第四十六話 セクス、キルクルス Iパート
ざっと二話分の量がありますが、分割しづらかったので、
ひとまとめにしています。
◇◆◇ エミリー視点です ◇◆◇
「せぇぇいっ! たぁっ! やぁっ! はぁっ!」
油断してると感じたボクは、海神の向こうずねに、奥義を放って、持続時間が残っているうちに、左右の強化武装で、ブッたたいたっス。
「ぬぅっ! こしゃくな」
「あらよっと!」
ボクを踏みつぶそうと、足を上げて踏み下ろしたんスけど、その攻撃を予想していたから、石の破片も食らわなかったっス。
「らぁっ! せぇいっ!」
ボクは海神の背後に回り込み、軸足の足首の上あたりを蹴り上げて、ふくらはぎに正拳突きを放ったっス。
「ぐぁっ! 許さん!」
「くっ……せやぁっ!」
足についた虫をはらうかのように、足を動かされたので、ボクはあわてて、反対側の足首の方に側転して、攻撃を加えたっス。
「ぬぅぅ……我が槍でくし刺しにしてやる」
海神は先ほど放った、三ツ股の槍を取りに行こうとしたっス。
「くっ……抜けん……」
かなり深く刺さったみたいっスね? これはチャンスっス!」
「てぇいっ! やぁっ! はぁっ! たぁっ!」
「ぐわぁっ……くっ……こしゃくなぁっ」
ボクは腰から二本の小剣を抜き、強化外装に組み込んで、海神のふくらはぎやふとももに突き刺して、よじ登っていったっスよ。
「くっ……。貴様のような小さき者に、倒せるとでも思っているのか!」
だが、まだ三ツ股の槍は抜けず、苦労してるようっスよ。
「ボクは……足止めさえできれば……アニキが来るまでの、捨て石になれれば、じゅうぶんなんスよ。はぁっ!」
ボクは、 海神の腰の後ろにまで、小剣を刺してはい上がって行き、右手の強化武装を杖代わりにして、炎の元素を喚起したっス。
「せぇぃっ! フラマ・パグナス」
ボクは、炎の攻撃魔法を放つのと同時に、強化武装で腎臓の裏側を強打したっス。
「ぐぬわぁっ! きっさまぁ!」
「うぉぉっと! あっぶな!」
半ば予想していたとはいえ、予想以上の早さで海神の手が後ろに回って来たっスけど、ボクは小剣を使って、肩甲骨の上に深く突き刺して、少し中ぶらりんになりながらも、よける事ができたっス。
「うぬぅっ……ならば、前に進むのみ」
背中がかゆくても、手が届かない場所なだけに、巨人はボクを無視して、砦の方に進もうとしたっス。
「くぅっ……。みんなのところには、行かせないっスから!」
ボクは空いている左手の小剣で、ザクザクと突き刺しては見たんスけど、まるで効いてないんスよね。
「ちょっと危険っスけど……てやぁっ!」
ボクは、小剣を使って、海神の背を駆け上がり、首筋にとりついたっス。
「はぁっ! フラマ……うわぁっ!」
頸動脈を狙って炎の攻撃魔法を使おうとしたんスけど、読まれていたみたいで、ボクは海神の左手につかまれてしまったっス!
「ようやく、捕まえたぞ!」
「うぐわぁっ! ひっ――」
海神はリンゴでもつぶすかのように、ボクを握りつぶそうとしたんスけど……。
「フラマ・パグナス!」
「うぉっ!」
ボクは、足と左手の骨を折ってしまいながらも、強化武装を使って、炎の魔法を放ち、熱さに手を緩めたすきに、握ると小剣が刺さるように位置を整えたっス。
「このまま、地面にたたきつけてやろうか……」
そんな事されたら、たぶん……もう、体力は三分の一も残って、ないんスから……。
「これは……」
その時、アニキのいる方角で何かが光り、闇の瘴気が消えうせていくのを感じたっス。
(いまなら、デスペナも、緩和されるっスよね……)
もう、アニキのための時間は、稼げたのかもしれないっス――。
「エミリー!」
「エミリー殿!」
アデールさんと、イレーネさんが隊を率いて、ボクの方に移動し始めたっスけど、それって危険っスよ……だから……。
「生意気な人間どもめ……まず、手始めに貴様から、食らってやろう!」
「うわぁっ……くぅっ……」
海神は、小剣が刺さるのも構わず、ボクを握りしめて、ボクのあばら骨を数本へし折ったみたいっス……。
「わしに食われたら、骨も残らんからな――」
海神は笑みを浮かべて、ボクを食べようとしたっスけど――。
「根源の炎よ……我の祈りに応え……いまここに顕現せよ……」
ボクは全身の痛みに耐えながら、精神を集中させていったっス。
「んあーっ……」
海神の口が視界いっぱいに広がったっスけど……。
「マグナ・フラマ・エクスプローシブっス!」
ボクは、これまで一度も成功した事のない、かなり上位の爆炎を発生させる魔法を、海神の口中で放ったっス!
