕方が無いのかな?

ハッキリと断っていいなら断るけど。

まぁ、今から気にし無くてもいいか。


「そんなわけで、景虎と」

「妙と」

「結と」

「香の!」

「戦国クッキング!」


厨にて、前と同じような掛け声をかける。

別に掛け声は必要無いのだが、何となくの気分というやつよね。

「またやってるよ。」と弥太と重太が話しているようだ。

文句を言うと食べさせないわよ?

何故か、私達の調理風景を見ようと、黒川殿と鮎川殿の料理をねだった二人以外にも、何人か見学に来ている。

どこから聞き付けたのか分からないが、来てしまった以上は邪険には出来ない。


「二人には悪いけれど、来てしまった以上は皆の分も作るわ。」

「まあ、それも良いでしょう。」

「さよう。そこまでケチな事を言っても仕方無いでしょう。」

「二人の懐の広さが分かったのは収穫ね。」


さて、今回作るのは天ぷらだ。

ざっくりと言ってしまえば、水で溶いた小麦粉を材料にコーティングして油で揚げるといった物だ。

ハッキリと言って、蕎麦切りよりも遥かに制作難度が下がる。

そりゃ、私は天ぷら職人でも何でも無いから、ダマが出来たりするだろうし、薄皮の衣に仕上げるのも難しいだろう。

それでも、ただ作るだけというのであれば、やはり難度はそう高いものではない。

三人には、食材を食べやすい大きさにカットしてもらう事として、私は順繰りに揚げていく。

さすがに、油の取り扱いは危険なので私が面倒を見る。


「何と!あの量の油を使うか!」

「それに、あのドロリとした白い物体は何だ?」

「相変わらず面妖な物よ。」

「バッハッハ、旨ければそれで良いだろうよ!」

「おおう、油がバチバチと跳ねておる!あれは危なくは無いのか!」


口々に感想を言っていくギャラリーの一同。

料理をしているところなんて、この人らは普段から見もしないんでしょうね。

でも私の考えは違う。

男も女も厨に入っても良いと思う。

そりゃ、メインの仕事は女がやるのは仕方が無いのかもしれないけれど、薪を運んだり火を起こしたりと意外と重労働が沢山ある。

その辺を手伝うのくらいは、男がやってもいいわよね。


さて、第一陣が揚がった。

油を切ると包丁でそれを三分割にする。

サックリという小気味の良い音が聞こえる。

中もチャンと火が通っているようだ。

でも問題は味よね。

食感が良くても、味が二の次では話にならない。


「三人とも、取り敢えず味見。」

「えっ!いいの!」

「調理している人間が、何作っているか分からないと問題でしょう?ほら、冷めないうちに。」

「ありがとうございます。じゃあ、早速。」

「どうかしら?」

「美味しい!」

「ええ、実に面白い料理です。」

「それは良かったわ。」


三人の反応は上々。

なら、早速提供を始めましょう。

待ちきれなくて、身をのりだし始めている者が何人か見えるし。

まずは、今回の報奨として出すのであるのだから、黒川殿と鮎川殿の二人が一番初めに食べるべきだろう。

あ、味見に関してはノーカウントでお願いします。

出来の良し悪しを判断しなくては、流石に出せないからね。

しかし、厨でそのまま食べるというのも、たまには良いのかもね。

床に座る各諸将に、土間から私が出来た物を渡していく。

私が立っているのに、自分達が座ってしまっても良いものかと思案しているようだが、私が許可したのだから問題ないでしょ?


「これは天ぷらという物になるわ。軽く塩をつけて食べてくれればいいわ。それじゃ、二人とも食べてちょうだい。」

「では、早速。」

「ほう、成る程!これは良い。」

「ううむ、酒が飲みたくなりますな。」

「そうねぇ、二人にはお酒を出しましょう。少しくらい差をつけないと、報奨にならないでしょうからね。妙、二人に持っていってあげて。」

「かしこまりました、お虎様。」


妙に、二人の為にお酒を用意させる。

それを横目に見て羨む者ばかりだが、今回は諦めて貰うこととする。


「さあ、どんどん揚げるから皆しっかり食べていってね。」

「おお!」

「楽しみですな。」

「しかし、考えたものですな。揚北衆に振る舞うから、揚物とは!」

「確かに。新たな調理法に我ら揚北衆の名を使って下さるとは。後世にこの調理法が伝われば、我らの名も長く残るというもの。」

「うむ。武功によるものでは無いが、それでも名が広まるのはよき事よ。」


あら?

何か勘違いしている?

まあ、喜んでいるのならそれでいいか。

よーし、バンバン作るわよ!

ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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