中郡平定
後日、景家から長尾平六郎の所領を、支配下に置いたという連絡が届く。
目立った抵抗はなかったらしい。
どころか、居城はもぬけの殻であったらしい。
近隣に住む領民に話を聞くと、平六郎が討ち取られた報せを受けるや否や、直ぐに一族総出で逃げ出したらしい。
というのも、報告に走った伝令が、さも悲惨な様子を伝えて不安をこれでもかと煽りに煽ったみたいだ。
何となく作為的な気もするが。
さらに、主だった将はほぼ出払ってしまっており、この戦に参加しなかった者も、見限って出奔してしまった結果、三十六計逃げるに如かずとなったようだ。
だが、これで中郡の反長尾家の勢力は大幅に弱体化したといえる。
残る有象無象の豪族達を討伐出来れば、この一帯はこちらの物になる。
そんなわけで、この豪族連中を討伐するために、また景家を動かした。
また、以前直ぐに降伏を申し出てこなかった者達には降伏勧告をする。
日和見を決め込んでいたとも、忠義を尽くそうとしていたともとれるが、状況を見通してから動こうとしているように私には見えた。
そのため、これらには当初の予定通りにした。
定満の手腕はやはり確かな物であるらしく、かなりの者達が付き従う形となった。
だが、さっさと降伏を申し出てきた者達は違う。
その為、景家に攻めさせた。
まあ、厳密には攻め寄せただけで、攻撃はしなかったんだけど。
取りまとめをする中心になる人物がいないということが、これ程弱くさせると痛感させられた。
こちらも私の考えの通り、領地を捨てて出ていくのであれば、手を出さないようにさせたのだが、あっさりと領地を捨てて出ていった。
一部、執着して出ていく事を拒む者もいたが、その者達は景家に潰された。
そして、景家が華々しく活躍する一方、泰重はその間こちらがわについた者達の修練に努めていた。
武功こそ上げられないものの、重要な役目であることは間違いない。
どうにも、自分は重太のお陰で仕官できたから、自らの立身出世は望まないとのことだった。
実に息子思いの良い父親だと思う。
それが却って、何か希望に応えてあげたくなるから困ったものだ。
なんにせよ、その想いはありがたく受けておいた。
「中郡の平定、祝着にございます。」
「ありがとう。皆のお陰で上手くいったわ。」
「バッハッハ、これでようやく戦力も揃ってきましたな。」
「上が替われば変わるものですのう。兵達も、なかなか使えるようになってきましたわい。」
「景家も大変だったわね。それに泰重も。」
「そこそこ楽しめましたぞ。」
「もったいないですのう。」
まずは中郡を平定できた事を喜びあった。
定満、景家、泰重の三人共よく働いてくれた。
そのお陰で、早く平定出来たといえる。
「さて、中郡は良いとして問題は下郡ですな。揚北衆は一筋縄ではいきますまい。」
「そうですのう。まぁ、噂しか聞いたことがないんですけどのう。」
「いやいや、あの連中はなかなかに危険な連中ですぞ。戦も強い。」
「うーん、こちらがわについてくれる者はいないのかしら?」
「そうですな・・・何人かは心当たりがありますので、その辺を調略出来るか試してみましょう。」
「うむ。揚北衆を全て敵に回すのは愚策でしょうな。宇佐美殿には、上手くやってもらいたいですな。」
「そうね。味方になってくれる人がいたなら、これ程心強いことは無いわね。定満、よろしく頼むわね。」
「かしこまりました。何とかやってみましょう。」
「さて、それはそれとして何だけど、ちょっといい?」
三人と今後についての話が終わり、私は別の話をしだす。
何の話かと疑問符を頭に浮かべる三人。
「提案なんだけど、中郡を平定出来たんだし、皆で親睦会をしましょう。」
「親睦会ですか?」
「そう、親睦会。以前からいた人と、新しく仲間になった人の仲を取り持つのよ。一緒にお酒でも飲んで語らえば、団結力が生まれると思うのよね。」
「おお、それは良いですな!ここらで宴会というのも!」
「うーむ、まだ全て終わった訳では無いんですが。」
「まあまあ、それもいいんじゃないんですかのう。」
私の親睦会開催という提案に賛成する景家と泰重、やや反対という感じの定満。
でも、たまには息抜きって意味でも良いと思うのよね。
「定満、明日を生き抜く為には楽しみがなくちゃやってられないわよ?それに長尾家側に付いたなら、楽しい事もあるって事を教えてあげたほうが良いと思うの。」
「ふむ。それは揚北衆に対しても、ある種の牽制になるかもしれませんな。」
「でしょ?」
何だかよく分からないけど、勝手に何か思い至ったのか顎を撫でながらうなずいた定満。
ここで「えっ?」とか言ったら、ただの思い付きに思われて、結果反対されてしまうかもしれない。
いや、ただの思い付きなんだけど。
こうして、親睦会という名の宴会が開催されることとなった。
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