第三十一話 ターニングポイント Bパート
今回は全編が、セラエノ公爵との会話になります。
ですが、飛ばすわけにもいかないと思いますけど。
「これはまた……思い切りましたね」
「ああ。この危機を最小の被害で治める事ができないと、わたしの立場もなくなるのでな」
「では最初に、レベル一の聖剣を大量に作る事にしましょうか。荷物を運んだ人に手伝ってもらえばはかどりますので、それを持って帰ってもらう事に」
「うむ……それを二十本ばかり欲しいな。それだけあれば、前線を押し返す事も可能になってくる」
「そうですね。剣の補修自体は、普通の鍛冶師でもできると思いますので」
「その次はどうするのかね?」
「聖剣としての補正を保ちながら、より多くの耐久値を目指す方針で、可能な限り量産をする事にしましょうか。最後に、決戦用をいくつか用意すれば」
「ちょっとよろしいですか? おい、アデール……」
「どうかしたの?」
「例のオレが作った木型があるだろう。あれを十個ぐらい、モレイト村で量産するように手配をしてくれ。あと、たるを追加で四つは必要になる」
「けど、いいの? 聖剣の秘密をばらしても……」
「現状、聖剣製作スキルを持つのはオレだけのようだしな……公爵には、秘密を守ってもらう事にするさ」
オレはアデールを呼び出して、小声で打ち合わせをしていた。
「そういえば、全部片手剣でいいんですか? 槍とか両手剣も作れなくはないですが」
「そうだな……量産分は長剣でいいだろう。決戦用には、何種類かあると役立つとは思うが」
「で、このレベル一の聖剣ですが、本当に買うんですか?」
「ああ……。それはわたしが買い取って、君に貸与する事にするよ。壊れても構わないし、誰かに使わせても問題ない」
「そうですか……。では、そういう事に」
「では、報酬の話をしておきたいのだが、レックス君について、話しておく必要があるな」
「たしかにそれは気になっていたが……。どれぐらい、自供をしたんだろうか」
「うむ……。前子爵の庶子である女暗殺者と大男を使い、君の妨害をした事。そしてエミル君を人質に取って、アデール君らに武装を解除させて、制限地域に歩いていくよう命令した件。それにより、カデストを実質的に支配に置こうとしていた事。さらには君を死地に追いやり、自分が聖騎士になろうと企てた……。そのすべてを、自供したよ」
さりげなく、エミルの名前まで聞き出しているとは、何のための尋問だったのやら。やはり油断ができない。
「ふむ……。で、処分はどのようになるんですか?」
「大前提として、後見人たるわたしの権限で、子爵の位階ははく奪。旧子爵領の関税権もはく奪する。それ以上については、領主会議を待たねばならんな」
「つまり、徴税権のみ残る領主として、残留する事も可能だという事ですか?」
「ああ……。それも報酬の件とかかわるのだが、望むのであれば、カデストに編入し、新たに子爵位を授ける事もできるが、アデール君がそれを望むかどうか」
「苦労ばかり、しょい込む事になりそうですしね……恐らくは」
「まぁ、あの地といえど、領主不在では困るしな。さまざまなペナルティーはつくが、レックス君には、領主を続けてもらおうと思っているよ」
「領地にたいするペナルティーだけですか?」
オレにたいする教会への工作はいいとしても、アデールたちを死地に追いやった事だけは忘れられない。
「悪業値は危険レベルではなかったからね。領主不適格なら、問答無用で追放なんだが……」
「では、腹違いの妹や、大男はどうなる?」
「ほかの関与した者も、レックス君も、今回の任務には強制参加という事になる……」
「腹が黒くても戦力は戦力ですか……。ここ一番って時に、裏切られなければいいんですがね。オレはレックスに背中を預ける事は、できませんよ」
「本人にとっては屈辱的だろうが、『誓約』をかわしてもらう事ならできるが、君はそれを望むかね?」
「それをすれば安心はできますが、恨みに思ったり、今後の改心が期待しにくいですね」
「まぁ、君たちの救出部隊などに使う事はないから、安心してくれたまえ」
「まぁ、そこらは領主会議の決定にお任せしますよ。オレは領主ってわけでもないですしね」
「うむ……では、君たちへの報酬についても定めておかないとな」
「オレへの報酬なら一切無用に願います。ただし、これが最後だと思ってくださって結構です――」
「むう……。どうやらわたしは……君からの信頼を失ってしまっていたようだね」
「正直に申しあげると、その通りです。セラエノの領民を守るのが、大前提だというところまで疑ってはいませんが、それにより、仲間を死地に追いやる事は認められませんから、今後は一線を引かせてもらう事になります」
「たしかに、それを否定するとうそになるな……大の虫のために、小の虫を殺す……。それが自分たちの事であれば、是認できないという事だね」
「長らくセラエノの禄を食んでいたのならともかく、オレは聖騎士とはいえ、一冒険者にすぎませんからね」
「たしかに……これまで、虫のいいお願いをして来たのは承知している。それに、古代竜の討伐に兵士を送る事も、君と同じ理由で、できない事もある」
「拙者が……ご主君の枷になっているのであれば、今すぐにでも、領主の座を投げ出しまする」
これまで黙って聞いていたイレーネが、語りはしないものの、触れ続けていた問題……。セラエノ公と完全に手切れしない理由に、きづいてしまった。
「そんな事はないから、落ち着いてくれ、イレーネ」
「そうよ……わたしたちでサポートしてあげてるんじゃない……。わたしは、枷だとか重荷だなんて、思わせないぐらいに、自立してるつもりだから」
打ち合わせが終わったアデールが、イレーネの会話を聞きつけて、戻って来た。
「これまでの君たちの働きで、わたしが後見人として働く対価としては、じゅうぶんすぎるぐらいだよ。その心配はしなくて大丈夫だよ、イレーネ君」
公爵も、後見人に関する事を宣言する事により、イレーネの心配を取り除いてくれた。
「今回の聖剣の事については、わたしも利益を取るつもりはないのよ。こういう非常時に荒稼ぎしたところで、今後の信用が得られるとも思えないしね」
「経費等は持ってもらいますけどね。今日売れた武器代だけでも、結構な売り上げだし、聖剣も適価で公爵が買い上げてくださるんなら、心配はいらないわよね」
「もちろんだとも。教会の聖剣の買い取り価格の、五倍以上は保証しよう」
「まぁ、材料費は持ってもらうわけだから、それでもじゅうぶんすぎるよな、アデール」
「聖剣を一本作るごとの利益が、金貨五千枚をこえるようであれば、基金に回してもいいわね」
よほど高レベルの物でも作らない限り、そこまで高額にはならんだろう。
「だいたい、確認すべき事項と決定事項は、ほぼ終わったんじゃないか?」
「一番大事な事を決めてないじゃない。とは言っても、決めるのは、クラウス……あなただけだけど」
「どういう事だ? アデール」
「今回の任務に、拙者たちを帯同してくださるかどうかですよ! 無論、拙者もついていきまする!」
イレーネはさっそうと立ち上がって、宣言した。
「古代竜は無理でも、制限地域のデスペナぐらいなら、許容できるわよ。あんたを放っておくと、一人で危険な事でも、やらかしそうだし!」
アデールは、困った弟を見るかのような表情で、オレを見つめていた。
「なら、連れていってやるよ! ただし、帰還は全員でしか認めないからな!」
オレたちは、手を取り合って、生還を約した。
エミルが完全に空気すぎるwww