「ふがぁぁっ! くぅぅっ!」
口中で発生した爆炎に、舌やのどを焼かれた、海神はもん絶しながら、尻もちをついたっス。もし、前のめりに倒れてたら、ボク死んでたっスね……。
「らぁっ! てぇっ! せやぁっ!」
手の力が緩んだ事もあり、ボクはなんとか、海神の手から逃れ、跳躍して、右手の聖剣の方の小剣を、みけんに突き立てたっス!」
「ぐぁっ! やっ……やめろ……」
「やめろと言われて、やめるバカはいないっス! フラマ・パグナス!」
ボクは、左腕に炎の魔法を宿し、海神の左目を貫き、鼻に足をかけて、みけんに突き刺した小剣に体重をかけたっス!
「ばかな……こんな……小さき者に……」
海神は残っていた左目から涙を流しながら、上体を地面に倒してしまったっス。
「くぅっ……し、死ねぇっ!」
ボクも体力は一割以下しか残らなかったっスけど、小剣をさらに突き刺すと、ついに海神は絶命したっスけど……。
「あがっ……くぅっ……」
無理をしたせいで、折れたあばら骨が、内臓を傷つけたのか、血をはいて、崩れ落ちてしまったっス。
(ボク……みんなを、守れたっスよね……アニキに時間を……)
そこまで考えたところで、ボクは意識を失ってしまったっス。
◇◆◇ ここからアデール視点です ◇◆◇
「そんな……あれを、エミリーがやったって言うの?」
わたしは支援部隊を連れて、近くまで行ってたんだけど、目の前で海神は倒れふし、ついには消滅していくのを、ぼうぜんと見つめていた。
「わたしは……少しの間……時間を稼いで欲しかっただけなのに」
「アデール殿! エミリー殿が、倒れてしまったようですぞ!」
その瞬間を見逃してしまったのだけど、どうやらエミリーは血をはいて倒れたとか。
「支援部隊、急いで前進よ! わたしたちを救ってくれた、エミリーを全力で治しなさい!」
「くっ……ボク、死んでたっスか?」
二人の神官と、三人がかりで、さまざまな回復呪文をかけ続けると、絶命寸前だったエミリーは、ようやく目を覚ましてくれた。
「バカ! なんで、あんなムチャをしたのよ……少し時間を稼いでくれるだけで……くっ……」
「あちこちの骨は整骨しておきました。部位損傷を治せるポーションを飲めば、大丈夫でしょう」
わたしより、強力な回復魔法が使える上に、医師でもあるという人が、エミリーの手当をしてくれていた。
「体は起こさない方がいいでござる……顔だけ横を向けて、ポーションを飲めますかな?」
イレーネが、大袋から高価なポーションを取り出して、エミリーに飲ませてあげていた。
「アニキの方は……大丈夫なんスか?」
こんな時にまで、この子は……わたしは、そのエミリーの思いに、胸を熱くしてしまう。
「大丈夫よ。もう、残った魔物を掃討して、こっちに向かっているそうよ」
「良かったっす……おかげで、体力はほぼ回復したみたいっス」
「けど、無理しちゃダメ。クラウスが来るまで、おとなしく寝ておきなさい」
「わかったっスよ……アデールさん……すぅ……」
緊張が解けたのか、エミリーは寝入ってしまっていた。
「この子……意外と、大物かもねぇ」
◇◆◇ ここからクラウス視点です ◇◆◇
「エミリーが、海の眷属のボスを倒したって?」
オレは、砦の方に向かいながら、伝令に来たイレーネに、思わず問い返した。
「そうなのです。拙者も、そのすべてを見たわけではござらんが、近接戦闘能力のない我々のために、孤立無援の状態で、足止めをしていたのですが……」
イレーネは少し暗い表情でうつむいてしまう。
「ん? どうかしたのか?」
「拙者はご主君を守る事ばかり考えて、全体を見る事ができなかったのです。エミリー殿の支援をしていれば、あんな目には……」
「あんな目? エミリーは無事なんじゃないのか?」
「死にはしなかったのですが、あばら骨を折って血をはいたり……海神に食べられてしまうところだったとか……」
「それで……よく倒せたな――」
カミラに元素魔術を習って、並の魔法使い程度には使えるようになったらしいが、『名前付き』の中でも、かなり上位に当たりそうな海神を倒してしまうとは……。
「海の眷属に詳しい者が言うには、深きものどもには、火属性が効果的で、言い伝えでは、海神は口の中が弱点だったとか、申しておりました」
「今回の大殊勲と言ってもいいじゃないか……」
