第二十六話 インターミッション Fパート
本日二回目の公開になります。
「はぁ……はぁ……くっ……」
ようやくゴブリンシャーマンと、残るゴブリンを倒したが、目の前が真っ暗になって転倒してしまう。
「はぁ……はぁ……」
オレは街道に横たわったまま、左腰に下げていた水袋を取り出したが、三分の一も残っていないようだ。
「くっ……。さっき飲んだ時か」
すぐ横に川が流れているからと、水の補給を怠ってしまったのだ。
「せめて左目だけでも」
オレは体を横にして、手のひらのくぼみに水を注ぎ、左目から洗おうとした。
「くっ……部位損傷か」
だが、右手はひじの上のところで裂傷ができており、いまも血が腕を伝っており、満足に動かす事もできなかった。
「仕方ない……」
オレは左手で苦労しながら、右目に水を注いで洗った。
「なん……だと?」
馬のところまで戻ると、首筋に毒矢を受けて力なく倒れていた。
「くっ……歩かないといけないのか……ポーションは……ふぅ」
オレは、部位損傷の回復効果もある、高価なポーションが割れずに袋に残っているのを見て、安堵した。
「んっ……んくっ……ふぅ……」
飲んだからといって、即座に治るわけではない。
「あの丘から狙撃されたのか?」
オレは、狙撃地点から死角になる場所に移動して、一息ついた。
「この手口は……あの時の暗殺者か?」
かなりの長距離を、一本の矢だけで馬を射殺しており、その腕前はイレーネに匹敵するかもしれない。
「そうだとしたら……困った事になったな」
疲労のピークが来たら、二・三時間眠るつもりだったのだが、寝ている間に毒矢でも撃ち込まれたら、死につながりかねない。
「くっ……頭も痛いが、眠い」
時間は昼を大きく回り、非常食をかじりながらも、オレは街道を歩いていた。
「なかなか仕掛けて来ないが」
丘の向こうに暗殺者の気配は感じるので、最も効果的な瞬間を狙っているのかもしれない。
「おいおい……。レックスのだんなの言う通り、追いかけて来たってかい」
一時間ほど街道を歩き二度の戦闘をこなしたころ、街道が狭まっているところに、例の大男が姿を現した。
「半ば想像できてたとはいえ、こうなるとレックスの裏切りは確定と言うわけだな」
「おやおや。余裕がおありのようだが、実際はブッ倒れる寸前だって事は知ってるんだぜ?」
だが、人間相手の直接攻撃はできない。一度何らかのアクションを避けてしまえば、横をすり抜ける事も……。
「油断しない方がいい。狙撃をするスキを一度も与えなかった――」
背後の斜面を、長弓を背負い両手にジャマダハルと呼ばれている、暗殺者御用達の短剣を装備した女性が駆け下りて来て言った。
「くっ……。そうして、道をふさぐ気か。暗殺者ともあろう者が、やけに消極的だな」
オレはあえて挑発する事にしたが、何の準備もなく待ち伏せをしているとも思えなかった。
「へっ……。そんな減らず口をきいていられるのもいまのうちだ。なんせ、姉御は最強の……ぐっ!」
「敵に情報を与えるな……。邪魔をするのなら、貴様もいっしょに始末するぞ?」
背後にいた暗殺者の女は、大男の足を後ろからけって、言葉をさえぎった。
「レックスは、負の遺産も受け継いだって事か? 聖騎士になるつもりで、ここまでやるとはな」
「兄に手を汚させないために、わたしが存在する……。こういう事態になったのも、貴様が上の兄と父をわなにはめたからだ」
どうやらレックスの妹らしいが、領主の娘に暗殺者をやらせるというのがふに落ちなかった。
「はめただなんて人聞きが悪いな。止めるのも聞かずに人の荷物を持っていったんだ。領主不適格とされて当然だろう」
オレは会話しながらも、次にどのような攻撃をしかけて来るのかを、考え続けていた。明確な犯罪行為を視認したわけでもないので、騎士のクリスタルを出しても意味はない。
「何をしても無駄な事だ。ラミールの教会は金で何とかできたのかもしれんが、オルドヴァの大教会の監視の目からは逃れられん。オレを始末できたところで、レックスが聖騎士になるなんてのは、夢物語にすぎん」
聖騎士と聖騎士見習いは、水晶玉で監視されているという、うわさがあったので、膨らませてみる事にした。
「おまえは腕はいいかもしれんが、てんでバカだなぁ」
「なにっ?」
「もうそんな事を、言っていられるような状態じゃないんだよ! エウロパ街道を通って商人がこなけりゃ、ケラエノは陸の孤島になっちまうんだからよ」
たしかに、セラエノまでなら東からの交易も続けられるかもしれないが、海峡まで封鎖されたとあっては、補給港としての価値も、ほぼなくなったのだろう。
「そうか。狙いはオレじゃなくて、カデストの領主としての、アデールの命か!」
もし、アデールが制限地域で倒れてしまい、転生せざるを得ないような時には、カデストの領有権は宙に浮いてしまう。食指を伸ばしていたのは、モレイト村だけではなかったのだ。
皮肉な事に、オレが『名前付き』を倒したばかりに……。それに、鉄鉱石が入って来ないいまとなっては、、カデストの価値は上がる一方だ。
