第二十九話 インターミッション Iパート
これにて、インターミッション編の終わりです。
ちょい短いので、もう一話、午後六時に公開します!
「おお、到着したようだぞ!」
「ハルバードを注文した、ザムエルだ! わたしの分はできているのかね?」
「なっ……なによ、この騒ぎは……」
オレたちが馬車を三番街の店の前までつけると、店のなかから、二十数人の客が、大挙して押し寄せて来た。
「おかえりなさいませ……。あの、マスターがお戻りの日を、お教えしたら、このように……」
小さい体を利して、ロロットがすき間をかいくぐって、アデールの元まで駆け寄って来た。
「注文した分を取りに来ているわけ? あわてなくても注文者以外に、売ったりなんかしないのに」
「あと、どうしても売ってくれって、毎日のように押しかける方も、いるんです」
西の門からセラエノに入ってからも、街ゆく人が動揺をしていて、何らかの異変を感じてはいたのだが、どうやら、事件が起きているようだ。
「落ち着いてくれ! 注文されていた二十人分は、すべて用意してある! こんな状態では、渡す事なんかできんぞ?」
オレは、荷馬車の御者台の上に立って、押し寄せる客に向かって、大声で叫んだ。
「もしや、あなたが、聖騎士のクラウス殿か!」
「そうだが……オレに何か用でもあるのか?」
なにせ、『聖騎士の鍛えたる剣』を売りにしているので、隠し通すのも無理があるだろう。だが、名前まで知られているというのは、想定外であった。
「あなたが、『聖剣』を打てるとのうわさを聞いたが、それは本当なのですか?」
先ほどの客が血相を変えて、問いかけて来た。
「ああ……まだ未熟だがな……。だが、聖騎士でもないのに、聖剣を持ったところで、たいした効果は……」
「耐久値制限のない聖剣なら、金貨五千枚でも出すぞぉっ!」
「いや、わたしに売ってくれ! わたしの主人が求めているんだ!」
ようやく鎮まって来ていたのに、再び皆が熱気を帯びた視線で、回りを取り囲んでしまう。
聖剣の事についても知られているようだが、どこから漏れたのか、見当もつかない。
「ねえ、アレを売っちゃいなさいよ。一本だけ残っているでしょ」
何か考えがあるのか、アデールがオレの耳元で、そんな事をささやいた。
「聖騎士のスキルで使用する触媒として使うと、一度しか持たない代物だが、いま一本だけ『聖剣』がある」
オレは、荷馬車の隅で邪魔者扱いされていた、レベル一の技能で作った聖剣を取り出した。
「売ってくれぇ! 悪魔相手になら、聖騎士じゃなくても、補正効果がすごいんだ!」
エウロパ街道で出会ったレッサーデーモンの出現率でも上がったのだろうか?
「もっとも高い値をつけた者に譲ると言いたいところだが、オレは聖騎士なので、そういうわけにもいかん……。ラミールの教会に、金貨十枚を寄付する約束をする者がいれば、これを銀貨一千枚で売り渡そう! 早い者勝ちだ!」
安売りするわけにもいかないが、利益を懐に入れすぎても、ラミールの教会に介入されるかもしれないし、オレが聖剣を作る事ができる事のアピールにもなるだろう。
「わたしが買わせてもらうよ! クラウス君――」
さすがに金貨十枚……すなわち銀貨十万枚を、レベル一の聖剣に払うのは気が進まないのか、皆が押し黙った瞬間に、セラエノ公が現れて、手を上げてしまう。
「わかりました。後ほど、屋敷に届けますので、ここでは失礼させていただきます!」
「すまないが、聖剣に関しては、今後わたしが窓口にならせてもらうよ。国家的な危機ゆえに、それに対処しうる人材にのみ、聖剣を渡したいのでな――。では、失礼するよ」
「注文をされた方を一人づつ呼びます! フランベルジュを予約された、ミゲール様! いらっしゃいましたら、代金を持ってここまで来てください!」
セラエノ公が去った事で、一瞬の空白の時間が生じ、アデールがすかさず声をかけて、商売を再開してしまう。
「ふぅ……。まさか、二十人全員が取りに来るとはなぁ」
