中郡平定記念親睦会
「さあ、皆!今日は頑張りましょう!」
「「「はいっ!」」」
本来、評定を行うべき場所には、武将の姿は無い。
今は、これから親睦会の準備という名の戦場に、駆り出される事になった女達がいた。
やはり、親睦会という名を借りた宴会である以上、酒が振る舞われるとあれば、つまみは必要というわけで、女衆の力を借りることにる。
ものすごい贅沢は出来ないかもしれないが、それでも心がこもったものであれば、誠意は伝わるというものだ。
女衆は、私の号令の元、厨へと移動を始める。
戦に参加した兵のみならず、こちらへと鞍替えした者達も呼んでいる以上、かなりの量を用意しないとダメなはずだ。
やると言ったからには、しっかりとした量を確保できないと、侮られる結果になるかもしれない。
参加者には、きちんと楽しんでもらうための準備は大事だ。
厨の中では、女達が様々な作業を専属で従事することになる。
所謂、分業というやつになる。
食材を切る者、食材を調理する者、米を炊く者、食器を洗う者と
大まかに分けて四班で動くことになる。
なるべく効率的にやらないと、大変になるのは目に見えているからだ。
私の指示の元、着々と準備が進む。
厨から城内に流れ出す匂いに、さぞかし夜の催しを期待しているだろう。
それに応えてあげないとね。
また、会場となる場所には、城内の評定を行う場所は豪族の当主や武将に、それ以外は庭や入りきらなければ、最悪外で地べたにござでも敷いてもらうつもりだ。
その設営というか準備は、重太と弥太の二人を中心に当たらせた。
私の考えを理解することが、一番出来るであろう二人なら、問題ないだろう。
それに、人をもてなすという事を肌で感じるためだとすれば、これ程練習になることはないはずだ。
相当な金額が出ていくことになるだろうし、城にあった蓄えも幾らかは出すことになると思う。
まあ、一晩限りのものであるからそこは大目に見て欲しい。
夕方に差し掛かり、それなりに準備が出来てきた頃、続々と会場に人が集まりだす。
ただ飯ただ酒にありつけるとあれば、そりゃ来るわね。
しかも、普段食べている物と比べて、間違いなく豪華な物が出てくるとなれば、それは余計にだろう。
武将達のところは、それぞれ膳に小出しに盛って出すことにしたが、兵達の方までそれでは手が幾らあっても回らないので、こちらはバイキング形式を採用する。
気に入った物を好きに食べてくれたらそれでいいと思う。
ただ、多少は差をつけないと、何か文句を言われるかもしれないので、少しその辺は考えがあったりする。
「さあ、お集まりの皆さん!本日はようこそいらっしゃいました。大したおもてなしが出来ないかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。では、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
乾杯という風習があるかはわからなかったけれど、私に合わせてくれた。
皆、酒杯を片手に語らい始めた。
膳の上には、城の近くで取れた野菜を炒めた物や、酢味噌あえにした物、魚は煮て提供させてもらった。
箸休めに、漬け物なんかも出させてもらっている。
お酒も、それなりに良いものを出させてもらっているので、意外と高評価のようだ。
しかし、酒を飲まない者にとっては、どこまで楽しめているだろう?
