第六十話 デビル・サモナー Bパート
後半から、ようやく迷宮に入ります。
「うぅむ……。これは、見なかった事にしておこう」
「あ、カミラ殿! お父上から手紙を預かっています」
手紙をそっと閉じて、懐に入れようとしていたが、先ほどの剣士が、カミラにまで手紙を渡しているのを見て、脱力した。
「ふぅ……茶でも飲むか」
オレはできるだけ自然を装って、オーリガの家の中に入ろうとしたのだが……。
「クラウス……手紙を読んだ――」
あと一歩で家の中というところで、背後から肩を力強くつかまれてしまう。
「むぅ……じゃあ、少し話をしておくか」
オレは、井戸のある裏手に移動するよう、うながした。
「あれは、セラエノ公の一方的な要望であってだな、それに従わないといけない理由はオレにもおまえさんにも……」
「わたしはかまわない――」
カレラはうつむいたま、オレの言葉をさえぎったが、さっきから、カミラのような口調だった。
「そこまで、父親の言う事は絶対なのか?」
「クラウスならかまわない――」
オレがやや否定的な言葉を向けると、カレラは少し感情をあらわにして言い返したが、その際に、ほおを真っ赤にしている事に、気づく事ができた。
「おまえさんの意志でもあるって事なんだな。気づいてやれなくて、すまん……」
オレはそっとカレラの肩を抱いてやった。
「わたしたち二人とも好きになったのは、クラウスだけ――」
そうオレに言い切ったあと、カレラは顔を真っ赤にして、戻っていった。
「うーむ……正直、それどころではないんだがな」
だが、あのように言われてうれしくないはずもなかった。
「これが、迷宮の地図になりますが、実際に入った事はないので、正確かどうかはわかりません」
昼食後、レックスたちも招いて、オーリガの家の広間で、作戦会議を開いていた。
「通路の広さはどれぐらいなんだ?」
「古老の話では、二人がギリギリ並べる程度だとか……」
「それでは、剣を振り回す事はできないんじゃないのか?」
そう問うと、オーリガは黙ってうなずいた。
「うーん。地図を見る限りでは、側面や背面を突かれる可能性も、捨てきれないな」
「石造りなので、音は反響するそうですが」
実体を持つ魔物なら、気づけるというわけか。
「中は真っ暗でもあるだろうし、大勢で入っても混乱するだけなんじゃないかな」
「一パーティー六人だけで入るのが無難よね」
アデールもオレの考えを後押ししてくれた。
「では、レックス殿たちは、この村でラミール軍や、セラエノの冒険者と協力して欲しい。三日以上たって出て来ないようなら、その時点で判断をゆだねたい」
「そうですか……わかりました。クラウス殿の言葉に従います」
オレたちとともに、手柄を立てたかったのかもしれないが、まだ背中を預けられるほど信用できていないのも事実だしな。
「ラミール軍の代表は近隣の里の人間ですので、ここを保持する事は問題ないと、わちきは思いまする」
「状況が許すのなら、一定期間ごとに帰還するつもりだが、残された期日を考えるとな……。では、会議を終了する。出発は三十分後の予定だ」
オレは席から立ち上がり、宣言した。
「ご主君……少し相談したいのですが」
「ん? 場所を移ろうか?」
「その必要はないのですが、拙者でよろしいのでしょうか?」
どうやら、迷宮の中では長弓の出番がない可能性を、気にしているようだ。
「アデールたち後衛を……。背中を任せる事ができる人間はあまり、いないからな……何なら、短弓でも持っていくか?」
セラエノから来た馬車には、予備の武器が積み込まれていた事を、思い出した。
「いえ、いざという時は、ククリナイフで戦いまする」
「そうか……ならいいんだ」
どうやらイレーネは覚悟を決めてくれたようで、いい表情をしていた。
