第二十七話 インターミッション Gパート
作者にも予想外の展開で、長く続いてしまっています。
本日は、午後六時にもう一話公開します。
※ちょっと原稿がたまり気味でして(笑)
◇◆◇ アデール視点です ◇◆◇
「さあ! キリキリ歩け! このガキの命が惜しいのならな!」
「くっ……領主としての誇りはないのかしら」
なかば予想されていた事とはいえ、レックスの本性と、どぎつい悪意を突きつけられて、わたしとイレーネは圧倒されていた。
「いまは従うしかないでしょう、アデール殿。ですが、エミルだけでは……」
連中は制限地域の外にいて、わたしたちはすでに数十歩も踏み入れてしまっている。いつ、魔物が現れて襲ってきても、不思議ではない状態なのよね。
「準騎士では逮捕権がないのが無念です」
まだ領主会議を経ていないので、レックスもイレーネも、いまだクリスタルを持っていない。それ故に悪行に走る事にしたにしても、あまりにも軽率すぎる。
「おい、魔物を呼び寄せるような方法はないのか?」
「安全圏にいたままでは無理でしょうな、若君」
なんとか声が聞き取れる距離なので、レックスと石弓使いの男の会話が耳に入って来た。
「冗談じゃないわよねぇ。『ストレージ』に、何か武器を隠していたりしていないの?」
「いえ……。そういうアデール殿も……ですか?」
『ストレージ』は一時的に装備を格納できるものの、自身が装備できる重量が限界だし、動きが鈍るので、あまり使わないのよね。まぁ、短剣を忍び持っていたとしても、たいした事ができるわけでもないんだけれど。
「ちっ……早く早く死ねばいいのに。そうしたら、この弓も高値で売れるだろうに」
足元に落としたとはいえ、長期間放置したりしない以上、所有権はわたしたちにある。そんな物まで欲しているという事は、そこまで金銭的に追い詰められて。
「そうか……そうだったのね?」
わたしは、ようやく連中の意図を知る事ができた。エウロパの政策転換により、ケラエノは存在意義を失ってしまった。それ故に、カデストの鉱石を狙っているのだろう。
「時間を稼ぐ必要があると思うの……。情報も引き出したいし、協力してくれるかしら?」
「はぁ。どのような事でしょうか?」
わたしは小声で、イレーネに話しかけた。
「そのような事を? 危険ではありませんか?」
「あいつの事だから、追って来てると思うの。少しでも時間を稼がないと」
耳元でささやいた言葉に、イレーネは驚いているようだ。
「ねえ……こんなところで死にたくないの! 鉱山の権利なら譲るから、見逃してもらえないかしら」
イレーネとの打ち合わせもすみ、わたしは振り返って大声を上げた。
「はぁっ? 鉱山の権利のない、カデストの領主の権利なんざ、犬も食わないだろうがっ! 何を考えている!」
「その鉱山の権利が……。こんな悪行を犯してでも、欲しかったんでしょう? レックス!」
「くっ……だからどうしたと言うのです! もし譲渡を受けたとしても、あなたがセラエノ公に訴え出れば、クリスタルで証明されてしまうではないですか!」
レックス殿は腹黒い一面を持っているようだけど、まだまだ若いわね。あっさりと情報を漏らしてくれるなんて――。
「わたしたちのおなかには、クラウスの子どもがいるの! ここで、転生をするハメになるぐらいなら、イクサス王国にでも逃げる事を選ぶわ!」
わたしの言葉に、打ち合わせ通りイレーネもうなずいて同意をする。
「で、自分にどうしろと言うのですか?」
「武器を返してちょうだい……そうすれば、制限地域を抜けられる可能性も少しは出て来るわ!」
「若君……。武器を返したとしても、こちらに攻撃できるわけでもありませんし、人質さえ取っておけば、セラエノ公のところに行かれる心配もないのでは?」
石弓使いの人は密偵か、汚れ役を務めていたようで、レックスに助言をしていた。
「ふむ……。だが、そんな不安要素を残しておくわけにはいかん。どうしてもと言うのなら、鉱山の権利を譲渡後に、このガキをその手で殺してもらおう。ならば、領主ではいられなくなるはずだし、カデストを領有する名聞も立つ」
レックスのその言葉に、わたしは腹の底から煮えくり返るほどの、怒りを感じた。
「そんな事はできないわ……。あなたなら知ってるわよね? 一度設定した徴税率や関税は、月に一度しか変更できないって事を……クリスタルで鉱石の税率を九十パーセントまで、引き上げてあげましょうか?」
「なっ……なにぃ!」
「悪党に渡すぐらいなら、少しでも嫌がらせをしてやるわ! イレーネはしんがりをお願い!」
わたしは、クリスタルを取り出して、操作をするフリをしながら、制限地域の奥へと書けだした。
「はっ! わかりました、アデール殿!」
実はこれこそが、打ち合わせの内容なのよね。
「あっはっは! こんな事をしたら、掘りに来てる冒険者は、みな帰るでしょうね!」
「なっ、追え! 数分後に確認が入るはずだから、それまでに、捕まえろ!」
バカなやつらね。制限地域にまで踏み込んで来ても、わたしに直接的な攻撃なんてできないはずなのに。
「わ、若君! お待ちくだされ! どのようなわなが!」
