第六十一話 デビル・サモナー Cパート
やはりダンジョンはいいですね。
D&Dの赤箱世代のプレイヤーだと特に(笑)
「地下二階があったとはな」
「そんな事、聞いた事がありません! 現実世界でも同様です」
まぁ、これで迷宮が終わりとは思えなかったのだが、オーリガも知らないという事が引っかかるな。
「ふむ……イベントに関係しているのかもな。恐らく必要に応じて継ぎ足したんだろう」
そうとでも考えなければ、理解できない状況であった。
「この扉だが、自動で閉まるだなんて事はないだろうな?」
「魔力反応はないけど、どんな仕掛けがあるか分からない――」
カレラは杖を像に向けたあと、口を開いた。
「一階は安全を確保できたわけだし、レックスの隊を後詰めで待機させたらどうかしらね?」
「それもそうだな……」
レックスの汚名を返上するための場を用意してやらないと、またぞろ恨まれないとも限らないしな。
「じゃあ、ボクがひとっ走りして知らせて来るっスよ」
「エミリー……わたしもついていく――」
数分後、レックスのパーティーを引き連れて、エミリーとカレラが戻って来た。
「なるほど……石像の目を押すと動き出すのですね。自動で閉まるような事があれば、何とかしてみます」
「迷宮の中で孤立する事だけは避けたいからな……よろしく頼む」
オレはレックスと握手をしてから、みんなのところに戻った。
「じゃあ、オレとオーリガが先行して降りてみる」
「わかり申した!」
オーリガは長剣を手にして、オレの右後方に位置どった。
「何やら下は明るいようだが、どんな光源が……」
「魔物がいるのかもしれませんね……」
オレとオーリガは、慎重に階段を下りていき、オーリガの手鏡で曲がり角の向こうを確認してから、通路に躍り出た。
「なんなんだ……あの明かりは……」
三人が並べるほど広い通路の壁には、等間隔で明かりがともされていた。
「火……ではないでしょう。揺らいでいる様子がありません」
「ふむ……お、これはもしや、あの像を動かすための物か?」
行き止まりになっている方を見ると、巨大な鎖につながった鉄の輪が壁にぶら下がっていた。
「カレラたちを呼んでみるか……」
オレは小声でオーリガに告げて、階段を登っていった。
「あれは永久的な光の魔法――。わたしでも使えるけど、魔力を相当消費する――」
「ふむ……。闇の眷属がいる場所なのに妙だな」
「クラウス殿……あとから闇の眷属が住み着いたのであって、あくまで水焔の里の聖地ですから……」
「ああ、すまんすまん……」
自分たちの聖地を魔物の巣窟のように言われては、たしかにいい気はしないだろうな。
「若干広くなったし、二人づつ並んで進むか」
入り口がふさがれていたから、実体を持つ魔物が通れたはずはないのだが、どこか別の場所につながっている可能性も捨てきれないので、警戒が必要だ。
「相当広いな。地下一階部分ぐらいは、もう歩いたんじゃないのか?」
十五分程歩いていたが、いまだ魔物とは遭遇しておらず、長い通路のようになっているようだ。
「少しずつ、下にさがっているみたい――」
カレラがふと足を止めて、言い放った。
「そうか? 階段もなければ坂もなかったと思うが……」
「試してみる――」
カレラは懐から、水晶玉を取り出して石造りの床の上に置いた。
「おおっ! 結構な勢いで動いている!」
小さい水晶玉はころころと勢いをつけて、動き出したので、オレは素早く拾い上げた。
「角を右に二回は曲がったよな。なら、結構降りて来ているのかも、しれないな」
オレたちは、この迷宮の広大さに、少し尻込みしそうになりながらも、先に進んでいった。
「また、角を曲がるんスか……どこまで降りて行くんスかねぇ」
エミリーは少し不安そうに、廊下の角を曲がっていた。
「ご主君! 上にあのような穴が……」
