第二十三話 インターミッション Cパート
今回も戦闘はありません。
「うーん……馬車に積みきれるかな?」
数日後……。オレたちはカデストに到着し、留守にしていた間にたまった、大量の延べ棒を前にしていた。
「鉄鉱石が入って来ないってんで、武器になりそうな鉱石は、ここらじゃここしかないからな。採掘が、かなり活発になって来ているんだよ」
顔役の男が現状を説明してくれた。
「あと、例の化合物も、たるに二つは欲しいな」
「それはじゅうぶんにあるが、役に立っているのかねぇ」
「えさ代は倍になるけど、馬車を二頭立てにするしかないわねぇ。手配できるかしら?」
これまでは一度に百本しか延べ棒を運べなかった。すべて長剣を作るとすると、25本しか作れない計算だ。オーダー分だけでも、それぐらいの本数は必要になるだろう。
「農耕馬でよければ、すぐに用意できるがね……それでも、荷物を倍もは積まない方がいいな」
「じゃあ、百五十本とたる二つを積む事にするか」
「明日の朝の出発の時間までには手配するから、それまでは街で、一休みして来たらどうだい?」
「そうねぇ……イレーネとエミルは早々に部屋にこもっちゃったし、わたしはやめとくわ」
「そうか……。オレは少しだけ、様子を見て来るよ」
オレにはひとつ考えている事があったので、あるところを訪ねてみるつもりだった。
「よう……。忙しそうだな」
「おめえ……護衛人をやめて、ここの領主の商会にかかわってるんだってな――」
久々に護衛ギルドに顔を出すと、ギルド長が平静を装いながら、オレのあいさつに応えた。
「ああ……セラエノじゃ、フリーの護衛人はあまりいないからな」
「そんなおめえが、ここにどんな用があるってんだ?」
反応を見るに、オレが出て行くきっかけになった事件は、ギルド長がしくんだであろう事は見てとれた。
「ヒマな護衛人が多いようなら、仕事を依頼しようかと思ったんだが……」
「おかげさんでな……『名前付き』がいなくなった件や、エウロパの方針転換のせいで、鉱石を掘りに来る人間は増える一方だ。もっとも、鉱山への街道は整備されちまって、前ほど護衛の必要はないようだがな」
「ふむ……。次に来る時……半月後ぐらいになると思うが、モレイト村までの荷馬車の護衛を請け負うような護衛人がいたら、紹介してくれ」
「何言ってやがる! おめえが護衛すりゃぁいいじゃねえか」
「オレにも手放せない用事があってな。制限地域でも赴く護衛人が、いればと思ったんだが」
制限地域以外なら、オレをのぞく面々でも荷物を運ぶぐらいの事はできるが、制限地域では戦力が足りないだろう。
「いちおう、聞いておいてくれ……じゃあな」
「おい、ちょっと待てよ!」
オレがカウンターから離れて、背中を向けると、護衛ギルドの長が声をかけてくれた。
「どうかしたか?」
「あのあとも、例の客はトラブルを起こし続けてな……。これは、返しておくぜ」
護衛ギルドの長は、銀貨一千枚の預金証書をカウンターの上に滑らせた。
「そうか……じゃあな――」
オレは預金証書を懐に入れたあと、昔のころのように片手を振って退出していった。
「いまいち納得できないが。まぁ、そういう事にしておくか」
これで所持金が銀貨二千枚に倍増した事で、オレは内心の笑みを隠しきれずにいた。
「このにおいを……あと何回かげるのかねぇ」
オレは、領主の館へと続く坂道を上りながら、感傷に浸っていた。
「待たせたな。鉱石を持って来たぜ!」
「あぁ、クラウス殿……。オーダーを見たんだが、ざっと延べ棒が百二十本は必要になりそうなんだ」
ケラエノには寄らずに、モレイト村の鍛冶師の家を訪ねていた。
どうやら、オーダーには両手持ちの剣などの、延べ棒を多く必要とする物も含まれていたようだ。