「ではフォーメーションだが、前からオレ・オーリガ・イレーネ・カレラ・アデール・エミリーの順番だ。イレーネは左からの攻撃に備えて、エミリーは背後と右からの攻撃に備える、もっとも重要なポジションだ」
「ボク、頑張るっスよ!」
「状況に応じて、短杖と槍を切り替えてくれ。アデールとイレーネ。カミラとエミリーと、オレたちの三つの組に分けておく。決して、単独で行動するなよ」
注意事項を述べたあと、オレの盾とエミリーの短杖に、永続する光の魔法をかけて、オレたちは迷宮へと続く階段を下りていった。
「わなが設置されている可能性は低いとは思うが、オレが先行する。少し遅れて着いてきてくれ」
オレは盾を構えて、防御態勢を取りつつ、右手に長剣を握って前進していった。
「ん? あれは……。みんな、気をつけろ!」
石の柱がある広間に出たのだが、盾にかけた魔法の光が、奇妙な存在を闇の中から照らし出した。
「石像か? しかし、それにしては趣味が……」
「クラウス殿! あんな石像があるとは聞いていませんぞ?」
「なにっ? うぉっ!」
オーリガが注意を促してくれた次の瞬間、翼を持つ異形の魔物の石像の目が光り、みるみる間に姿を変えていった。
「ガーゴイル……いにしえより語り継がれる闇の眷属――」
カレラはこの魔物についての知識があるようだ。
「ここから後ろには行かせない! せいっ!」
オレはガーゴイルが飛び立った次の瞬間に、長剣で切りつけたが、生きている物とは思えないほど硬く、はじかれてしまう。
「物理攻撃は効果が薄い! 三十秒稼いで――」
カレラはそう言って精神を集中させながら、呪文を紡いでいるようだった。
「キケェッ!」
「くっ……攻撃も重い!」
どうやら、部分的に体を硬質化できるようで、飛びかかって来たガーゴイルの牙を盾でパリィした時に、軽く後ろに揺らいでしまう程だった。
「ここで大剣を振り回すのは危険ですから……」
そう言ってオーリガは大剣をストレージに収め、予備の長剣を抜いて、後衛を守る位置についた。
「ボクも前に出た方がいいっスか?」
「いまは大丈夫だ! 後ろを警戒しておいてくれ」
妙な仕掛けでもない限りは大丈夫だとは思うが、最悪の状態を想定しておかないとな。
「トゥニトルス!」
カレラが放った聖属性の魔法が、盾を持たないオーリガにかみつこうとしていたガーゴイルに命中し、悲鳴も上げさせずに消滅させた。
「では先に進もう」
カレラの支援がなければ苦労した事だろう。オレたちは気を引き締めて、先へと進んだ。
「地図ではたしか、このあたりで行き止まりなのですが」
オーリガが不審そうに、部屋の中を見渡していた。
「止まれ、オーリガ……何かが見える!」
オレはオーリガと代わり、先頭に立った。
「む? またガーゴイルか? みんな、注意しろ!」
盾が照らす先には、巨大な肉食動物をかたどった像が設置されており、パーティーに緊張が走った。
「さ……さっさと来るっスよ! ボクが撃退してやるっスよ!」
エミリーは虚勢をはりながらも、右手に小さいままの槍を手にして、声を上げた。
「ちっとも実体化しないな……」
「魔力反応がない。それは石像――」
カレラの一言に、みんなはようやく、張り詰めた緊張をほどいていった。
「んもー……。ビックリしたっスよ! こいつはただの石の像だったんスね……ていっ!」
エミリーは恐怖心を克服するためか、石像の目を両手で突いた。
「わわっ! なっ、なんなんスかぁっ!」
次の瞬間、どこからともなく機械の音と振動が響き、天井から土ぼこりが舞い落ちて、視界が一時的に悪化した。
「これは……まだ下に階層があるのか!」
エミリーが発動させてしまった仕掛けで、巨大な像が横にスライドしていて、地下へと続く階段が姿を現していた。
入り口が閉ざされている迷宮で、ゴブリンとかがいたら不自然ですしね。
こういう状況ではお約束のガーゴイルでした。
さて、この迷宮は地下何階まであるのか……現時点では一切ノープランです(笑)




