第二十八話 インターミッション Hパート
なんだかんだで、この章も長く続きましたね。
この時点で、十一万字強ですよ。
最後の章でどれだけ使うやら。
まぁ、趣味なんだし、あまり気にしすぎない事にしますw
◇◆◇ エミル視点です ◇◆◇
「いったい、何事が起きていると言うのだ……若君――」
「ねえ、おじさん……。助けに行った方がいいんじゃないの?」
ボクは、無害な子どもをよそおって、石弓使いのおじさんに、声をかけたっス。
「しゃべるんじゃない! おとなしくしているんだ!」
レックスって人から、毒を塗った短剣を預かっているから、ボクの首筋に近づけてるっスけど、せいぜいダメージを与え続ける毒でしかないっすよね……ポーションさえあれば。
(アニキはどうしてるんスかねぇ……何も考えずに、ボクたちを、レックスって人に同行させたとは、思いにくいんスよね。だとしたら、時間を稼ぐ事が必要かも)
「おいおい……。毒を塗った短剣で、子どもを誘拐か? 合わせ技で、即座に逮捕命令が出たんだが」
やはり来てくれたっス……。ボクは目尻から涙を流してしまいそうになるっスけど、ここからが肝心なんス。
「おいっ! この短剣が見えないのか? 逆らえば殺すぞ!」
「似たような事を言った、女暗殺者はすでに拘置所に送ってやったんだがな……」
「な、なにぃっ!」
怒りに我を忘れたのか、石弓使いのおじさんは、ボクの首筋から、短剣を放したっス!
「せいっ! てやぁっ!」
「うぐっ! ぐわぁっ!」
ボクはまず、武術の要領で足を深く踏み込んで、おじさんの足の指を折り、ひるんだ瞬間に腕のガードが下がったので、ひじでみぞおちを突き、二三発ぶち当てて、その勢いで脱出したっス。
「へへっ……。もう、大丈夫っスよ? アニキ……」
「よくやった。さて、拘置所でお仲間が待っているぜ!」
「貴様ぁー!」
いくら石弓じゃ対人ダメージにならないとは言っても、短剣を振りかぶったところで……。
「ぐぇっ!」
アニキは武器も使わずに地面に押さえつけて、後頭部に打撃を与えて、失神させたっス!
「どうなっているか分かるか? エミル」
「アデールさんが、レックスたちを逆上させて、制限地域に引き込んだんスけど、強い魔物が出たみたいで騒いでるっス」
「そうか……じゃあ、行くか?」
「ハイっス! アニキ――」
ボクはある物を拾ってから、アニキといっしょに、制限地域に向けて走り出したっス。
◇◆◇ アデール視点です ◇◆◇
「あの……アデール殿。いったい、どうなっているのです? まだ、顔を上げてはいけませんか?」
「ええ……。目を閉じたままの方がいいわね」
わたしの眼前では、三体のレッサーデーモンと、一体のグレーターデーモンが、レックスのパーティーを、いままさに壊滅させようとしているところなのよね。
(あと、三分ぐらいしか持たないわね……。あいつがあとから来てくれるのなら、待ち続けてもいいけれど……)
救援を待ち続けるのなら、デスペナルティーを考える必要はないけれど、エウロパとの街道が封鎖されたいま、アイツぐらいしか、ここに来る可能性のある冒険者はいないのよね。
「うわぁ……。だっ、誰か……助けてくれぇっ!」
レックスはまひ状態で、ろくに身動きもできない状態のようね。そのおかげで最も脅威度が低いと思われて、生き残っているんだろうけど……。
「ぐわぁぁっ!」
ついに最後まで残っていたひげの剣士にターゲットが移り、四方から殺到した魔物のツメで切り裂かれて、絶命していた。
(これ、レックスを殺したあとは、どうなるのかしらね……)
「ひぃぃっ……やっ、やめろぉっ!」
「プシュル……クェス……」
レッサーデーモンを従えたグレーターデーモンが、倒れている、レックスの前で、右腕を突き出して、血に濡れたツメの先に光球を生じさせようとしていた。
「だっ……。誰か、助けろぉっ! おれはこんなところで死ぬような男じゃあないんだからなぁっ……」
「メイルゥ……トワルゾゥ……」
レックスが命ごいのような物をしている間に、グレーターデーモンのツメの先の光玉は、人間の頭より大きくなってしまってるんだけど……。
「せいやぁっ! 神雷剣! 二の太刀」
「グケェェッ……ラ※ムォンゾ……」
いままさに、腕を振り下ろそうとした瞬間、アイツが駆けて来て、奇妙な武器をグレーターデーモンの側頭部に振り下ろして、横転させるほどのダメージを与えたんだけど……。
「ふん……。レックスとその仲間を成敗するはずの、聖剣だったんだがな……これが、本来の使い方ではあるよな。ていっ!」
クラウスは、にび色に光る片手持ちの柄のついた鉄球のようなものの先端から、聖光をまき散らしながら、倒れているグレーターデーモンの頭部にたたきおろして、絶命させちゃったんだけど、強すぎない?
