第二十二話 インターミッション Bパート
戦闘とかはありません。
「これはまた……何というか、アレよね」
「別宅というよりは、妾宅(しょうたく)だな……これは」
オレたちは、イレーネが家産として賜った、ケサナ渓谷の前領主の物だったらしい邸宅の前で立ち尽くしていた。
「前住んでいた人は退去済みだそうで、鍵をいただいていますので、入ってみますか? ご主君」
「そうだな……じゃあ念のため」
オレは、イレーネが開けてくれた扉から、中に入っていった。
「どうだったのよ?」
「どんなおうちだったんスか?」
外で待っていた二人が興味深そうに問いかけて来た。
「オレは、毎日ここに住みたいとは思わないな……」
「拙者は気にいりました! 色使いはアレですけど、ご主君がおいでになるのを待つ家としては、ちょうどかと!」
寝る|(いろんな意味で)ための家と言うほかなく、広さこそ、そこそこあるのだが、台所のひとつもなく、オレは前領主の趣味に閉口した。
「そう……じゃあ、店の二階のベッドはエミルに譲ってあげても、いいわけね?」
「はい! あとで、合い鍵を作っておきますゆえ、いつでも訪ねてください……ご主君」
部屋の毒気に当てられたのか、イレーネはオレの腕にすがりついて、ささやいた。
「あ、マスター! おかえりなさいませ」
馬車を預けて店の前に行くと、ロロットが中から飛び出して来た。
「ご苦労さま……売れ行きはどうなのかしら?」
「ハイ! 延べ棒は十本ほど売れ残っていますが、クラウスさんの鍛えた剣は、飛ぶように売れました」
「オレが全部やったわけじゃないけどな。まぁ、それなら今後の資金にはなるかな……」
「そう。まだ需要はあると見ていいのかしら?」
「ええ。仮ですが、オーダーというか要望も承っておきました」
「商機は一瞬! それを逃がさないなんて、やるわね。ロロット」
「購入希望者の名前も書いてもらっています。ざっと二十本分の要望をお請けしました」
「そんなにか! まぁ、あの鉱石で作った武器は、鍛冶師が作れる中でも最高級だからな」
「じゃあ、在庫の延べ棒だけど、それもオーダー用の素材にするわね……売り物がないけど、オーダーは一時停止しておいてちょうだいな」
「はいっ! マスター」
ロロットはアデールに褒められた事で、心底うれしそうにしていた……。
「じゃあ、今日はセラエノで泊まって、明日の朝、カデストに出発するって事にするか?」
「そうね……いちおう、組合の方にも顔を出しておかないと」
「では、拙者は私物を片付けますので」
「ああ、オレも運ぶのを手伝うよ」
「ボクを、今日からここに住まわせてくれるんっスか? アニキ」
「ああ……利益の一割ぐらいをめどに、給料も出すからな」
「うれしいっス! ボク頑張るっスから!」
エミルは相当うれしいのか、思わずオレの腕に抱きついてきた。
「さほど荷物もなかったですし、これで引っ越しは完了ですね」
イレーネは、木箱二つほどの私物を抱えて二階から降りて来た。
「じゃあ行こうか。そうだ、エミル!」
「どうかしたっスか? アニキ」
ロロットに頼まれて、延べ棒を木箱にしまっていたエミルに、声をかけた。
「二階の、階段を上がって左側がおまえの部屋なんだが、足りない物とかあったら、いまのうちに買ってこいよ」
オレはエミルに銀貨五百枚の預金証書を手渡した。
「了解っス! じゃあ、これが終わったら行って来るっスから」
エミルはうれしそうに手をふりながら店の中に戻っていった。
「じゃあ行くか……言っておくが、今日はすぐに帰るからな」
「まぁ、そう言わずに……お風呂ぐらい入っていってくだされ」
「まぁ、大衆浴場に行く手間ははぶけるか……」
オレは木箱を手に、イレーネの家へと歩いていった。
「ふぅ……もう、こんな時間か。弁当でも買って行くかな?」
オレは、約二時間後にイレーネの家を出て、家路につこうとしていた……。
「見つけたぞ! クラウス! こんなところを、堂々と歩いていようとはな!」
「なっ! おまえは、あの時の……」
名前は忘れてしまったが、聖騎士見習いのころの同期の男が、オレを指さして叫んだ。
「あれから、探し続けていたんだからな!」
「待て待て……ケラエノ子爵を通じて、ラミールの教会に復帰願いは出しておいたから、逃げているわけではないぞ」
「なに? レックスの事か? やつは金で聖騎士の座に上ろうとしている男だぞ? 先だっても大量の金貨を上納したそうな……」
「そんなわけはないと思うが……オレの復帰の条件として、このような物が」
オレは、教会から発行された通達書を取り出した。
「なっ! ランドルフ街道の古代竜だと? こんなもの、聖騎士全員でかかっても勝率は三割を割るだろうが……おまえさん、レックスにいっぱいくわされたな」
「なっ……それは、レックスが金の力で、オレにムチャな通達書を書かせたと言っているのか?」
「ああ……実際、オルドヴァの大教会に出頭して、頭を下げれば済む話だったんだぞ?」
「なに? オレは仲間と信じていた男に裏切られて、制限地域で見捨てられて、デスペナでへき地に飛ばされたんだが……」