「どうか、それはエミリー殿に言ってあげてくだされ」
制限地域だったのに、そんな危険なまねをしたという事もあり、このまま褒めるべきか、オレは思い悩んでいた。
「エミリー! ムチャをしやがって!」
地面の上で眠りについているエミリーを見ると、オレはしかる事も忘れて駆け寄り、頭をなでてやった。
「アニキ……ボク、時間を稼いだっスよ……」
「よくやった……えらいぞ、エミリー……オレでも、一人で海神を倒そうだなんて、思いもしないぞ」
「アニキが作ってくれたこれが……あったっスから、アニキと一緒に戦っているようで、心強かったっスよ」
「ちょっと待て! あの槍は海神が持っていたのか? だとしたら、ものすごい大きかったんじゃ」
固い地面に突き刺さったままの槍は、二メートルを軽く越しているようで、体の大きさもそこから逆算できた。
「へへっ……ボク、小さいっスから、後ろに回って足をちくちくしたり、背中をよじ登って攻撃したんスよ」
「偉いぞ……エミリーが倒してくれなかったらと思うと、ぞっとするが……もう、こんなムチャをするんじゃないぞ?」
「わかったっスよ、アニキ……ごめんなさいっス……」
「いまはゆっくり休むんだな……ラミールから、応援がぞくぞくと来ているし、ここらに拠点を作るようだしな」
オレは、エミリーの腕を握ってやりながら、言い聞かせた。
「そういえば、海神は部位とか宝石を落としたり、しなかったのか?」
ようやく動けるようになったエミリーに、疑問を口にしてみる。
「そういえば、落とさなかったっスね……って、アレ……まだ残っているっスね」
「あれか……あれはでかすぎて、売るに売れんだろう」
「それもそうっスよねぇ……これが、ビューって飛んで来て、石の破片が回りに飛び散ったのでも、下手な攻撃魔法より痛かったんスからぁ!」
そう言って、エミリーは巨大な槍を手ではたいた。
「なっ……なんだぁっ!?」
「ちっ、縮んで行くっスよ?」
二メートル以上あり、直径もかなりあった槍は、するすると短くなり、エミリーが持てる程度の大きさに縮んでしまった。
「おお……これは!」
所有者がエミリーに固定されており、固有名称は、海神の槍の上に、気力か魔力を注ぎ込む事で、大きくも小さくもなるという、伝説級の宝貝であった。
「なっ! 宝貝をドロップしたと言う事は、古代竜と同じように、殺されていたら即転生するハメになっていましたぞ!」
イレーネが血相を変えて、叫んでいたが……。
「えぇっ? そうだったんスかぁ? うわっ、怖いっスよぉ……。アニキぃ……」
エミリーは今ごろになって震え上がり、オレの腕に体をくっつけるようにして、しがみついた。
(前から思っていたんだが、結構あるよな……)
腕に当たるエミリーの胸は適度な弾力を持っており、オレは思わず表情を崩してしまう。
「何、でれでれしてんのよ……」
アデールが、あきれたようにオレを見て、小声でつぶやいていた。
「とにかく、これはエミリー……おまえのものだ。小さくしておけば、帯にでも挟めるんじゃないか? 何なら、腰につける、さやのような物を作ればいいさ」
「試してみるっスよ……縮め!」
エミリーは槍を手に、魔力を流して念じると、手のひらに収まりそうなほどに小さくなってしまう。
「おお、すごいな。エミリーは槍を習ったりはしていないのか?」
「槍っスか? 武術はひととおりやったっスから、レベル三ぐらいは、あるっスよ」
「せっかく、いい物を手に入れたんだし、槍の技も磨いてみれば、いいさ」
「そうっスね……。一度実戦で使ってみるっスよ」
「そういえば、耐久値は大丈夫なのか?」
オレはエミリーの強化武装に触れて、確認してみた。
「こりゃ、修理が必要だな。預かっておくから、その槍を使えばいいさ」
このまま使えば、すぐに壊れてしまいかねないほどに、耐久値は減っていた。
「ん? なにやら、属性が増えているぞ?」
「どういう事っスか?」
「前はなかった、炎属性がついているようだな。炎の元素魔術とか、奥義とか使う時に威力が増すようだ」
「へぇー……そういう事もあるんスね」
「そういえば、オレのバスタードソードは……げっ!」
使う前は耐久値はなかったのだが、いつの間にか耐久値が表示されており、なにやら属性が付与されていた。
「聖霊の門だと?」
「それは、カミラの魔法の電導体にしたため――」
