第三十六話 ターニングポイント Gパート
エミルが男の娘だったという事が発覚した、次のターンです。
午後六時にも、もう一話公開します!
「レックス! この戦いに参加していたのか」
「ここで大丈夫だ……。あぁ……汚名を返上すべく、ボスを倒そうとしたんだが、見ての通りのありさまだよ」
レックスは、救出してくれた人と別れて、オレの前で片ひざをついていた。
「救出を待ちきれず、二人がデスペナを負って、セラエノに帰還してしまったらしい」
「おまえの妹は……まだ発見できていないようだが」
「転生を選んでしまったよ。ついにオレは妹にも、見放されたようだな……」
さすがに暗殺者と発覚しているような人間を、簡単に解放するわけにはいかないようで、『誓約』を拒否するのなら、転生するしかないだろうな。
「あの大男は残っているのか?」
「あいつも、逮捕された事が発覚してから、これまでの悪行を訴えられて、転生する事を選んだよ」
という事は、剣士二人と石弓使い。神官と魔術師の五人を率いていたんだろうか。
「一度、アドニールに戻って、装備を調えて来るさ」
「気持ちは分かるが、おまえたちのために、危険な橋を渡った人間がいるんだ。その事を忘れるなよ」
オレはそう言い残して、レックスの前から立ち去った。
「クラウス殿! この近辺にはもう、魔物は潜んでいないようです。救出も完了しましたし、これで引き上げますか?」
冒険者ギルドの幹部を名乗っていた小隊長が、オレに声をかけてきた。
「そうした方がよさそうだな。疲労の少ないパーティーを、警戒に当てるようにしてくれ」
オレは、アデールとイレーネを呼び寄せて、館への帰還を告げた。エミルはばつが悪いのか、ずっと無言でついて来ていた。
「ふぅ……何度入っても温泉はいいものだな」
激しい戦闘で、汗にまみれていた事もあり、オレは本日三度目の温泉に入っていた。
「まぁ、さい先は良かったのかもしれんな」
まさか川の向こうのボスを、着いたその日に倒してしまうとは、オレも想定していなかった。
(そういえば、エミルが女の子だったとはな……)
破れた衣服と包帯の下からのぞいた乳房は、健康的に引き締まってはいるが、それなりの存在感を示していた。
「さて、しっかりと体を洗っておくか」
オレは湯船から上がり、流し台のところで布に石けんをつけて、体をこすり始めた。
「あの、アニキ……。背中を洗いましょうか?」
「ん? ああ……。っって、おい」
いつの間にやら、背後にエミルが立っていたようだ。
「やっ……まだ恥ずかしいから、振り向いたらだめっすよ」
そう言って、エミルはオレの手から布を奪って、背中をこすり始めた。
「す、すまん……」
「ボク……。いつかはアニキにも、女の子だって言うつもりだったんスけど……言ったら、これまでみたいにかわいがってくれないんじゃないか? って思っちゃったんス」
「にも……という事は、アデールたちは知っているのか?」
「お二人には、すぐに女の子だって、気づかれたっスから」
「おいおい。じゃあ、オレだけが知らなかったのか?」
まぁ、女の子だったからといって、マイナスな要素は、何ひとつないんだがな。
「別にエミルが女の子だったからといって、困ってるわけでもないし、隠していた事を、怒っているわけじゃないからな……。ただ、驚いただけだからな……」
「ボク……。実は、エミリーって言うんスよ。どっちで呼んでくれてもいいんスけど……。こういう時は、エミリーの方がうれしいかもっスね……」
エミルもとい、エミリーはオレの耳元で、これまで出さなかった、甘い声を響かせてしまう。見てしまった乳房が目に焼き付いていて、下半身が反応してしまっていた。
「よしっと。お湯をかけるっスよ? アニキ」
エミリーはかいがいしくオレの背中を洗い、湯おけを持ち上げて、背中にかけてくれた。
「その……なんだ。まったく同じとはいかないかもしれないが、これまで通り、甘えてくれていいんだぞ」
「ホントっすか? うれしいっす、アニキ……」
「お、おいっ……」
感極まったのか、エミリーは背後からオレの背中に抱きついたのだが、タオルすら身につけていないようで、オレの下半身には火が付きかけていた。
「もう入ってもいいわよねぇ? って、タオルを巻きなさいって、言ったじゃないの」
「あぁっ! なんだか、怪しい空気ですぞ?」
どういうわけか、アデールとイレーネも連れだって、湯殿に入って来た。
「そっ……そんな事ないっスよ……ひゃぁっ!」
「大丈夫か、エミリー!」
エミリーは石けんを踏んでしまい、転んでしまうのが見えたので、オレはあわてて振り返って支えたのだが……。
「やっ……もう、大丈夫っスからぁ……恥ずかしいっスよぉ」
幼さの残るエミリーの内またを直視してしまい、恥ずかしそうにもだえていた。
「これは、クラウス殿! わざわざお越しになるとは」
「昨日は大変だったな。おかげで助かったよ……。君は当分ここにいる予定なのかい?」
オレは翌日の朝、セラエノの冒険者ギルドの幹部だと名乗った、青年のいる家に顔を出した。