「大教会がその程度の事情を、わからんはずもないだろう。いまだに、聖騎士の名簿に残っているのが、いい証拠だろうが」
「そうだったのか。ここのずっと西のカデストという街にいたから、何も情報は入って来なかったんだが」
「ラミールの教会とはいえ、これはもう印をつかれているからな。この期間内に、オルドヴァの大教会に行けば、無効にしてもらえるかもしれんが」
「何か問題でもあるのか? 船にさえ乗れれば、そう無理でもないだろう?」
「知らんのか? エウロパが海峡や街道の通航を制限し始めたんだぞ? ほぼ鎖国状態に移行するらしい。ランドルフ街道を通れないのなら、大陸を大回りするしかないんだぞ?」
「もしかして、ランドルフ街道の古代竜が活発化しているという、うわさも、それに関連したイベントなのか?」
「ああ……前は攻撃さえしなければ通れたんだが、いまでは支配下の土地に人間が入るだけで、襲って来るようになったそうだ。まぁ、百年に一度ぐらいに起きるイベントではあるがな」
「エウロパ街道とランドルフ街道が使えなくなる事によって、セラエノとラミールが困る事があるか? 食物ならじゅうぶんすぎるぐらい生産しているだろう」
「このあたりでは、鉄鉱石もないから、輸入に頼っているからな。これがあまり続くようだと、店から武器や防具が消える事にもなりかねんな」
「だとしたら……オレに古代竜の討伐命令を出したのも、そういう事情があるのかもしれんな」
「そうかもしれんが、聖騎士一人に出すような命令じゃないぞ……。オレの方からも探りは入れてみるがな」
「そういえば、いまはおまえ……何をしているんだ?」
「百年も前から聖騎士をしているよ。名前も忘れたようだな。まぁ、それはいい。おまえさんが意図的に任務を投げ出したわけじゃないんならな……」
「そうか……オレは三番街にある、サン・カデスト商会ってところに住んでいる。セラエノでは名誉職だが、騎士にも任命されたから、急ぎの場合ならセラエノ公爵でも話は通るはずだ……すまないが、よろしく頼む」
「いまとなっては、神雷剣を正統に受け継いでいるのは、おまえだけだからな……こんなところで死なれては困る」
「なっ! 師匠は転生したのか?」
「いや、『クリアー』だよ。条件を満たしたせいで、しゃばに戻ったみたいだな」
「そうか……ところで、オレはいま聖剣を作っているんだが、おまえへの礼に、一本打ってやろうか」
「なに? 聖剣の鍛冶師も転生して、いまや聖剣は数える程しかないんだぞ?」
「はぁ? この間も、使い捨てではあるが聖剣製作一レベルの聖剣を、ラミールの教会に納めて……レックスに頼んだんだが」
「おいおい。そんな物が売りに出てりゃ買い占めるぜ」
「一レベルなら銀貨一千枚だと言っていたが、それは本当か?」
「建て前ならそうだが、裏のルートに流せば一万枚は下らないだろうよ!」
「そうか……それを売った金で工作資金にしたのか」
レックスにたいして怒るべきなんだろうが、オレが楽をしようとした結果、やすやすとだまされた形なので、不思議と腹は立たない。
「これは三レベルなんだが、どう思う?」
オレは聖剣扱いの小剣を手渡した。
「これを持ってダッシュで逃げたら、金貨五千枚は下らないだろうよ……そんな事をすりゃ、一発で破門だが」
「実は、製法もわかり、その原料もほぼ独占できるんだが……まぁ、オレがいないと作れないがな」
「おれは聖剣製作のスキルそのものを持っていないんだぞ? おまえたちの世代とはワケが違うんだ」
オレの世代の聖騎士も、ほとんど残っていないという事なんだろうな。まだ破門されない理由のひとつかもしれない。
「そういう事なら、おれの方でもつてを使って、オルドヴァに連絡を取ってみる。おまえは、その聖剣を大量生産していてくれ」
「待つとしても、二か月半しか待てないがな……お願いするよ」
オレは、聖騎士になったという男と、固く握手をして再会の約束をした。
「そういうわけで……これから当分の間はカデストと往復しては、鍛冶師のまねごとをする事になる。鍛冶師と聖剣製作のスキルも上げたいから、これまで以上に協力してもらう事になるが、かまわないか?」
翌日、オレたちはセラエノの街を出て、モレイト村までたどり着き、オレは鍛冶師の家を訪ねていた。
「鉄鉱石が入って来なくなったから、普通の武器は作れないし、そうするしかなさそうだからな……で、売れたのか?」
「ああ。完売したそうだ。これが、残りの報酬だ」
オレは金貨一枚と銀貨五千枚の預金証書を手渡した。
「おお、ようやく現金化できるのか。助かる」
オレの取り分も金貨二枚に近い程だったが、それはすべて聖剣製作のための資本金に回す事になっている。
「延べ棒として売るのはむずかしいから、十本……これは、今度運んで来る分の前払いとして渡しておこう」
オレは夜半まで、鍛冶師との打ち合わせを続けた。
インターミッションはあと2話か3話は続きそうです。
*** 本日は午後六時に、もう一話公開します! ***