「…………」
暗殺者は毒を使った攻撃でもするのかと思ったが、押し黙ったままだ。オレの盾の能力を盗み見ているので、ためらっているのかもしれないな。毒を塗った武器で二度三度と攻撃をしようとすれば、騎士のクリスタルで通報できるからな。
「どうした……かかって来ないのか?」
横の川に飛び込む事も考えたが、この二人を残しておけば、いずれレックスと合流されてしまう事を考えると、排除しておく必要性を感じた。
「姉御……どうしやす?」
「ふっ……毒を塗った武器で一撃を与える自信がないんだな」
オレは、個人が展開できる『ストレージ』に、自らの武器や防具のすべてを格納した。
「なっ! 何を考えていやがるんだ! 貴様!」
「くっ……。このような屈辱を受けるとは――」
下着姿になったオレを見て、二人とも激高しているようだ。
「ほら、事前に毒は用意してるんだろう? 一度の攻撃なら通報できないが、それで当てられずに攻撃を続けるのなら、拘置所に行ってもらう事になるぜ」
オレは、首からさげている、騎士のクリスタルを指さした。
「姉御……やつは盾でパリィができない。二人同時でかかれば、勝ち目はじゅうぶん」
「ダメ……それだけでは足りない……せいっ!」
次の瞬間、オレの目の前で煙玉のような物がさく裂し、煙に包まれてしまう。
「ふっ……予想したのと同じ攻撃だな!」
オレは暗殺者の腕が懐に伸びた瞬間から、心構えて目を閉じていたので、目にダメージをくらう事もなく、バックステップを重ねて、煙の範囲から脱出した。あのままではクリスタルが悪行を記録できないからな。
「ぐっ……これは!」
煙から離れて安全圏に来たというのに、オレの体に違和感を感じてしまう。
「よけたのは偉いが、生傷があるのに、裸で毒煙を受けたら、そうなるわなぁ。さすが、姉御」
「しびれ自体はそう長くは続かないわ。行くわよ!」
「おいさ! 姉御!」
女暗殺者は両手の暗殺用の短剣。大男は両手持ちの曲刀を手に、オレに襲いかかって来た。
「くっ……。はぁっ!」
ほぼ治っているとはいえ、もっとも深い傷を負った右腕のしびれは最も大きく、オレははずみをつけて、側転する事で、大男の横殴りの斬撃をかわした。
「てめぇっ! 死ねやぁっ!」
最初の攻撃をかわされた大男は頭に血が上ったのか、曲刀を構えて突進して来た。
「くっ……せやっ!」
オレは、大男が曲刀を振りかぶろうとした瞬間、右足の向こうずねをけり、その勢いでバックステップをしてかわした。
「ふっ……おまえさんには、逮捕命令が下りたぜ。毒を塗った剣で二度も攻撃をすれば、殺人未遂に問われて当然だよな」
「逮捕されなければいいだけの事だ! ひるまずに攻撃を続けろ」
女暗殺者は必殺の一撃を与えるための、すきを大男に作らせる心づもりのようだが……。
「わ、わかってらぁ! そりゃぁっ!」
大男は大ぶりでは、オレに当てられないとふんだのか、フェイントをいり混ぜた攻撃を繰り出し始めた。
「ふっ……ゴブリンでもリーダーがいれば強くなるからな。おまえさんだけなら、すぐに地にはわせてやれるのによ!」
オレは動きを読む事で、何とか大男の攻撃をよける事ができていた。
「なんっ……だとぉ! 死ねやぁっ!」
大男は意外にも、曲刀の腕は立つようで、高度なコンボ技で、オレを川のそばまで追い詰めようとしていた。
「覚悟ぉっ!」
オレが大男の三度目の攻撃をよけたさいに、足を滑らせてしまった瞬間、控えていた女暗殺者が、両手の暗殺用の剣を広げて、飛び込んで来るのが見えた。
「くぅっ!」
ふだんなら、盾でパリィすれば押し返す事ができるが、それでも両手で間断なく攻撃され、かすりでもしたら毒を受けてしまう事を考えると、この攻撃をかわしきる余裕はなかった。致死性のある毒は使えないはずだから、まひ毒の強力な……。
「てやぁっ!」
「なにぃっ!」
オレは暗殺者の繰り出した必死の一撃を、手のひらに刺さるような角度で受けて、動きを止めた次の瞬間、胸のクリスタルが輝くのを確認もせずに、右の正拳を女暗殺者のあごにたたきつけた。
「ぐわぁっ! は、はなせぇっ!」
「暗殺者がつかまって、そう簡単に釈放されるとは思うなよ!」
オレは女暗殺者の頸動脈をすばやく抑えて、意識を狩ろうとした。
「姉御ぉ!」
下手に切りかかれば、女暗殺者に当ててしまう恐れがあるせいか、大男はそれを見つめる事しかできなかった。
「ぐっ……無念っ――」
女暗殺者はもがき続けていたが、ついに落ちてしまい、拘置所に転送された。
「ふっ。次はおまえの番だ。なにせ時間がないからな……ちいと、痛い目を見てもらう事になるが、悪いな」
オレはストレージから、秘密兵器と言ってもいい『聖剣』を取り出して、笑みを浮かべた。
「なっ……そんなモンで、オレを殴ろうってのか……」
相当の威圧感というか、殴られたさいの事を連想してしまうのか、大男はおびえていた。
あと一回か二回でインターミッション編が終わるとは思います。
予定は未定とは言うけど、戦闘シーンが多すぎました。