石弓使いの男は、エミルを捕まえているせいか、その場を動けないようね。あとのバカだけなら何とか……。
「いい? 魔物が現れたら、わたしに近づくのよ? それまでは、追いつかれない程度に逃げればいいの!」
わたしには、ひとつだけ秘策があった……。だけど、使えるタイミングは、ほんの一瞬だし、永続的な効果が望めるわけでもない。だけど、あいつが……。聖騎士クラウスが、わたしたちの危機に、気づかないわけがないもの。
わたしたちにいまできる事は、最後まであきらめずに抵抗する事だけよ――。
「どこまで逃げる気なんだ! 早く捕まえられないのか!」
いつまでも逃げるつもりもないんだけれど、うまくいくかどうかは運次第なのよね。
「ふっ……手こずらせてくれる……。こうなったら、ただでは済まさないぞ……ガキの命が惜しければ……」
二十分も走っただろうか……わたしたちはついに、レックスとその仲間に半包囲されていた。
「イレーネ! わたしのそばへ来て、目をつぶって動かないで!」
「は、はい!」
イレーネはわたしの指示にしたがって、すぐそばに来て、頭を抱えてうずくまった。
「なんだ? もう、逃げるのをあきらめたのですか?」
「レックス殿! 背後から魔物がぁっ!」
剣士の一人が引きつった声を上げて、レックスに報告をした。
「神よ……我らを守りたまえ……」
わたしは片ひざをついて、神に祈りをささげて、先日習ったばかりの『結界の術』を展開した。
「なっ、なにぃ? 闇の眷属……。レッサーデーモンが二体も? む、迎え撃てぇ!」
夜間の行軍を禁じるためか、深夜になると、強力な魔物が出現するようになるんだけれど、想定していた以上に強烈なのが出現したみたいね……。
「くっ……うわぁぁっ!」
運悪く、魔物二体にターゲットにされた神官は、またたく間に鋭利なツメで引き裂かれて、絶命した。
(わたしたちは大丈夫……心を乱さないで)
羊の頭と巨大な二つのツノを持ち、背中にはコウモリのような巨大な翼をたわませて、しなる尾は粘液で黒光りをしている……まさしく悪夢に出て来るような、悪魔の眷属だ。
「まず、右のからやるぞ! 魔術師は左の個体に足止めの魔法をかけろ!」
石弓使いは制限地域の外でエミルを拘束しているし、神官は倒れている。レックスに残された戦力は剣士二人と魔術師だけね。お手並み拝見といきたいんだけれど、一体は倒しておいてくれないと、わたしたちも危険になるのよね。
「ヌルグゥフゥッ――」
乱ぐい歯のすき間から、湯気を立てて歩き出した、左側のレッサーデーモンは足元の土が粘土のようにまとわりついて硬化する事で、足止めされているようだった。
「ひるむな、行くぞぉっ!」
「てぇいっ!」
「せやぁっ!」
レックスと二人の剣士は、それぞれ長剣を手に、右側の魔物に同時に切りかかり、ターゲットにされた人間は背後に下がる事で、残る二人に攻撃の機会を与えていた。
「ようやく倒せたか……。みな、大丈夫か?」
十分ほども戦闘をしていただろうか……。魔術師は左の個体の足止めに集中しているので、戦闘に参加する事もなかった。
ようやく、レッサーデーモンの一体は地に伏して、闇に溶けるかのように消滅した。
「よし、残る一体に集中攻撃をかけろ! 一気に倒すぞ!」
レックスを含め、剣士二人は体力を半減させていたけれど、回復は神官任せでポーションを持っていなかったのか、体力を回復させようとはしていなかった。
「ルゥフェッスゥワンヌゥッ!」
いままさに切りかかろうとした瞬間に、魔物は天を仰いで、奇っ怪な叫び声を上げた。
「すぐに、断末魔の叫びに変えてやる! そらっ!」
レックスも聖騎士候補らしく、素人のわたしでもわかる、見事な太刀筋で、レッサーデーモンの首筋に部位攻撃をしかけた。
「おおっ! お見事!」
レックスの長剣は魔物の首筋を切り裂いて、緑色の粘液があたりに飛び散った。
「プシュヒュルグェ!」
だが、人間のように頸動脈が走っているわけでもないようで、絶命する事もなく、怒りを込めた前けりをレックスに放っていた。
「うぐわぁっ! くっ……ちょこざいな……一気にたたみかけろ」
レックスは体力の過半を失い、まひ攻撃を受けた事で、すぐには起き上がる事ができないようだった。
「ん? なんだ、この影は……ぬぁっ!」
レックスの背後で闇が濃くなり、闇のなかから二体の、レッサーデーモンと、信じがたい事だけど、一体のグレーターデーモンが姿を現したのよ。
「くっ……早くこの個体を倒さねば!」
剣士二人は体力がわずかしか残っていないのにもかかわらず、足止めをしている個体への、スキルを使用した集中攻撃をかけていた。
「グルァァァ!」
「ぐあっ……ぎゃあぁー」
だが、闇の中を泳ぐようにして接近した魔物に、背後から頭をつかまれてしまっていた。
「まだ、目をつぶっていた方がいいんですか?」
「これ……どう考えても、わたしたちも無事じゃすまないわよね」
わたしは背中に冷や汗をかいてしまっていた。
最終章(一冊相当分の)はアルファベットじゃなくて、数字にした方がいいかも(汗
以前、ネット小説で、Zぎりぎりまでかかった事があるので(笑)




