第五十八話 ロンゲスト・マーチ Lパート
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「このままでは、火の眷属が押し寄せて来るのは、時間の問題ですぞ? ご主君!」
「いったいどれぐらいの数なんだ?」
「二十体もはいないと思いまするが……。半時後ぐらいには到達するかと!」
イレーネは現在の状況を過不足なく伝えてくれたが、どうするべきか。
「後詰めでは、時間稼ぎぐらいしかできないわね。スタミナを回復する祈りを、二人でやれば、三十分やそこらは耐えられるけど、それ以上は……」
アデールが、現状を判断して、進言してくれた。
「クラウス殿……。この少し向こうが闇の領域になっていまして、領域内は相当暗そうですぞ」
石弓使いの男性が斥候から戻って、オレに報告してくれた。
「じわじわ押されると、川に落ちるか、闇の領域にまで、押し込まれてしまうな」
そのような形で、ボスと戦うのでは勝率は限りなく低く、被害は甚大な物になるだろう。
「よし、精鋭数人で、ボスに挑む事にする。闇属性に強い攻撃ができるのは、オレとオーリガと……」
「魔力は全然回復していないから、今すぐは無理――」
カミラ……いや、カレラの方に視線を向けると、片ひざをついて休んでおり、作戦に参加させるのは無理そうだ。
「オレとオーリガだけで中に入り、それ以外のメンバーは、火の眷属を迎え撃ってもらう方がよさそうだ」
カレラは魔力が回復すれば、火の眷属に対抗できる可能性があるし、イレーネは潜入には向かないし、エミリーも現在は聖属性の武器を装備していないしな。
「わかったわ。こっちの指揮はレックスに任せるべき?」
「いや、カレラとの連携を考えると、アデール……おまえがいいと思う」
「わかったわ……。ところで、二人で中に入るのなら、光源が必要よね」
抜刀した状態で潜入するというのに、ランタンやたいまつでは、戦闘能力がそがれてしまう。
「盾に永続的な光の魔法をかける。それぐらいなら平気――」
そう言ってカレラが立ち上がった。
「いや、この盾は耐久値がないから、それが外れでもしたら、申し訳がないからな」
バスタードソードの耐久値が復活してしまった時の事を思うと、それは怖すぎる。
「その心配はない。早くして――」
「そうなのか? わかった」
オレはカレラに向かって盾を差し出すと、少しの詠唱の後に、まばゆい程の光が生じた。
「クラウス殿……わちきは準備ができましたので、いつでも行けまする!」
「よし、ではオレとオーリガはボスを倒して来る! すまんが、それまでの間、ここを守っていてくれ!」
オレは、残る四人の仲間と、レックスの後詰めにそう言い残して、水焔の里へと向かう道に向かい、走っていった。
「クラウス殿……。これほど視界が悪いのは、普通では考えにくい事なのですが」
「やはりそうか……。闇の領域の上に、シャドウストーカーを操っていたボスの可能性もあるしな。オーリガはオレの背後を守るようにしてくれ」
オレの盾が、ほぼ唯一の光源であるいま、そうしない事には、前に進めないのだ。
「そこの小道を左に曲がれば、視認されにくいと思いまする」
「わかった……ボスは村の中心にいると思うか?」
村の中心から西の方角には、小高い丘と森があるようで、北へと迂回するつもりのようだ。
「はい。この丘が地下迷宮への入り口になっているので、中に入るのを阻止しようとするなら、村の中心しか……」
「そんな村のど真ん中に入り口があったのか」
「ええ。ふだんは封印もされていますし、禁足地ですから、よっぽどの事でもないと入りません」
というか、その迷宮の入り口を守るために村が作られたと見るべきだろうな。
「もう村に入りました。できるだけ、裏道を通りまするが、相手は闇の眷属なので、捕捉されるのは時間の問題かと」
「ふむ……。それもそうかもしれないな」
五分ぐらいして、オレたちは村の北から侵入していった。
「暗闇だしな……。合い言葉を決めておくか」
「そうですね……。では、村の古い言い伝えから、ルーメンとテネブラエにしましょう」
「わかった。じゃあ、少し移動速度を上げるか」
オレたちは、やや大胆な足取りで、村の中心に向けて歩いていった……。
「魔物の姿が見当たらないな……」
「そうですね……。デーモン種がいると思っていたのですが、どういう事なのでしょうか」
こうして、妙に古い言葉遣いをしないと、印象は変わるものだな。オレは以前よりオーリガに親しみを持つ事ができていた。寝物語に聞いたのだが、わざわざ日焼けをさせてまでして褐色の肌を保っていたとか。
そういえば、ふだん隠されている部分は色白だったな……。
「クラウス殿? 聞こえているのですか?」
「ん? すまん、考え事をしていた」
どうやらオーリガに話しかけられていたようで、オレは妄想の世界から引き戻された。
「そこの角を曲がると村の中心が見えます。巨大な石柱が二本立っているから、すぐにわかるはずです」
「そうか……。で、どうするつもりなんだ?」