「そういう事もあろうかと、百五十本持って来たが、ケラエノにも、十本は回す約束だからな。残りで聖剣を作るしかないか」
レックス殿が、オレをだましているのかはまだ分からない。彼の心根が黒くても、行動さえ正しければ容認できるんだが。
「例の化合物も、たるに二つ持って来た。すぐに運ばせるよ」
「ふぅ……。これで荷物は全部下ろしたわよね」
「ご主君はここで聖剣作りをされるとして、拙者たちはどうしたら、良いのでしょうか?」
「そうっスよ。ボクは鍛冶師の手伝いとか無理っスから……」
「ふむ……。まず、ケラエノに約束の延べ棒を渡してきて欲しい。そのあとは比較的安全なところで、魔物と戦ってスキルを伸ばすというのはどうだろうか?」
カデストへの往復でも、そこそこ成長してはいるが、エミルの実戦経験が足らないのも事実だ。
「うーん。遠距離からイレーネが倒すのなら、無傷なんだけど……エミルのスキルアップのためには、接近戦が必要だから、ちょっと人手が足りないのよね」
たしかに、ククリナイフを装備したイレーネに、タンクをやれというのも、無理がありすぎる。
「カデストの護衛ギルドでも聞いてはみたんだが、あまり腕利きはいないようだしな」
「クラウス殿ではありませんか?」
「おお、ちょうどケラエノに、延べ棒を届けようと思っていたところだったよ!」
偶然か、オレたちの様子を探っていたのか、レックス殿が二人の護衛をともなって姿を現した。
「その件なのですが、当面の間は遠慮しようかと思いまして」
「ほう……。鉄鉱石の輸入が止まって希少なはずでは?」
「ケラエノでは、あの鉱石を有効に使えるほどの腕前の鍛冶師がいないのですよ……ここの鍛冶師は、事実上、クラウス殿専属のようですし」
「だがそれでは、すでに街道の整備を行ってもらっている事にたいしての、義理が果たせないが」
レックスには疑わしい面がある事を、アデールには告げているので、口を挟もうとはしなかった。
「そこで、お願いがあるのですが……力を貸していただきたいのです。クラウス殿は鍛冶師としての仕事があるでしょうから、お仲間だけでいいのですが」
「どのようなトラブルが発生したと言うんです?」
セラエノ自治州に属する土地なら、たいていのトラブルは公爵の顔を借りるか、金の問題でカタがつくはずだ。
「それが……。イクサス王国の北部の鉱山で採れた鉄鉱石を、エウロパ街道を通って輸送していたんですが、エウロパが方針転換をしたせいで、護衛人が契約解除をしてしまい、途中の制限地域で立ち往生していると言うのですよ」
アビス峠への登り口を南に行くと、エウロパ共和国へ通じる、エウロパ街道がある。たしかに、その途中には制限地域があるのも事実だが……。
「そちらは、どの程度の戦力を出す予定なんです?」
「はい。自分と、この二人の剣士……。村の外には石弓使いが一人と、神官と魔術師が一人づつの、六人になります」
「というと、大男が率いていた、特権商人の護衛たちか?」
「そうです。方針転換が気にくわないのか、彼は去ってしまいましたが……」
「ふむ……レックス殿みずから制限地域に行くというのでしたら、断るわけにはいかないな」
「おお、助けていただけますか?」
「ああ……オレは注文された分の剣を作るので動けないが、それでいいのならな」
事情を知るアデールが心配そうにオレの顔をのぞき込んでいたが、レックスみずから悪事をするとは、思えなかった。
「ボクは行くっスよ! まだまだ腕を磨かないと、アニキに置いていかれそうだもん!」
「拙者も……あの人がいないのなら、異存はありません」
「ふーむ……ヒーラーは多い方がいいわよね。わかったわ」
アデールも、少し悩んで決断してくれた。
護衛人なのやら鍛冶師なのやら、わからなくなってきましたね(笑)