「そうね。モレイト村を出発する時に、クリスタルでロロットに指示を出しておいたんだけど、あそこまでとは……」
「いや、まったく……またたく間でしたな」
「じゃあ、配達には行かなくていいんスね?」
ようやく大量の客がはけたので、オレたちは店の一階で、お茶を飲んでいた。
「けど、セラエノ公も抜け目がないわねぇ……。サラっと、聖剣の販売の権利をさらっていっちゃったわよ」
アデールも道中で聖剣をいかに売るかの目算を立てていたようなのだが、計算が崩れたのだろう。
「だが、あのままでは、収拾がつかなかったのも事実だしな」
すでに、セラエノ公が聖剣を扱う事を、公言してしまったので、今さら自分たちで売るなどという事をすれば、公の顔をつぶしてしまう事になる。
「そういえば、客が悪魔がどうこう言っていたようだが、最近は多いのか?」
「はい……。クラウスさん。東の部族連合の土地の奥の秘境から、大量の悪魔が侵攻をしていて、闇の領土を増やしているんです」
唯一事情を知るらしい、ロロットが会話に参加してくれた。
「そういえば、エウロパ街道にもデーモンが出たが、出る確率は、相当低いはずだよな」
「そうよ。グレーターデーモンが、レッサーの呼び出しで出るなんて、これまでは聞いた事がなかったわよ! 本当に、怖かったんだから……」
「グレーターデーモンって、そんなに強いんスか? アニキが二回殴ったら、死んだっスよね?」
「それは……。神雷剣の二の太刀ってのは、まさに悪魔を倒すための技だった上に、あんなナリでも、聖剣だったからな」
「もしや、古代竜が活発化したというのと、なにかで連動しているのでしょうか……」
イレーネも珍しく議論に参加して来た。領主になった事で、心構えができて来たのかもな。
「さて……。一服した事だし、セラエノ公爵のところに顔を出さなくっちゃね」
「あの……。拙者も同行した方がいいでしょうか?」
「そうだな。どんな話があるか分からんし、その方がいいだろう。悪いがエミルはロロットの手伝いをしていてくれ」
「わかったっふよ、アニキ!」
エミルは、ロロットが差し出したクッキーをほおばりながら、オレに返事をした。
「むう……。みんながあれだけ、オレの剣を求めているという事は、相当ひどい状況なんだろうな……」
「そうかもね……古代竜の件もあるのに、頭が痛いわね」
「悪魔が大量にいたのでは、交易もできませんゆえ……」
オレは、アデールとイレーネをともなって、セラエノ公の私邸に向かって歩いていた。
「その悪魔を押し返さないと、そもそも古代竜の場所まで行けないかもしれないしな……」
「そうかもしれないわね……。聖剣を作るのと、加勢するのと、どちらを公爵が優先するかだと思うけど……」
「拙者も考えてみたのですが……カデストに鉱石に取りに行くのは、公爵に任せて……モレイト村に着くまでは、加勢をした方が良いのではないかと」
これまで策を口にする事がなかったイレーネが、珍しく考えをまとめて口にした。
「まぁ、聖騎士としては、それが筋ではあるが……。セラエノ公に、聖剣の秘密を全部知られるのは避けたいところだな」
「えっと、この間……たる二つぶん持っていったアレは、まだ残ってるの?」
「ああ……メイスに使った分だけだから、ほぼ残っているが」
「なら、延べ棒だけ持って来てもらったら? それぐらいの指示はクリスタルでもできるし」
「そうだな……。まぁ、セラエノ公がそこまで関与するかどうかではあるがな……」
目指すセラエノ公爵の屋敷が見えたころ、何とか事前の相談を、終わらせる事ができた。
ようやく……インターミッション編の終わりです。
ここで、方針転換を強いられているのは、
本文を読んでもらえればわかるかと思います。
さらっと三ヶ月間を飛ばして、最終決戦に行くつもりだったんですが、
最初出す予定のなかったデーモンをだしたせいか、アイデアが出て来て、
それまでの間も奮闘してもらう事にしました。
エミルについても、まだ踏み込んだエピソードがないですしね。
なので、年内に最初の区切りがつくかどうかは未知数になりました。




