第四十五話 セクス、キルクルス Hパート
今回は少し時間をさかのぼり、エミリーが活躍するターンです。
◇◆◇ エミリー視点です ◇◆◇
「あれ? アニキたち、山の方に入っていっちゃったっスね」
「うーん……さすがに拙者でも、姿が見えないのでは、援護できませんなぁ」
「アニキたちを、サポートする部隊の人たちは、ギリギリ見えるっスけど」
「カミラの魔法が強力っていうのは、わかったけど……どこから、魔物が襲ってくるか分からないのに、二人だけというのは、さすがに問題あるわね」
アデールさんは、オーリガさんが勝手な行動をした事に、怒っているみたいっスね。
「うーん……この川、結構深そうっスよね? 流れも早そうだし」
「この下流にあった橋は、大雨で壊れたぐらい、流れが速いのですから、泳がない方がいいと思いまする」
「アドニール大橋が落ちたのは、イベントも関係してたんじゃないかしらね」
「わわっ! なんか、山の方で光ったっスよ? 雷じゃあないっスよねぇ?」
「注意した方が良さそうですなぁ。拙者は弓隊のところに行っておきまする」
イレーネさんは、何か気配でも感じたんスかね……。ボクには、ちっとも分からないんスけど。
(うーん……ボクも、もっとアニキのお役に立ちたいんスけど……。無理をして、心配させたくないっスから)
アニキがカミラさんの魔法に感心しているのを見て、正直、胸が痛んだっスけど……そういうの、アニキは嫌がると思うんスよね。
(ずっと、アニキのそばにいたい気持ちはあるんスけど……まだ、そっちの覚悟はできてないんスよね)
むしろ、ボクが妹だったら……無条件で、かわいがってくれるのかな? とか、思っちゃうぐらいだし。
(そういえば、お風呂場で……見られちゃったんスよねぇ)
ボクはそんな、とりとめのない事を考えていて、川の警戒を、怠ってしまってたんス――。
「なっ! 何よあれ! 川を眷属が泳いで来てるじゃない!」
「えぇっ? こんな昼間に、眷属が侵攻する事ってあるんスか?」
アデールさんの叫びに、顔を上げると、急流をゆっくりとさかのぼって進んで来る、海の眷属の姿が十体ほど確認できたっス。
「弓隊、放てぇっ!」
イレーネさんは率先して矢を放ち、戦闘の眷属の胸を貫いたんスけど……まだ生きてるっスよ。
「ここから前に出ると、弓の邪魔になるっスよね? ここで、控えておく事しかできないんスか?」
ボクは不安になったので、アデールさんに質問してみた。
「そうねぇ。支援隊に攻撃魔法の使い手は、ほとんどいないし、ここにいてくれたら、安心できるんだけど」
アデールさんは、こんなボクを信頼してくれてるって言うのに。
「いちおう攻撃魔法も使えるようにはなったんスけど、強力なのはまだ使えないんスよ。炎の魔法なら、そこそこなんスけど」
「うーん……。例の魔法拳法で守ってくれる方が、安心かもね」
「わかったっス……」
攻撃魔法をかけてたりしたら、アデールさんたちが危険な時に、即座に対応できないっスからね。これからは、必死で索敵をするっスよ!
