第五十七話 ロンゲスト・マーチ Kパート
ようやく戦闘のターンです。
「オーリガ、斬り込むぞ!」
どうしてエミリーとカミラが強行突破をはかったのかは分からないが、いまは考えていても仕方がない。
「承知! くっ……。拙者はお二人を守りますゆえ!」
オーリガはどこか具合でも悪いのか、駆け出そうとした瞬間に、苦痛に顔をゆがめてしまう。
「わかった……。そらっ! かかって来い!」
オレは盾をストレージに戻し、両手でバスタードソードを持って、一番近くにいるオーガに斬りかかっていった。
「そらっ! はぁっ!」
すでに四匹のオーガが焼け焦げた状態で転がっており、カミラの魔力の高さをうかがわせた。
「たぁっ! やぁっ!」
「はぁっ! フラマ・バグナスっス!」
オーリガとエミリーは、カミラに向かって殺到するオーガを、何とか足止めしているようだ。
「オストラトテイク!」
ガードをすり抜けて、一体のオーガがカミラに向かっていったが、正面から火球をくらってしまい、上半身を消し炭と化してしまっていた。
その魔法の威力はかつてオレを裏切った元素魔術師より、はるかに高いんだろうな。
「フォーメーションを組み直すぞ! 傷を負った者は、いまのうちにポーションを飲んでくれ!」
残るは四体にまで減じていたが、その攻撃の圧力はすさまじく、オレは盾でパリィしてタンク役を務めていた。
「もう魔力は残ってない。少し下がる――」
そう言ってカミラは数歩下がったが、カレンにスイッチするつもりなのだろうか?
「くっ……想像以上に強い!」
さすがのオーリガも、二倍の大きさのオーガの攻撃は、受け流せないようで、よけながらチャンスを待っているようだった。
「くぅっ! 神雷剣、二の太刀!」
少し体勢を崩してしまい、オーガが追撃を加えて来たので、オレはバスタードソードを横にないで逆襲した。
「グギィ……グォロス!」
だが、デーモン種ならともかく、オーガにはあまり追加ダメージが入らないようで、オーガが二匹、オレの回りを囲み始めた。
「はぁっ……くっ……」
エミリーにはカミラの護衛を命じているので、同じく二体を引き受けているオーリガも苦戦しており、二人ともじわじわと体力とスタミナを奪われつつあった。
「くっ……火力が足りないか……」
カレンが火の精霊を召喚して攻撃を始めてくれたが、魔力を必要としない精霊魔術では、オーガの体力を多少削る事しかできていなかった。
「うぉっ! せいっ!」
スタミナが切れたので、パリィスキルではなく、どうにかオーガの攻撃を盾で受け止めたが、押されてしまい、バスタードソードを片手で振るが、やすやすとよけられていた。
「ふぅっ……。このままでは、持たんぞ!」
オレは何とか息を整えながら、二体のオーガの攻撃を受け流していたが、すでにスタミナは枯渇していた。
「くぅっ! オレが相手だって言ってるだろう!」
オレの脇を抜けて、オーガが後衛に向かおうとしていた。
「グギャァッ!」
だが次の瞬間、飛んで来た矢がオーガの目に深々と刺さり、悲鳴を上げた。
「せやぁっ! たぁっ!」
オレは盾をストレージにしまい、バスタードソードを両手に持って、オーガののどに向けて突き上げた。
「グギュゥルゥッ!」
その一撃で、右手にいたオーガを絶命に至らせた。
「クラウス! 援護するわよ!」
少しするとアデールが現れて、スタミナが回復する祈りを唱えてくれた。
「助かった! だが、無理はするなよ!」
少ししてレックスたち後詰めのパーティーの姿も見えたので、心配する必要はなさそうだ。
「グギャァァ!」
「せやぁっ! たぁっ!」
今度はオーリガが戦っていたオーガの額に矢が突き刺さり、もん絶しているすきにとどめを刺していた。
イレーネの姿は見えないが、遠距離から狙撃をしているのだろう。一気に戦況は好転し、オレたちは数分後にオーガを全滅させていた。