(って、もう一分も残ってないじゃない!)
『結界の術』の効果が切れてしまっては、武器もなしではレッサーデーモンに蹂躙されてしまうわよ!
「アデールさん! イレーネさん! 武器を持って来たっス!」
その時、川のそばを走って来ていたらしいエミルが、わたしたちの前に姿を現してくれたのよ!
「イレーネ、もう顔を上げていいわよ? エミルが、ホラ!」
「おおっ! これは、感謝致す!」
イレーネはエミルから長弓と矢筒を受け取り、笑みを浮かべて、矢をつがえていた。
「エミル……。あんたは、無理しなくていいからね?」
わたしも、小剣を受け取り、心の中では、クラウスへのヒールの準備を整えていた。
「くぅっ……。二の太刀は、もう効果が切れたのか……。ならば、神雷剣! 三の太刀」
クラウスは奇妙な武器から稲光を生じさせながら、残るレッサーデーモンに殴りかかった。
「グゲルュ……グワザァ……」
クラウスが首筋に武器をたたきつけると、全身に電流が流れたのか、レッサーデーモンは動きを一瞬止めてしまう。
「たぁっ! せいっ!」
「グゥルギュワァ……」
そのすきを逃さずにイレーネが発した矢が、レッサーデーモンの頭部に次々と突き刺さり、絶命した。
「ナイスだ、イレーネ! エミルは二人を守っていろ!」
まだ効果時間が残っているのか、クラウスは残る二体のレッサーデーモンに向かって駆けだしていった……。
「まったく……来るなら、もっと早く来ればいいのよ……」
口ではそんな憎まれ口をきいても……ダメね。心がアイツを求めているのがわかるもの――。
◇◆◇ クラウス視点です ◇◆◇
「さすが、アニキっス! お二人もナイスだったっスね」
ようやく残るレッサーデーモンを一掃すると、エミルが笑みを浮かべて、駆け寄って来た。
「ああ……大丈夫みたいだな……。遅くなってすまんな」
「ほんとよ……。レックスに同行させたんだから、あとをついて来てると思ってたのに」
アデールも相当ヤバい状態だったようだが、早速いつもの調子で、オレを責め立て始めた。
「ご主君……。その武器はいったい、何なのです?」
長弓を手にしたイレーネが近づいて来て、問いかけた。
「これか……『聖剣』だよ。ちょっとやそっとでは壊れない耐久性と、聖気を電導させる、触媒としての力を強めると、こういう形になってしまったんだよな」
あの大男を、これでブン殴って失神させた時には、スカっとしたもんだ。
「さて……レックスはまだ生き残っているようだが……。残りのメンバーを復活させる前にする事があるよな」
「くっ……好きにすれば、いいだろう……」
レックスはまひ状態なのか、地面に寝転がったまま、不敵な笑みを浮かべた。
「おまえさんの妹の、女暗殺者もとうに拘置所に行ったし、大男も同じだ。毒の短剣でエミルを捕まえていた男も同様だ……」
「くっ……足止めすらもできなかったのか……」
この反応を見るに、あの女暗殺者が忠誠をささげる対象だとは、思えないな。
「同じパーティーのメンバーが逮捕されているんだし、どうせ事情聴取が行われると思うんだが、どうするね……」
「好きにしろと言っている……」
「おまえさんが、すべての悪事を騎士のクリスタルと領主のクリスタルの前でざんげするなら、倒れている連中を手当してやるが、どうするね?」
これでパーティーすらも見捨てるぐらいなら、オレはここでやつを置き去りにしても、胸は痛まないだろう。
「くっ……わかった……。こいつらを助けてやってくれ」
ついに観念したのか、レックスは力なく、そう宣言した。
「さて……片付いた事だし、モレイト村に帰るか。なにせ、オーダーにはまだ手をつけてないからな」
そのあと、レックスを自白させ、仲間ともども拘置所に送る事で、オレは胸のつかえを下ろす事ができた。
「えぇっ? じゃあ、その不格好な『聖剣』しかつくってないの?」
「ああ……。神雷剣の三の太刀っていうのは、非致死性の電撃を浴びせる術でな……レックスたちを無力化するのに必要だと思ったんだが……長剣か、聖剣扱いの小剣でも何とかなったのかもな……」
