第五十六話 ロンゲスト・マーチ Jパート
これまで未踏のパートだった、Jパートに突入(笑)
けど、まだまだ第八章は終わりそうにないですね(汗
「わたしたちの事を……ご存じなのですね――」
カレンは後ろに振り向く勇気を持てず、そのまま問いかけた。
『どういう事なの――』
さすがにカミラも目を覚ましたようで、動揺していた。
「この場にはいないが、風の精霊神と、水の精霊神たるわたしの意志で、事を運んだのだから、知らないはずもなかろう――」
水の精霊王ではなく、精霊神であったようで、カレンはその言葉に全身を震わせてしまっていた。
「そうだったんですか……」
「ちなみに言っておくが、わしら精霊神は、この偽りの世界の外から、介入しておる――」
『そんな――』
現実世界に精霊が存在したのは、はるか昔の事だと思っていただけに、わたしたちは二重の意味で衝撃を受けた。
かつては水や風の精霊が乱舞していた部族連合の平野も、現在ではビルが建ちならんでいて、精霊の息吹を感じる事もできなくなっているはずで、どうやって精霊が生き残って来たのかを考えると、少し気が遠くなってしまう。
「おまえさんたちの言うところの、科学技術だけで、こんな世界を作る事ができるとでも思っていたのかね?」
言われてみれば、ふに落ちる事もあるけれど――。精霊神の言葉はわたしたちの中に響き渡っていた。
「わしらの計画では……もうとっくに、おまえさんたち二人は融合して、新たな人格になっているはずだったのだが――」
『そんな事まで、決められたくはない――』
カミラも少し反発しているようで、筋書き通りに動くつもりは、なさそうだ。
「過度の介入をしないからこそ、そうしてふたつの人格を保っているわけだが……。その本質では、すでに一つに融合しておる――」
『そう……だったの――』
カミラは何か思うところがあったようで、その言葉を受け入れてしまっていた。
だけど、カミラが本来の主体であった事もあり、精霊の魂だったカレンが、それを素直に認める事は、己の存在意義を見失ってしまう事につながっていた。
「上位の次元の世界では、表層意識と潜在意識などという言葉もあるが……その本質は同じなのだ。表層意識などというのは、氷山の一角でしかなく、そもそもすべての存在は一つなのだ――」
精霊神の言葉は受け入れがたいが、その言葉が真実であるだろう事は身にしみて理解できていた。
「あわてて融合する事はないが……それを認めるか認めないかで、大きな違いが生じるのだ」
「わかったわ……認めるわよ。認めるとどうなるって言うの?」
「そもそも、元素魔術も精霊魔術も、アプローチのしかたが違っているだけなのだ。精霊の魂にアクセスするのか、現象にアクセスするのかの違いでしかない――」
精霊神のその言葉は、現実世界においても、仮説として存在していたけれど、それが真実だったなんて――。
『という事は――』
「そう。おまえたち……いや、おまえは元素魔術も、精霊魔術も、同時に扱う事ができる」
カミラは一足早く理解したようで、精霊神と対話していた。
「カミラは右手で元素魔術を使い、カレンは左手で精霊魔術を使っていた……すでに一つの存在になっている事を認めれば、両手を使い、いまだこの世界で誰もが到達した事のない、領域に達する事ができるだろう――」
それは……右手と左手で違う元素/精霊にアクセスする事により、歴史上は存在していたという、複合魔術を再現できるのかもしれない――。
『英雄の、一人――。イーディス・マクラウドがなした複合魔術をわたしが使える――』
ふだんは自分という意識を保つために、自己称に名前を使っているんだけど、カミラは早くもそれを手放してしまったようだ。
「現実世界の『おまえ』は、かつて英雄と呼ばれた、イーディスと、最初にわしと契約を交わした精霊魔術師の、コリーン・フォスター双方の血を受け継いでおる――」
「なっ――」
精霊神の言葉にカレンは仰天してしまったけれど、カミラは驚いていないようね……。そんな事は一度も聞いた事がないんだけど。
「四百年以上の時が流れた現在においては、双方の血を引く者も、少なくはないのだが――」
『という事は、クラウスとも遠い親せきに当たるの?』
クラウスの祖先は、イーディスかコリーン……どちらかと子をなしたと言われているんだけど。
「あくまで偶然なのだが、おまえたち六人は……全員、六英雄の血を引き継いでおる――」
「オーリガは何となくわかるけど、イレーネはあの『狙撃手』の子孫なの?」
「これを言っていいのかわからんが、この世界を完全にコントロールできるわけでもなく、それぞれの血が呼び寄せあっているのかもしれんな……それは、この世界を形作っている、『科学技術の精霊』に聞いてみないとわからんがの」
水の精霊神の言葉に、わたしは何となくすべてを納得できたような気がした……って、わたしはカレンで……いや、カミラだったのかしら――。
「すでに、融合していたのに、無理して個性を出そうとしておったからの。まぁ、それぞれの持ち味を出すときゃらくたぁが立つから、それも良しじゃ」
「何かむかつくんだけど……まぁいいわ。って、今後はどう名乗ればいいのかしらね」
「ふむ……カミラとカレンだから、カレラではどうじゃ? 上位世界では、ちとアレな名前じゃが……まぁ、語感は良かろう」
水の精霊神は何やら、わけの分からない事を口にしていたけれど、カレラってのもいい名前かもね――。
「どちらかの魔術に専念したいのなら、どちらかの個性に寄ればいいのだから、無理する事もあるまい。一つである事を受け入れさえすれば良いのだからな――」
『そう――。元素魔術の時は感情は邪魔だから――』
『精霊魔術の時は、感情が豊かじゃないと、精霊の魂に触れられないのよね』
「わたしはわたし……カレラなんだから――」
わたしはもう、自在にコントロールできるようになっていたようだ。
「あーっ! カレンさん、一人で水浴びしてるーっ! ボクも混ぜてくださいっス!」
ふと気づくと、あたりの水音が再び聞こえるようになっていて、エミリーの声が響いた。
「ふふっ……言っておくけど、結構冷たいわよ? エミリー――」
カレラは、笑みを浮かべてエミリーの方に振り返った。
「アデールさんが出たわ……クラウスさんと、オーリガさんは、先に進んでいるそうよ」
「え? たった二人でっスか?」
わたしとエミリーは、川岸に戻って来て、アデールさんと連絡を取っていた。
「もしかしたら、渡河予定地点に移動しているのかもしれないわ。アデールさんたちにも、坑道を通ってもらう事にするわね」
カレラは、再びアデールさんと連絡を取り、これからの行動指針を伝えた。
「なんだか、川の向こうには大きな魔物が、いっぱいいるっスよ?」
渡河予定地点に達するころには、すでに夕方になっていた。
「エミリー……何かを光らせて、合図を送ってみてちょうだい」
「わかったっスよ!」
エミリーは小剣を抜いて太陽光を反射させていたが、反応は返って来なかった。
「うーん……どこかで、倒れてたりしていなければ、いいんスけど……心配っスねぇ」
「川を渡りましょう、エミリー」
「ええっ? あんなに魔物がいるのにっスか?」
「早く合流しないと危険だし、魔物は何とかなるわ」
「わかったっスよ!」
そう言ってエミリーはわたしの体にしがみついた。
「はっ!」
「グル……」
川の南に転移すると、オーガが血走った目を向けて殺到して来た。
「さぁ、いくわよ、エミリー!」
「はい、カレラお師匠!」
わたしたちは炎の魔術を喚起した。
メッタメタですね(笑)
次回は、ようやくクラウスたちと合流して戦闘のターンです。




