第六十七話 デビル・サモナー Iパート
今回は戦闘がありません。
◇◆◇ ここからアデール視点です ◇◆◇
「レックスたちが全滅した? 前進基地を作りにいったはずじゃあなかったの?」
「落ち着いてください、アデールさん。感応能力を持つ人間が聞き出していて、それを別の者が記録していますから」
オーリガが落ち着いた口調で説明してくれたので、どうにか胸の動悸がおさまってきたけど。
「アニキたちは、たったふたりで大丈夫なんスかねぇ……」
オーリガに続いて、話を聞いていたらしいエミリーが暗い表情で入って来た。
「ここではなんですので、五分後に広間に集合してはどうでしょうか?」
「そうね。すぐ支度するわね」
わたしはあわてて身支度を調え始めた。
「では、レックス殿からの報告ですが、元部下が時系列でまとめてくれましたので報告します」
五分後、広間に集まったわたしたちの前で、オーリガが書き付けを手に口を開いた。
「日付が変わると同時に迷宮に出発。第一層に異常なし。第二層もわなを避けて移動し、第三層では調査した石棺から出て来た不死の魔物を浄化した上で、午前三時に、屍食鬼がいた広間に到着したそうです」
あまりにも怪しげだったから、わたしたちは石棺を放置しておいたのよね。
「あまり多くの荷物は持ち込めませんでしたが、午前四時には前進基地を構築し、スロープの片方はバリケードで封鎖し、小休止したそうです」
たしかに、あの上り坂さえ封じてしまえば、安全に敵を撃退できるわよね。
「その後、一匹のデーモン種の魔物が入り込んで来たので、全員で撃退を試みたのですが、グレーターより上位の存在らしく、健闘むなしく全滅してしまった……との事です」
「うーん……。これまではデーモン種でも倒せて来たけど、それはクラウスの聖騎士の能力と、聖剣があるからなのよね」
ある意味、この任務においては最適の人材だったという事なんでしょうけど……。
「ボクの強化武装は修理が必要だそうなので、アニキに預けてるんスよね」
エミリーはクラウスからもらった聖剣扱いの小剣を取り出して、感慨深げに見つめていた。
「その場で救援を待たなかった理由として、強力な魔物が存在する事を、伝えたかったからだそうです。再び感応能力が使えるようになるには、半日かかります」
「そう……レックスは、その感応能力の事を知っていたのね」
「レックス殿はラミールとも関係が深いようですし、元部下たちとも交流はしていたようです」
「そう……レックス殿が全滅した魔物に、この四人で勝ち目があるのかしらね」
「ご主君とカレラ殿と合流できれば、勝ち目はあると思いますが、上位のデーモン種相手には拙者の弓もあまり……」
「光や聖属性の魔法は、ボクにはあまり先天的な資質がないそうなんスよね」
「わたしの大剣も、耐久値が半分を割っていますし、正直に言って、あまり自信はありませんね」
「わたしは、スタミナ回復の祈りとヒールぐらいしかできないし。スキルが上昇したから、セラエノに帰れば高度な術を教えてもらえるけど……」
全員、現在の状態の把握はできたんだけど、それにたいする有効的な考えを見いだせずにいた。
「人員を増やす事もできはしますが、デーモン種を相手にできるかと言われると、かなり危ういですね」
レックスたちでも全滅する相手に、生半可な戦士を連れていっても、リスクが上昇するだけよね。
「オーリガ特佐どの、食事の準備ができましたので、どうぞ」
「そう……。いつまでもこうして考えていても仕方ないし、いただきましょう」
そう言うと、皆ぞろぞろと立ち上がり、家の外に出て行った。
「おっ……おいしそうっスね。これは鶏肉っスか?」
ぐつぐつと煮ている鍋の中には、野菜やきのことともに、何かの肉が大量に入れられていた。
「ええ。けさ、ちょっと狩ってきました。カモの種類ですね。油が乗っていておいしいはずです」
オーリガの元部下だった人が、そう言って鍋をかき混ぜた。
「んっ……おいひーっス……あふふ」
木のわんに注がれた熱い汁を、エミリーがおいしそうに口にして、その熱さに目を丸くしていた。
そういえばクラウスも、エミリーには手をつけていないようね。妹分ってところかしら。
「拙者は空を飛ぶ鳥を射落とすのは苦手なのです……。今度ご教授いただきたい」
「矢尻が重い狙撃用の矢ではむずかしいでしょうけど、専用の矢ならできると思いますよ。風切り羽を使った伝統的な矢作りを、しゃばでもしていたもので」
イレーネは弓使いとして、オーリガの元部下と意気投合しているようね。
「ふぅ……。中の様子をうかがう方法はないものかしらね」
そういえば、カレラから一方通行だけど連絡がつく宝珠を預かっていたのよね。
「ねぇエミリー! あなた、カレラと魔法で会話とかできるんじゃなかったの?」
「あっ……そういえば、そうだったっスけど、迷宮の外じゃあ無理だと思うっスよ?」
「なら、中に入ってみればいいじゃない。わたしも、この宝珠を預かっているんだし」
「ボクもカレラさんも、落ち着いている時じゃないと魔法で会話はできないっスから……。これまでは、そんな機会がなかったかもっスね!」
「なら、朝食を食べたら向かいましょう」
少し展開に光明が差した事もあり、皆は表情を明るくして朝食を食べ、エミリーはおかわりまでしていた。
「うーん……ダメっスね。距離がありすぎるのか、なにかで阻害されているかもしれないっス」
意気揚々と迷宮に乗り込んだのだけれど、わたしたちのもくろみはあっさりと外れてしまう。
「あの階段で、拙者たちも相当下まで降りましたからなぁ……それも無理はありませんな」
「では、階段を下りたところまで行ってみますか? それなら、さほどの危険性はないはずですが」
オーリガは、複製した地図を手にしながら口を開いた。
「ここにいても仕方ないし、そうしましょうか」
わたしたちは、わなを避けて長い階段の下を目指す事にした。
「うーん……ダメっスね。あの魔法の光がたくさんあるから、影響してるのかもしれないっス」
二十分ほどかけて、予定の地点に到達したのだけど、再び淡い期待を打ち破られてしまった。
「この先はレックス殿を全滅させた魔物が出て来る可能性があるから、避けた方がいいですなぁ……」
「そうですね。ほかにも魔物がいるかもしれませんし、挟み撃ちにされたら……」
「仕方ないわね……引き返しましょう」
わたしは苦渋の決断を下したのだが、後ろ髪を引かれる思いだった。
「そうだ! アニキたちのあとを追いかけていけばいいんスよ!」
みなが失意の表情で階段を上っていると、エミリーが大声を張り上げた。
「エミリー……もしや、あの事を言っているのですか?」
オーリガはエミリーの言葉の意味に気づいたようだけど、わたしとイレーネは首をかしげてしまっていた。
「わからないんスか? アニキたちが転げ落ちていった、あの落とし穴を通っていけば、合流できるじゃないっスか!」
「なんですってっ? いくらなんでも危険すぎるわよ」
反発はしたものの、その考えがわたしの頭にないのも事実だった。
「レックス殿が全滅をした魔物を相手にするよりは、わなに対処できるようにして突入する方が勝算があると思います!」
「そうするしかないようね」
わたしたちはその後、わなのあった場所に戻り、落ちる事への対策をした上で発動させようとしたのだけど発動せず、前段階の石のわなを発動させて扉が閉まった状態で発動させて、暗闇の中をゆっくりと滑り降りていった。
合流できるころには、もっと盛り上がって来るとは思います。