「まぁいいわ。何の考えもなく、わたしたちを送り出したワケじゃあなかったんだしね……」
「そうですね……というか、ご主君……いろいろと、傷を負っているではありませんか? きっと大変な思いをされたんでしょう」
「ツバでもつけておけばいいのよ! ほら、さっさと安全地帯まで移動しましょ」
「ああ……そういえば、馬車用に買い足した農耕馬なんだがな……」
「あれに乗って来たの? で、どこに留めてるのよ?」
「すまん。暗殺者に矢で殺されていた……」
「えぇっ? 暗殺者って……大丈夫だったんスか? アニキぃ……」
エミルは心配して、目尻から涙をこぼしてくれた。
「はぁっ? 農耕馬とは言っても、お安くなかったんだからね?」
「す、すまん……その分はオレの手取り分から払うから……許してくれよ」
反面、アデールは火のついたように、怒りをあらわにしたんだが……なぜかオレは妙な安心感に包まれていた。
「ふぅ……。成功したぞ……。これでオーダー分は終了だよな?」
安全地帯まで戻って眠りについたのはいいが、翌日の昼過ぎまで、さまざまな後遺症が出たため、モレイト村に帰り着くのは、翌々日になってしまっていた。
「そう……みたいですね。お疲れさまでした」
この鉱石を使って武器を作るのは、かなり高度な技が必要となる上に、オレの鍛冶師スキルを上げるために、ごく一部のむずかしい部分以外はオレが手がける事になってしまっていた。
そのせいで、二十ものオーダーを仕上げるのに、十日もかけてしまっていた。
「どれ……鍛冶師スキルが七に、聖剣製作が四か。こっちはなかなか、上がらないもんなんだなぁ……」
何度か失敗してしまったので、鉱石の方は追加を取りに行かないと、古代竜を倒すための聖剣を作る事ができないだろう。
「そう……。延べ棒が残ってないんじゃあ、ここに残っていても、仕方ないわよね。じゃあセラエノまで行きましょ……ケラエノ子爵の件もあるでしょうし」
翌日、エミルを鍛えるための旅から戻ってきたアデールに、経緯を説明すると、あっさりしすぎなぐらいに、現状を受け入れてくれた。
「そういえば、領主会議も近いんだよな……。なら、次にカデストに行くのは、少し先になってしまうが、仕方ないな」
「そうね……。今回は荒れそうだし……まぁ、武器の配達と集金とかで、仕事なら山ほど用意してあげられるけどね」
「うげぇ……そこまでやらせるのかよ」
「じゃあ何かしら? 細腕の女ふたりか、エミルにでもやらせるつもりだったの?」
「わかったよ。じゃあ、出発の準備をするさ」
「ちょっと待って……。気になる事があるんだけど」
「もしかして、レックスにオレたちの情報が、流れるのが早すぎた件か?」
「そうなのよ……。考えたくはないんだけど、セラエノ公のルートからとしか、考えられないのよ」
「ふむ……。情報を全部流すのも考え物という事か――」
「エミルの事は知らなかったようなんだけど、エミルは公爵邸の中に入っていないし、わたしたちも説明しなかったわよね?」
「そういえば、そうだな……。頭が痛い事だな」
オレは話は終わったものと思い、その場を立ち去ろうとしたんだが……。
「ちょっと待ちなさいよ……」
アデールに腕をつかまれてしまう……。
「ん? どうかしたか?」
「何か忘れている事があるでしょう? 向こうに帰ったら……その、ロロットも部屋にいるし」
アデールはほおを真っ赤に染めて、もじもじとオレに、ある事を要求し始めた。
「あぁ……そうだったな。だが、いまのオレは汚いぞ?」
「別にいいわよ、そんなの……ほら、場所なら確保してるから」
「おいおい……わかったから、そんなに引っぱるなって」
オレは、アデールが愛人盟約を口実にして、甘えてくれている事を感じ取り、ほおを緩めてしまった。
ようやく戦闘パートは終了です。
もう一パートやって、ようやくこの章も終わりです。