「ええ……。十日ぐらいで、代わりの人員が来るらしいんですがね、各領主や特権商人の護衛の人間を招集するのに、苦労しているようなんですよ」
「ラミールなら、指揮系統や招集とかでは、楽なんだろうが、息苦しいところがあるのかもな」
ラミールでは、ギルドが国から防衛を委託され、冒険者が軍人としての階級を持つのは、実際の歴史でも同じだ。
「セラエノは自由が売りではあるんですが、危機の時には、セラエノ公に武力を招集するのが筋なんですが、長らく危機は訪れませんでしたからねぇ」
「君は片手持ちの長剣をつかっていたよな?」
「ええ……。消耗品なので、安物ですがね」
「これを、渡しておこうと思ってな」
「これは聖剣ですか? 自分なんぞに、このような……」
彼は聖剣のステータスを確認して驚いていた。
「これは鉄剣程度の耐久力しかない、程度の低い聖剣なんだ。セラエノ公が買い取って、運用を任されているんだよ」
「クラウス殿が、聖剣を作る鍛冶師でもあるといううわさは、本当だったのですね」
「ああ。いま、公爵がカデストにその材料を取りに行く手配をしている。ラミールまでの交通を確保したら、いったん戻って、聖剣を量産するつもりだよ」
「そうでしたか……ですが、補給線も伸びますし、ラミール大橋のあたりのボスを倒すのは、容易ではないかと」
「ふむ……。昼までに一度偵察をしておきたいが、オレたちは四人しかいないから、君のパーティーに後詰めになってもらおうと思ってな」
「その件でしたら、命令書を受け取っていますので、そのつもりでした」
「じゃあお願いするよ。三十分ぐらいしたら出発しよう」
「百メートルほど先は、闇の領域になっていて、大量の眷属がいますが、昼間は近づかなければ、攻撃して来ませんね」
オレたちは、ラミール大橋を望む、小高い丘のところまで、魔物に阻まれる事なく、接近していた。
「あれ? 橋の向こうから、誰かが近づいて来てるっスよ?」
エミリーも目がいいのか、目を細めて橋の向こうを眺めていた。
「そのようですね……大剣を手にした戦士のようですが……なっ! 強行突破するみたいですぞ、ご主君」
「なにぃ? 制限地域で、そんなムチャな事を? こっち側までたどり着いたら、援護するぞ!」
「了解しました! 回収した後は撤退でよろしいですね?」
聖剣を渡した剣士が確認して、仲間の元に帰っていった。
「ていっ……せやぁぁ!」
両手持ちの剣を手をふるっているのは、褐色の肌の女性のようで、満足なよろいも身にまとっていなかった。
「おいおい……本当にたどり着きそうだな……。どれぐらい前進したら、範囲に入る? イレーネ」
「そうですね。ここからでも届きますが、精密射撃なら、五十メートルは前進する必要があるかと」
「あの女性があんな危険を冒しているんだ。制限地域の手前まで、前進しよう」
「ここが、境目のようね……。この向こうは瘴気を感じるわ」
「よし、イレーネは長弓で支援してくれ! アデールとエミリーは後ろで待機していてくれ」
後方には支援の部隊もいるし、ここなら危険は少ないだろう。
「たぁっ! せいっ!」
橋を突破している女性は、敵の攻撃を時には大剣の背で受け止め、時には横転して、よけ続けていた。
「ぬぅっ……くっ……せぇりゃぁっ!」
だが、確実にスタミナは減少しているはずで、その動きに切れが少なくなっているようだ。
「うわっとっと……やばっ!」
「たぁっ!」
「クゥムォンズゥォッ!」
横転から起き上がろうとした時に、地面から闇の眷属が現れて、足を絡め取り、グレーターデーモンのツメが切り裂こうとしていたが、イレーネの放った矢が、目を貫いて悲鳴を上げさせた。
「せぇいっ! てやぁっ!」
横をすり抜けるのをあきらめたのか、大剣使いの女性はスキルを発動して、大ぶりの一撃でグレーターデーモンの二本の腕を切り飛ばしていた。
「かなり、やるようだな……」
昨日、鉄球メイスで部位攻撃でボスの腕の破壊に、オレがあれだけ手こずった事を考えると、攻撃力では劣っている事を、認めざるを得なかった。
「てぇい! せやぁっ!」
スキルを発動させたあとも、囲まれないように気をつけながら、グレーターデーモンを滅ぼしていた。
「くっ……せいっ! やぁっ!」
いまだスタミナは回復していないようだが、イレーネの援護もあり、一部の敵はオレたちに矛先を向けていた。
「よし、何匹かこっちに誘い出せ! オレが減らしておく」
そう指示すると、イレーネは最も近い魔物二匹に矢を当てて、誘導してくれたので、スキルをつかって一匹づつ倒していった。
「てぃっ! せやぁっ……たぁーっ!」
ようやく血路を切り開いた大剣使いの女性は、残る距離を走り抜けて来た。
「わちきは、ラミールからの使者で、魔斬の特佐の二つ名を持つ、水焔(みずほむら)の里の若長の、オーリガ特務少佐と申す者。ご助勢、感謝する!」
大剣についた血を払って、器用に背中のさやにおさめた女性は、振り向きざまに名乗りを上げた。
ワイルドな褐色の少数部族の女剣士キターって感じですね。
名前があるという事は、今後も活躍してもらう事になると思います。