いつの間にか、後ろに来ていたカミラが口を開いた。
「あぁー……あの時か? どんな効力があるんだろうな」
「聖属性の技が強化される……。武器には総ポテンシャル量があるから、それが付与されたせいで、耐久値の無限化が解除された――」
カミラはめずらしく、冗舌に語ってくれた。
「聖騎士のスキルも強化されるのなら、うれしいが……大事に使わないといけなくなったな」
それでも、以前持っていた聖騎士の剣よりはるかに耐久力があるので、そうそう壊れる心配はしなくてよさそうだが。
「いやー……クラウス殿。本当に悪い事をしてしまったな――」
ラミールから続々と派遣されて来ている部隊の長と話していた、オーリガが気まずそうにオレのところに戻って来た。
「まったくだ。そんなに急がなくても、ボスを倒す予定はあったって言うのに」
「わちきの覚悟を見せておこうと思ったのですが、一人では到底倒せる相手ではなかったと、いまならわかるのじゃが……」
「家族を失っていたのなら、分からんでもないが、持っていった、聖剣を返してくれよ」
「それが……大剣は、持っていった分が壊れてしまったのじゃ」
「なぁっ! あれも売れば、かなりの金になったのに」
いま、さやに入っているのが、オーリガに所有権を設定している物なら、返してもらうわけにもいかない。
「なら、長剣だけでも返してくれ。オレのは、一の太刀を使いすぎて、壊れたしな」
「これなら、使っていないので……お返し申す」
オレはどうにか、一の太刀用の聖剣を補充する事ができた。
「ふぅ。ここの保持をラミールに任せられるのなら、ケサナ渓谷に帰る事にするか」
街道が解放されたので、一般の人や隊商なども大勢行き来し始めていた。
「聖騎士のクラウス殿とは……あなたですかな?」
「はぁ……そうですが、あなたは……」
準備を済ませて、砦から離れようとしていると、誰かから呼びかけられた。
「わたしは、ラミールの教会から派遣された徴税官なのですが……あなたがセラエノ公に『聖剣』を売られたとか」
ラミールの教会という言葉と、徴税官という言葉に二度ビクついてしまう。
「ええ。悪魔を退治するのに必要なので、聖剣を作って売りましたが、それが何か?」
「困りますねぇ……勝手な事をされては……」
徴税官は深いため息をついて、手をぶらぶらと振っていた。
「はぁ? 教会に買い取ってもらう以外の事もできるはずでは?」
「そうではなくて、聖剣を教会以外に売る場合には、教会が聖別した上で、証紙を張る事になっているのですよ」
「証紙……ですか?」
大昔に聞いた事があるような気もするが、聖剣の作り手はいま、オレしかいないはずなのに、そんな手続きは残っているんだな。
「ええ。聖剣一本につき、一枚買ってもらわないといけないのですが、何本売られたので?」
「百十本ですね。セラエノ公に確認してもらっても、結構ですが」
「聖騎士の仰る事ですから、それは信用しますとも。ちなみに、証紙は一枚、銀貨二百枚になっていますので、銀貨二万二千枚……。それと、聖別の費用として、銀貨三千枚で、銀貨二万五千枚を、お支払いいただきたい」
「なぁっ……手持ちでは足りないのだが、聖剣扱いの槍を一本、現物納品というわけにはいきませんか?」
「証紙の代金は、わたしでもごまかす事ができませんが、まぁ、それぐらいなら融通しますが、おつりは出せませんぞ?」
徴税官は身分を証明するクリスタルを出して、確認させてくれた。
「ふむ。槍一本ではギリギリ足りないので、二本いただく事になりますが、よろしいか?」
闇で流すのなら高値がつくが、そういうわけにもいかないので、一本銀貨四千枚だとか。
「仕方ないですね。お願いします」
オレは手持ちの銀貨二万枚を支払ってしまうと、証書にもできない小銭しか残らなかった。
「くっ……これじゃ、大赤字じゃないか!」
それより、懐にすぐに使える金がないのが心細かった。
これにて、第七章は終わりになります。
迷宮に進軍するのは、第八章ですね。
はたして、古代竜を倒すまで、どれぐらいの量を書く事になるのか、
わたしにもちっとも読めません(笑)現在ここまでで十八万一千文字。
ちなみに、ダゴンが出て来る予定はぜんぜんありませんでした(笑)
わたしはエミリーが、主人公より好きかもですね(笑)