角を曲がり、数歩歩いていると、イレーネが背後の壁の上部に、四角い穴があるのを発見した。
「空気穴にしては大きいようだが……まぁ、あそこには届かないだろうしな」
「早く行くっスよぉ……アレっ?」
エミリーがじれて来たのか、じだんだを踏んだのだが、石が沈み込む、妙な音が通路に響いた。
「なぁ……なんだか、イヤな予感がするんだがな……」
「こ、コレ、何なんスかね……踏むと沈むように……」
次の瞬間、どこからともなく地響きが伝わり、天井から土ほこりが舞い落ちて来た。
「ヤバイ! みんな、走れ!」
「えぇ? なっ……なんなんスか?」
みな、名状しがたい恐怖を顔にはりつけて、スロープを駆け下りていったのだが、背後から巨大な音と共に、何かが通路に落ちて、転がって来る音が響いた。
「くっ……追いつかれたら終わりだぞ!」
「あんなのにやられたら……干しイカみたいになるわよっ!」
背後から迫り来る巨大な石のような物は、徐々に加速度を増して、オレたちの後ろに迫りつつあった。
「ぜぇっ……はぁっ……ぜぇっ……だめっ……」
カレラはもっとも体力がないようで、呼吸が困難になっているようだった。
「おい、大丈夫か! じっとしてろ!」
オレは長剣と盾をストレージに収納させて、横を走るカレラを両手で抱え込んで、肩に乗せた。
「ひゃぁっ……クラウスっ――」
若干走る速度が落ちて、スタミナの消費量が増えはしたが、皆に遅れない程度には走る事ができていた。
「あそこっス! あそこを右に入ればいいんスよ!」
オレたちが走る先には、巨大な奈落が待ち受けていたが、その右手には部屋があるようだった。
「えぇっ……あそこまで……スタミナがもうっ……」
「アデール殿! わちきがお助け申す!」
オーリガもオレに見習って、アデールの体を持ち上げて、運んでいった。
「早く来るっスよ! 近くまで迫ってるっんスから!」
いち早く到着したエミリーは、後ろを振り向いてオレたちを鼓舞してくれた。
「ぜぇっ……はぁっ……くっ……拙者はっ!」
カレラやアデールよりはマシだったのだが、イレーネもあまりスタミナはないようだったが、オレもオーリガもそんな余裕はなく、仲間の死を意識してしまっていた。
「ぶはぁっ! ぜぇっ……ぜぇっ……」
「はぁっ! くっ……足がつって……」
オレとオーリガは、それぞれ人一人抱えたまま、右手の部屋に走り込む事ができたが、一歩も動けない状態で、イレーネの背後には、巨大な石が迫りつつあった。
「イレーネさん! 壁の右側を走ってくださいっス!」
「わ……わかりました!」
エミリーには何か考えがあるようで、イレーネに指示をしていた。
「そんな……もう、追いつかれる!」
右を走る事で、石の玉に触れるのが少し遅くなったとはいえ、このままでは間に合わないのは、誰の目にも明らかだった。
「伸びろっスよ!」
イレーネが部屋の入り口に手をかけた次の瞬間、エミリーが手にしていた海神の槍に魔力を注ぎ込み、みるみる伸びていって通路の壁に突き刺さり、巨大な石はきしみ音を立てながら、その場で回転しながら、槍に削られていた。
「よし、もういいぞ!」
オレはどうにか、入り口の近くで失神しかけている、イレーネを室内に引きずり込んで、エミリーに声をかけた。
「小さくなるっスよ!」
エミリーは再び魔力を注ぎ込んで、元の大きさまで戻すと、巨大な石の玉はふたたび動き出して、奈落の底へと落ちていった。
「はぁ……はぁ……助かって良かったっスよ……ボクのせいで、みんなを……危険な目に……」
エミリーは、目尻から大粒の涙をこぼしていた。
「気を抜いていたのはオレも同じだ……」
「アニキ、次は気をつけるっスから……わわっ!」
次の瞬間、音もなく扉が閉まって、暗闇に閉ざされた。
こういう迷宮では、お約束ですよね(笑)
さらに、暗黒に閉ざされてしまったパーティー!
次は戦闘があると思います。




