第四十七話 ロンゲスト・マーチ Aパート
ついに新章突入です。
「ふぅ……。何とか一息つけたな」
ラミール大橋の東には、あっという間に仮設陣地ができたので、防衛はラミールに任せて、ケサナ渓谷の館に帰り、昼間から風呂につかっているわけだが……。
「いろいろと課題も残ったな」
もし、エミリーが英雄的な行動で、海神を倒さなかったら、弓隊と支援隊が全滅していただろう事は、想像に難くない。
「オレにイレーネやアデールの支援があっても、倒せたとは、とうてい思えないな」
通常の人間の三倍以上の大きさがあったというし、物理攻撃はあまり効かなかったというから、偶然海神との相性が良かったエミリーだから。例の武器があり、カミラの下で修行したから倒す事ができたというワケだ。
「見通しが甘すぎたな」
オーリガの独断専行があったとはいえ、味方の配置が不十分だったのも事実だ。
「しかし、エミリーもたいした戦力アップだな……」
カミラが成長が早いとは言っていたが、おせじ半分だと思っていたしな。魔法の発動体として使えて、小剣をホールドする事もできる強化武装も、エミリーにマッチしたようだな。
「オレが何でもできるってワケじゃないしな。皆の特技を伸ばしていく方向で、やるしかないな」
正直にいえば、エミリーの今回の行動に少し嫉妬しているのだ。オレのために時間を稼ごうとした、そのけなげさを知りつつも――。
現にラミールから、エミリーに特務中尉への内示があったぐらいだからな。
オレに遠慮したというのも違うだろうが、修行中だという事で、断っていたがな。
「そういえば、領主会議は延期したというから、足並みがそろっていないようだな」
ラミールは大橋の東を解放すると、即座に軍を送って来たのだが、セラエノ自治州の動きは遅すぎる。
「さて……今日はアデールの番だったな」
一週間に一度が努力目標の行為だが、留守にしていた分の埋め合わせをすべきだろうな。
「早めにすませておくか……」
別に義務で行っているわけではないが、夜は敵の侵攻があるかもしれないからな。
「ふぅ……」
カミラとの事は誤解だと何度も説明して、ようやく機嫌を直してくれたので、午後六時を回ったころに、オレは自室に引き上げようとしていた。
「ん? 明かりは消していたはずだが……」
「エミリー……どうしたんだ?」
部屋に入ると、エミリーが部屋の隅で、自分で持ち込んだらしい毛布にくるまって横たわっていた。
「アニキ……。ボク、怖いんス……」
こっちを向いたエミリーの顔は、青ざめているようだった。
「昼間の件か……。なら、ここにいてもいいぞ……」
「アニキなら、そう言ってくれるって思ったっス……」
ふだんは元気が服を着て歩いているようなエミリーだが、巨人に食われかけたという恐怖と、即転生の可能性を考えると、無理もない事だ。
「夕飯まで、小一時間か……ゆっくりしていったらいいさ」
鍛冶の施設があれば、エミリーの強化武装の修理もできるんだがな……イレーネに頼んでみるか。
「そういうわけで、聖剣製作には多少だが、経費もかかるんだよ」
徴税官との出来事を、夕食後にアデールに説明していた。
「一回の聖別が、たとえ百本であっても銀貨三千枚で、証紙一枚が銀貨二百枚? 聖剣なら、その程度経費がかかっても、どうって事ないじゃない」
遠回しに、オレの財布が空である事を告げたんだが……。
「そういうわけで、オレの手元には、預金証書の一枚もないんだって……」
セラエノ公からもらった金貨は、とうにアデールに、手渡してしまっている。
「へぇー……。けど、あんたのバスタードソード。かなりのお宝だそうじゃない」
「いや、あれは売れないようにしてるから、無理だって」
「それにしても……金貨五千枚以上の価値があるかもしれないお宝を、独り占めにしてる人間には、情けをかけようって気にならないわよねぇ……」