そう考えていた私は、酒を嗜まない者の為に私の秘密兵器(?)を出す。
とはいえ、酒を飲む者にとっても楽しめる物でなくてはならない。
「ということで、景虎と」
「えーっと、重太と」
「弥太の!」
「戦国クッキング!」
「くっきんぐって何だ?」
「よくわかんないけど、お虎兄ちゃんがやることだから、きっと楽しい事じゃないかな?」
厨で、私が声と共に手を上げると、二人も手を上げる。
ここまでは打ち合わせ通りね。
二人には、よく分からない事を言ってはみたが、ようは食事の用意を私がしようという事は、おそらく分かるだろう。
さて、今日は何を作るかというと、何故か食べたくなった蕎麦だ。
一応、蕎麦にした理由もある。
勿論、蕎麦掻きのような物では無く、所謂蕎麦切りである。
どうにも蕎麦掻きが、私はあまり美味しく感じなかった。
好きな人は好きなんだろうけど、どうにも許せなかった。
細く切った蕎麦を、ズルズルと無性に食べたくなったのだ。
昔はよく食べていた。
昔と言っても、勿論戦国時代ではなく、現代に生きていた頃の話だが。
手軽に食べられる店があちこちにあったし、時間もかけずに直ぐに食べ終わる事から、よく利用していたものだ。
それに、蕎麦は救荒作物の印象が強いが、調理次第で幾らでも美味しくなる事を知ってもらいたかった。
さて、まずは生地を作ることから始まる。
石臼で予め挽いておいた蕎麦粉と、つなぎになる小麦粉を混ぜて、水を少しずつ加えながらかき混ぜる。
ちょうどいい器がなかったので、すり鉢を取り敢えず使ってみた。
ひたすら混ぜていると、段々と大きな団子になってくるので、これを取り出し、上に布を何重かに掛けると弥太に指令を出す。
「弥太、踏みまくるのよ!」
「えっ!食べる物を踏んでいいの?」
「それくらい力がかからないと、美味しくならないのよ。」
「まあ、いいや。やってみる!」
生地の粘りが強くなってきた頃合いで、木の枝から作った麺棒を取り出す。
丸く削るのに苦労したが、それなりの出来になって一応満足。
そして、それを薄くそれでいて均一になるように伸ばす。
流石に、プロが見たら鼻で笑われてしまうだろうが、今の時代にはプロなど存在しないのは調査済みだ。
程よく伸ばしたところで細く切っていく。
もうこの辺は勘よね。
太さもばらばらだけど、致し方無いだろう。
つゆは、鰹節に似たものがあったのでそれを使用。
醤油も、たまり醤油が存在していたようで、発見したときはガッツポーズをしたものだ。
先程味見をしたが、味はやはりいつも食べていたものよりは落ちるだろうけど、十分楽しめると思う。
作った蕎麦を茹で、濃い目のめんつゆと共に提供を始める。
皆一様に、見たことの無い食べ物を前にして固まっている。
さあ、思いきって食べるのよ!
そう思うが、誰も手をつけない。
何でだろう?
「お虎兄ちゃん、これどうやって食べるの?」
「ああ、そういうこと。」
誰も何も言い出さないから、分かっているものと思っていた。
だが、そうではなく単純に食べ方が分からないから固まっていただけか。
弥太の疑問に答える。
「これは、この蕎麦を箸でつかんで、つゆの中に入れて、そうして一気にススル!」
ずぞぞぞぞ・・・と大きな音を立てて私は食べて見せる。
出来はまあまあね。
もう少し上手く出来そうなものだけど、それは次回に持ち越しかな。
私の姿に、成る程そう食べるのかと分かった者から順に食べ始める。
「ほう・・・旨いな。」
「これがあの蕎麦ですか?本当に?」
「喉ごしも良い。太さの違うというのもなかなかに面白い。」
「これは美味しいですね。」
「さすがお虎兄ちゃんだぜ!」
どうやら良い印象を与えられたようだ。
まさか、ばらばらの太さに対しても、良い印象が生まれるとは思わなかったが。
皆、初めて食べた蕎麦に感想を言い合っている中に、定満の姿を見つけた。
何やら隣に座る者と語らっているようだ。
「どうかしら、定満。お口に合ったかしら?」
「確かに良い味をしていますな、宇佐美殿。」
「お気に召したようで何よりです、中条殿。」
「中条殿?」
「ああ、景虎様はお会いしたことがありませんでしたかな?こちらは、揚北衆の中条藤資殿になります。」
「お初にお目にかかる。中条藤資と申す。」
何と!
これから攻める予定の揚北衆!
何でここにいるんだろう?
少々悪ふざけが過ぎたかもしれません。
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