「クラウス殿は五分ぐらいたってから、迷宮の入り口へと向かってください。わたしは南の方に回り、クラウス殿を襲おうとするだろう、ボスの背後から奇襲をかけまする」
オーリガは大胆な策を口にしたが、残された時間の事を考えると、そうした方がよさそうだ。
「明かりがなくても大丈夫なのか?」
「ええ。このあたりなら、自分の住んでいた家の近所なので」
「わかった。五分だったな」
「はい……。それでは、後ほど!」
オーリガは滑るような足取りで、村の南へと向かっていった。
「五分たったな……行くとするか」
オレはさすがに緊張し、つばを飲み込んでから、バスタードソードを両手で握って前進し始めた。
「聖騎士ともあろう者が闇を恐れていては、笑い話にもならんな」
だが、暗闇から魔物が飛び出して来るのではないかと思うと、さすがにふだん通りの足取りで進む事はできずにいた。
「これか……人の手で作られたとは思えない大きさだな」
少し歩くと、盾から放たれる光の向こうに、巨大な石柱が照らし出された。
「むぅ……ボスはいったいどこにいるんだ……」
もう、迷宮の入り口はそこに見えており、オレは警戒心を周囲に張り詰めさせながら、歩いていった。
「む? オーリガなのか……」
振り向くと、南の方で何かが動いたような気がした。
「ルーメン!」
「テネブラエ!」
足音が近づいて来たので、オレは決めておいた合い言葉を口にすると、オーリガがそれに返してくれた。
「ボスの姿が見えないようだが」
「そうですね。闇の領域のどこかにはいるはずなのですが」
盾の光に、近づいて来たオーリガの姿がぼんやりと照らしだされていった。
ここでボスが出て来ないという事は少し考えにくいんだが……。
「そういえば、太ももの傷はもう大丈夫なのか? ずっと歩きづらそうにしてたよな。オレも火の眷属に刺された場所がいまだに痛いんだが、どうすれば治るのやら」
「だいぶ良くなりはしましたが、できものみたいになっていて、うずきます……ぐわぁっ!」
オレは殺気すら出さずに、手にしていたバスタードソードを、オーリガの姿をした『存在』の腹に、ためらうことなく突き刺した。
「な……なぜわかった――」
腹に聖剣を突き刺されているので、満足に動く事もできないようで、オーリガの姿をしたボスは、うめきながら問いかけて来た。
「太ももに傷なんて、ありはしないからだよ……」
「なぜだ……おまえたちの事は、夕方からずっと監視していたのに……たしかに歩きづらそうにしていた……」
なるほど。それで合い言葉も知られていたのか。ずっと近くで見ていたのかもな。
「それは、傷なんかじゃない。地下室でオレとの間に生じた……。別に説明してやる事もないか」
「ま、待て! やめろ!」
オレがバスタードソードを持つ手に力を入れると、謎の魔物は、あわてて命ごいをし始めた。
「すまんな。時間がないんだ……神雷剣、二の太刀!」
「ぐわぁぁっ! どうか、お許しを…………様!」
オレはスキルを発動させて、突き刺したバスタードソードに力を込めて、オーリガの姿をした謎の魔物を下から上へ両断して、絶命させた。
「誰に謝っていたんだろうな……いまとなってはわからんが」
魔物の死骸は、人の形はしているものの、見ると顔をしかめてしまうような異形の姿をしていた。
「あとで火でもかけておくか……おっ、明るくなって来たようだな」
どうやら、この魔物がボスだったようで、闇の領域が解除され、星明かりが目に入るようになって来た。
「クラウス殿! 申し訳ございません。なぜか方向を間違っていたようで……これは!」
少しすると、オーリガが駆けて来て、足元の死骸を見て驚いていた。
「どうやらボスだったようだ。こっちの不意を突いたつもりだったんだろうが、無防備すぎたな……」
「はぁ……。まさか、クラウス殿お一人で倒されてしまうとは……。水焔の村を代表して、お礼を申しあげまする!」
「それより、アデールたちの方が心配だな……おっ!」
ボスの死骸が消滅して、黒い針の素材が残された。
「はい! 東の方から音が聞こえますし、急ぎましょう」
「ああ! 走るぞ、オーリガ!」
どうやら火の眷属も弱体化したようで、その後、オレたちは何とか撃退する事に成功した。
「本当にボスを倒して来るとは思わなかったわ」
アデールが緊張を解いて、オレに話しかけて来た。
「水の元素魔術がかなり強化されていた――。そうじゃなければ、無理だったかもしれない――」
カレラもつかれていたのか、荒い呼吸を整えながら、オレに話しかけて来た。
「いやー……エミリー殿の、あの槍がなかったら危ないところでしたぞ! 見事な腕前でした」
「えへへ……これ、水属性を持っているみたいで、火の眷属には、かなり効いたんスよ、アニキ」
エミリーは海神が持っていた槍を手に、はにかんでいた。
「皆さん! 村で休んでくだされ! 案内しまする」
オーリガのその声に、野営続きだったオレたちは、歓声を上げた。
ようやく、長かった第八章もこれで終わりです。
次からは、迷宮に突入する話になると思います。
それ以外の事は何一つ決めてないので、
行き当たりばったりもいいところですけど(笑)