数時間前に肌を合わせた人間にたいして、言うような言葉じゃないよな。
「仕方ないわね。じゃあ、これ」
「銀貨五百枚……。まぁ普通に暮らす分には。助かるな」
エミリーへの小遣いレベルの額ではあるが、からっけつというのは、勘弁願いたいからな。
「クラウス殿……。先遣隊が威力偵察を行ったそうだが、迷宮の前のあたり。わちきの村のあたりにのみ、ボスを確認できたそうなのじゃ……」
「そうか……迷宮の中は別にしても、そこを解放できれば、守るのは楽になるといいんだが」
そうそう海の眷属が攻めて来るとも思えないしな。あれには作為的な物も感じてしまう。
「仮設陣地の東は、守るのに向いた地がないし、孤立しかねんから、あそこから長駆する事になるのじゃ」
「ふむ……。一日半か二日ってところか?」
今回の事で、海岸線の防備はより重要になっただろうし、ラミールもこれ以上の兵士は割けないだろう。 あの仮設陣地の保持が精いっぱいという事だろう。
「闇の領域ではないとはいえ、どこから魔物に襲撃されるか分からんのじゃ……三日は見ておいて欲しい」
「ふむ……。オレたちと後詰めの部隊だけで、進むしかないんだろうな」
オレのパーティーも、いちおう何にでも対応する事ができるだけの、メンバーはそろっているはずだ。
「何見てるのよ……。もう、あげないわよ?」
アデールも順調に経験を積んでいるようで、祈りによる結界や、以前よりは高度な治療魔法を使えるし、後衛の司令塔にもなれる、人材だと言える。
「どうかしたのですかな? 拙者は別に明日でも……」
イレーネは戦闘能力的な上昇は乏しいが、以前よりははるかに、戦術眼を持ってくれたし、ここぞというところでの、急所攻撃は頼もしい。
「アニキ……。夜もお邪魔していいっスか?」
エミリーの伸びしろはまだまだありそうだ。最近では一番の成長株である事は言うまでもない。
「明日の朝出発という事でよろしいか? クラウス殿」
オーリガは加入して間もないし、あまり深くは知らないが、前衛のアタッカーとしての能力はじゅうぶんすぎる程だ。
「何をみてるの――」
カミラ。そして、カレンも後衛の相当な戦力増強につながった。魔力を使い果たしても、カレンにスイッチする事により、支援を続けられるし、カミラの火力もかなりなものだ。
(現時点では、最高の布陣だよな)
パーティーとして編成する場合、上限が六人というわけではないが、指示が行き届かなくなるし、スキル経験値の分散を考えると、六人がベストになる。
「これは、ギルド長がわざわざ来られるとは」
「いえいえ、父に代わり、補給の品をお持ちしました」
もう一度風呂に入りうとうとしかけていると、冒険者ギルドの長をしている、セラエノ公の次男がポーションや矢などの補給品を手に、館を訪ねて来た。
「闇の眷属のボスを倒すだけでなく、侵攻してきた海の眷属のボスまで倒すとは、父も驚いておりましたよ」
「海神は、エミリーがほぼ独力で倒しまして、オレも驚いているんですよ」
「うわさに聞くところによると、ラミールの特務中尉への任官の打診もあったとか……」
「ええ。本人は修行中だという事で、辞退したようですが……」
「こちらでも、何らかの形で報いるべきなのでしょうが、ラミールのように一枚岩ではないので……」
「苦労されているんでしょうなぁ……」
「ところで、ここに妹がいると聞いたのですが、お会いできますでしょうか?」
「では、部屋に案内しますので、ごゆるりと」
「お兄ちゃん……。ひさしぶりだねっ!」
部屋ではカレンの人格だったので、兄に飛びついて喜んでいた。
話の終わりには何らかのアクシデントとか起こしたがるのが、
悪い癖ですが、この兄が実は……みたいなのはしんどいし長引くので、
やめておきました(笑)