「クラウス殿、遅くなってしまい、申し訳ありません」
レックスが監視の手順を整えてから、オレの元に現れた。
「いや、助かったよ。坑道を抜けて来たのか?」
アデールは傷ついたオーリガの治療をしているようだった。
「ええ。カミラ殿から連絡がありましたので、急きょ移動したのですが、火の眷属をまくのに苦労しました」
「だろうなぁ……。オレは昨日刺されてしまって、オーリガに迷惑をかけたよ」
「では、見張りと皆さんの回復などの準備を整えます」
そう言ってレックスは離れていった。
「ご主君! 南と西方向には魔物がいないようですぞ」
長弓を手にしたイレーネが、草むらから姿を現した。
「イレーネ。さっきは助かったよ」
「いえいえ、拙者らはそれほど危険では……。では、拙者は見張りに戻りまする」
そう言って、イレーネは小高い丘の上に上っていった。
「アニキ! おかげで助かったっスよ……アニキが来てくれなかったら、危なかったっス」
イレーネとの話が終わると、エミリーが飛んできてオレの腕にしがみついた。
「あなたたちが、どこかで倒れているかもしれないと思ったの」
オレとエミリーを見て、苦笑しながらカレンが近づいて来た。
「そうだったのか。しかし、カミラのあの炎の元素魔術は強烈だったなぁ……オーガを一撃で倒せる魔術師は、オレの知る限り、ほかにはいないからな」
「勘違いしているようだけど、精霊魔術にも、魔力を注ぎ込む事はできるわよ? なくても使えるってだけね」
「そうだったのか……それは失礼した」
火力不足の事でカミラと比べたので、気を悪くしてしまったのかもしれないな。
「詳しい話は後ほどするけど、わたしの事はカレラと呼んでくれないかしら?」
「カレラ? カミラとカレンを組み合わせたのか……だが、どうしてなんだ?」
「わたしたちの魂は、すでに一つに融合している事がわかったの。それぞれの魔術を使う時には、片方に寄るけどね」
言われてみれば、カレンを少しおとなしくしたかのような、印象を受けていた。
「ボクは見てないんスけど、カレラお師匠は、水の精霊神と会ったみたいなんスよ」
「そうだったのか! それでは、火の眷属への対抗手段は手に入れたのか?」
「いえ……。スキルや魔法の伝授という形ではなかったけど、対抗しうるかもしれない方法は理解したわ」
「そうなのか……一度、試しておく必要があるだろうが、よく戻って来てくれた」
オレはカレラの手を取って、握手をした。
「お礼を言われるほどの事じゃない――」
なぜかカレラは少しほおを染めて、オレに背を向けた。
「なぁオーリガ。このあたりで全員が野営できて、安全な場所ってのはないのか?」
大剣のつかにまいていた革の手入れをしていたオーリガに、背中から問いかけてみた。
「さきほどの場所しかないけれど、地下室はともかく、外にいると危険ですね。わちきは、お勧めしませんが……それに……」
オーリガは体をもじもじさせて、言いよどんだ。
「それに、どうした……」
「その……後始末をしていないので……」
オレはようやく、オーリガが言わんとする事を理解した。
「そ、そうか……なら、どうすればいいと思う? ここは街道からは離れているとはいえ、魔物が村を防衛するための拠点の一つじゃないのか?」
「いずれ、火の眷属が追って来るかもしれませんし、このまますぐ近くにある、水焔の里のボスを倒す方が安全だと、わちきは思いまする」
「なっ……。だがそれは、危険すぎはしないか?」
「ご主君! 南の街道沿いから、火の眷属がこちらに向かって来ていますぞ! いずれ捕捉されるまする!」
どうやら、この場で朝を待つというわけには、いかないようだ。
次か、その次ぐらいではこのパートも終わると思うんですけど(汗




