第三十話 ターニングポイント Aパート
ようやく新章スタートです。
「まずは、謝らせて欲しい……。この通りだ」
「ちょっと、公爵……どうなされたんですか?」
いつもの応接室に通されてすぐに、セラエノ公爵が姿を現して、深々と頭を下げられてしまった。
「拘置所に送られて来た、ケラエノ子爵の部下を取り調べた結果、うちの第三執事が、情報を漏らしていた事が発覚したのだよ」
第三執事とやらに、罪をなすりつけたんじゃないのなら、いいんだがな……。オレもすっかり、すさんでしまったよな。
「あの時点では、別にレックスと敵対していたわけでなし、ここの執事に、オレたちの情報を流されたとは言っても、謝罪を受ける程じゃあない」
「そう言ってくれてありがたいんだが……その第三執事は今日付けで解雇したよ。その連絡をしようと店に行ったら、あの騒ぎだったものでな……」
本当のところを言えば、セラエノ公への信頼はかなり下がっている。席を立ってもいいぐらい、腹を立ててはいるのだが、アデールとイレーネの後見人である以上、短気にはやるわけにもいかんだろう……。
「公爵……ここらで一度整理しておきましょうか。オレたちは、雇われている身ではない。故にこちらの情報を、渡さないといけない義理はないと……」
「ふむ……。たしかにその通りだ。古代竜にいどむ件については、間接的に知ってしまったが、別にわたしが、部下に調べさせているわけではないよ」
「ほかにも決めておくべき事はあるが、その前に……。跳梁跋扈しているという、悪魔について、聞いておきたいんだが」
「うむ……。現在はケサナ渓谷の東にある、橋のところで食い止めているのだが、闇の眷属の領土と化していて、ラミールとの陸路は使えない状態だ」
「それも、エウロパの鎖国や、古代竜の活発化と関係がある、イベントのような物なんでしょうか?」
「イベントとは違うようだ……。かつてこの地にて実際に起こった、事件を再現させようとしているのかも」
「ふむ。オレが、わざわざ祖先である、ケイン家を名乗らされて、聖騎士見習いとして、開始する事になったのも、何らかの意図を感じるからな」
「ほう……。それは興味深いな……。だとしたら、君にくだされたという、古代竜を倒せという通達も、何らかの関係があるのかもしれんな……」
「うーん……。整理しないといけない情報が多すぎるな。レックスと聖剣の事は後回しにして、その悪魔への対処について決める事にしましょう」
「そうだな……。君たちをいいように、使っているようで悪いが、悪魔にたいする共同作戦にも参加して欲しい」
「共同作戦……。ラミールとのですか?」
「ああ……。部族連合は、ラミールと互助同盟を結んでいるから、大半はラミールに脱出したらしい」
「部族連合の人間はかなり腕が立つと言いますし、それも戦力に加わるんですか」
「ああ……。部族連合と、ラミールの精鋭の冒険者と、セラエノの精鋭で、二週間後をめどに侵攻して、悪魔が出て来る門があるという、迷宮に突入する予定なのだよ」
「二週間か……。あまり余裕があるとも言えないな」
公爵の手配で大規模な輸送隊を組織したとしても、ケラエノへの往復も、二度は無理かもしれん。
「まぁ、それについては、できうる限りの協力をしたいところだが、何か不安要素があったら言って欲しい」
実際始まってみたら、死地にまっしぐらでは、みんなを率いる者としての責任が立たない。
「うむ……。闇の眷属が支配した土地は、制限地域と同じ扱いになるのだよ――」
「それはまた……。ただでさえ強力な魔物が相手で、事実上の制限地域ですか」
「ああ。その地域のボスを倒せば、元に戻るらしいんだが」
「そのボスとやらは、グレーターデーモンより弱い……って事は、ないでしょうねぇ」
「ああ……。『名前付き』の悪魔だと、思ってくれていい」
「なら、ますます時間が足りないじゃないですか。その迷宮にたどり着くまでのルートのボスを撃破しない限り、そんな死地に仲間を、連れて行けませんよ」
「うむ……。ラミールとの陸路を回復するためにも……また、ケサナ渓谷の安全を確保するためにも、橋の向こうのボスを、倒して欲しいのだよ」
「簡単に言ってくれますが、そんなの聖剣があっても……」
「この通りだ! このままでは逼迫してしまうのは、ケラエノだけではないのだ」
公爵はオレに深々と頭を下げて要請した。
「わかりましたよ……。最大限の支援をしてもらう事になりますが、いいんですね?」
「ああ……いまのセラエノで、できうる事なら」
「では、今すぐにでも、カデストに荷馬車を走らせてくれ。無論、制限地域を越えられるだけの護衛をつけてだ。延べ棒をモレイト村まで運んでもらおう」
「ふむ……。それぐらいなら、すぐに手配できるな。行きに四日。モレイト村まで持ち帰るのに三日というところか。すぐに、手配を進めるよ……」
「公爵が支援してくださるのでしたら、鉱石を掘る冒険者への手当を増やして、大量に確保する事もできますわ」
アデールが抜け目なくアピールをして、公爵が呼んだ誰かと輸送の手続きをするため、離席した。
「ああ。その間にオレは、そのボスとやらを一匹始末しておく。そのあと、聖剣を作る事になるな」
「君に死なれては、聖剣製作ができなくなるから、万が一闇の領域で倒れた時のための救援部隊は組織しておくよ」
「そうしてくれると助かるな。ついでだから、聖剣の事についても、決めておくか」
「うむ。聖剣は闇の眷属にたいして、補正がつくから、できうる事なら、大量に欲しい」
「ふむ……。聖剣と一口に言っても種類があるんだが……」
オレは、聖剣扱いの小剣と、例の鉄球メイス。そして、使い切りの聖剣をテーブルの上に並べた。
「まずこいつだ。これは一番普通な聖剣の組成にしてある。ある物質を混ぜ込む事により、聖騎士のスキルの発動のための、触媒としても使える」
オレは小剣を指さして、セラエノ公に説明をした。
「手に取ってステータスを見ても、かまわないんだが」
「では、失礼して……。ふむ……耐久値は存在するんだね」
「スキル発動のための触媒として、可能な最大限の組成にしているからな」
「これが、先ほど公爵が買われた聖剣です。触媒として使うと、一度で壊れる代物ですが、普通に戦うのなら、鉄剣程度の耐久値はあります」
「ほう……興味深いな……。教会では普通、一本銀貨一千枚で買い取るというアレかね」
「物質の含有量を減らせば、触媒としての力は弱まりますが、耐久値は上がるでしょう。どこまで減らしても、聖剣扱いになるのかは、試してみない事には……」
「ふむ……で、それは何だね? 妙な形をしているが」
「これは、耐久値と触媒としての力を、両方取りするために、急ごしらえで作ったものですが、聖騎士のスキルを使いはしましたが、グレーターデーモンを二撃で倒せました」
「ほう……耐久値も相当なようだな」
「耐久値の高い物と、決戦用の物……どちらを多く作るのを、公爵は望んでますかね?」
「ふむ。手に入る鉱石の量にもよるな」
「公爵……よろしいですか?」
アデールと打ち合わせをしていた人がやってきて、公爵の耳元で何かを伝えていた。
「うむ……いいだろう。冒険者から鉱石を、通常の五倍の値段で買い取ってくれ。馬車は二台使ってもいい」
「五倍……ですか?」
「言っておくけど、利益なんか乗せないわよ?」
オレが視線を向けると、アデールが手をぶんぶんと振っていた。
明日からは、当分一日一話になると思います。
読者数が増えるごとに、執筆の意欲も高まります(笑)