「二回射撃したら、小隊ごとに後退しなさい! 砦の方に引き込みます!」
イレーネさんはすっかり、前線司令官として、弓隊を率いてるっスよね。
「ミグゥルッ――」
ついに、川岸の坂を上って来た海の眷属が、体に数本の矢を受けて倒れたっスけど、手足に吸盤がついてたっスよぉ……。
「槍を持ってる個体もいたっスから、川から離れた方がいいっス」
ボクはあわててアデールさんに報告した。
「わたしたちも、ゆっくり砦に後退するけど、焦らないようにね」
このままでは、魔物と有効的に戦える場所がないっスからねぇ。海の眷属を水場で相手するのは、怖いんスから――。
「ああっ! アニキの後詰めの人たちの方にも向かってるっスよ。けど、川のそばには行けないし……」
カミラさんが使っていたような、視界内の場所に瞬間移動できる魔法が使えたら、援護にいけるんスけど……。
「ごめん。エミリー……。ここで食い止めてちょうだい……。このまま入って来られたら、被害者が大勢出そうなの」
途中まではアデールさんと一緒に後退してたっスけど、道が狭くなっているところで、そうお願いされたっス。
「陸の上なら海の眷属の一匹や二匹……どうって事ないっスから!」
ボクは両手の、アニキが作ってくれた強化武装をなでながら、アデールさんに見栄を張ったっス。
「へへっ……来たっスね。みんなが体勢を立て直す時間、稼がせてもらうっスよ! ふんっ!」
ボクは手始めに、腕と足に気を流し、動きを速く正確な物にする、塔院の秘術を練り上げていったっス。
「キケェッッ――」
奇妙な鳴き声とともに、海の眷属が槍を手に突っ込んで来たっスけど、そんな見え見えの攻撃を食らうワケがないっス!
「せぇいっ! はぁっ!」
「グキィィッ――」
ボクは、槍先を上半身を反らしてかわし、右手でつかんだあと、体を浮かせて両足で蹴撃をくらわしてやったっス。
「グギギィッ――」
人間なら、あばら骨を折って死んでもおかしくない攻撃なんスけど、まだ足りないって事っスよね……。
「てぇぃっ! せやぁっ!」
槍を後ろに投げ捨てたので、素手で向かって来た海の眷属に、ボクは強化武装に気をめぐらせて、正拳突きをしたっス。
「グゲェッ――」
胸の重要な臓器を、浸透した気が破壊したようで、海の眷属は、奇声を上げてひっくり返って絶命したっス。人間に似てる魔物は、やっぱ気味も、後味も悪いっスね。
(アニキもカミラさんも、頑張ってるんスね。ボクも頑張るっス)
山の方では、再び稲光のような物が走っており、とどろくごう音に、カミラさんの魔法の出力の高さを思い知るっス。
「イレーネさんが、展開したっスね」
イレーネさんと、四人ほどの弓隊の人が、あまり広いとはいえない高台の上に陣取って、援護射撃をしてくれているっス。
「ここは通さないつもりっスけど、アニキへの援護のためには、砦の方にいった方がいいっスよ!」
ボクは、少しためらった後、イレーネさんに大声で伝えた。
「はぁ……はぁ……もう、五体は倒したっスかねぇ――」
何とか深手を負う事もなく、槍先のかすり傷程度で済んでいるっスけど、飛び道具が出て来たら怖いっスねぇ。
「なっ……アレは、もしかして……海の眷属のボスだったり……。するんスかねぇっ!」
さらに五分ほど、槍を投げて来る眷属をゲリラ戦法で倒していると、海の眷属を三倍ぐらい大きくしたようなのが出て来たっスよ。もしかしたら、海神だったりするんスかねぇ――。
「支援隊も、弓隊も……。砦まで下がってるみたいっスけど」
ここで、食い止められなかったら、弓隊や支援隊が全滅するのは、火を見るより明らかっスよね。
「グゥルギィ……おろかな……人間めが……」
なんと、海神は人間の言葉をしゃべり、巨大な黒光りのする三ツ股の槍を構えたっス。
「うわぁっ!」
ボクは直感で、バク転したんスけど、突き刺さった槍で飛び散った石の破片は、並の攻撃魔法を上回ってたっス。
「ボクがやるしか、ないんスから――」
ボクは、海神の放った槍の前に立ち、ついに覚悟を決めたっス。
「炎の元素を顕現させた、我が拳技に燃やしつくせぬものはなし、ゆえに、我が奥義のあとに、立つものはなし――」
ボクは、カミラさんと相談して考えた、呪文を唱えて、火の上位元素……炎の魔力を全身に巡らせたんすけど、強化武装から余った炎が、チラついているっス。
「せぇぇいっ!」
ボクは気迫とともに、海神に襲いかかったっス!
○技の武技言語ですね、わかりますw




