第二十四話 インターミッション Dパート
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ミリタリー色のある現代ファンタジー小説の、
【空と海の掌握者 】は書きためているのを、
週に二回(水・土)公開中!#narouN1050BK
11/07:現在、十話まで公開中!
◇◆◇ ここからアデール視点です ◇◆◇
「出発は明日の朝だと思っていましたわ、レックス殿」
「できればそうしたかったのですが、制限地域の真ん中で護衛もなく、心細い思いをしているかと思うと……」
わたしは、レックス殿に軽くさぐりを入れてみる事にした。夕暮れが近い時間に出発するなんて、やはりおかしいのよね。
「言葉は悪いですけど、要は密輸ですよね……。それについて異存があるわけではないですが」
「いえ……エウロパ共和国の領土内の街道を使わず、間道を抜けたので、密輸というわけでもないですが、あまり褒められた事でもないですね」
領主みずから、危ない橋を渡る事に、少し探りを入れてみたけれど、これぐらいでしっぽは出さないわよね。
「そういえば、イレーネ殿が、ケサナ渓谷の領主になられるそうですね?」
「え、ええ……。拙者に領主が勤まるのか、いささか不安ではありますが……」
レックスはイレーネにまで、探りを入れて来ていた。というか、情報が早すぎるわよねぇ。
「そちらの少年……と言っては失礼ですか。彼はどのような経緯で、同行されているのですか?」
「エミルは、生き別れた兄を捜しているんです。エウロパかイクサスの可能性が高いので、同行しているのですよ」
最後尾でわたしたちの護衛をしているエミルにまで、レックスは触れて来たんだけど、あとで口裏を合わせる必要があるわね。
「そうでしたか……。おっと、このあたりで野営の準備を始めるようです」
先行して偵察をしていた石弓使いの小柄な男性が、野営の準備をしているのを見て、わたしたちは歩く速度を落としました。
「ねえ、エミル。トイレに行くから、護衛をしてくれる?」
「ぼ、ボクがですか? わかりました」
夕食を終えたあと、わたしはエミルに小声で声をかけて、草むらの方に歩いていった。
「どう? 誰かついて来たような気配はない?」
「大丈夫だと思いますけど……。ボク、ここで待ってますから」
「護衛は口実よ……話があるの……。エミルが、攻撃能力を持っている事は、当面隠して欲しいのよ」
「アデールさんが言うなら、そうするっすけど……」
「ちょっと、今回の事には裏があるかもしれないの。お願いね」
「わかったっす。じゃあ」
さすがにいつもの調子で大声を張り上げる事もなく、空気を読んだエミルは、少し離れたところに移動してくれた。
「警戒の順番ですが、最初に女性お二人。次にひげのある方の剣士と石弓使い。最後に、もう一人の剣士と自分が見張りをする。魔術師と神官にはじゅうぶんな睡眠を取ってもらうつもりだが、よろしいですかね?」
「ええ……。気を使っていただいて悪いですわね」
すっかり回りが暗くなったころに、ようやく寝る準備が整った。天幕ひとつあるでなし、いつものように寝袋で眠るのだけれど……。
|(今晩はモレイト村で眠る予定だったのに……)
ふだんは感じない不安感が、わたしが彼(クラウス)に依存している事実を浮き彫りにしてしまう。
「…………」
思いは同じのようで、同じく不寝番をしているイレーネも、心なしか表情が暗いみたいね。
あの子もよく分からないところがあるけれど、彼への二心のなさは嫉妬を、してしまいそうなぐらいなのよね。
「すぅ……すぅ……」
不寝番のローテから除かれたエミルは、邪気のない寝顔を見せている……。
「っくしゅ……」
三時間ずつの不寝番……自分の番が終わっても、すぐに眠りにつける自信がない。
「…………」
ふだんは彼のわなのスキルのおかげで、不寝番を立てるのは、制限地域のまっただ中で野営する時ぐらいね。あのスキルも習得は、容易ではないのかも。
いろいろと考えを巡らせているせいか、不寝番のさなかに寝入ってしまうような失態は見せずにすみそうだ。
ふだんと同じ時が流れているとは思えないほどに、夜を長く感じてしまう。彼のいない時間の空虚さも――。
◇◆◇ ここからイレーネ視点です ◇◆◇
「…………」
先ほどから、アデール殿の表情が暗いようだ。やはり、ご主君と離れて行動するのは、不安なのだと思う。
(ご主君……クラウス殿……か)
ご主君と初めて会ってから、まだ一か月にもなっていない。だのに拙者の心の中にしめる、ご主君の存在感は、日を追うごとに増していく一方だ。
「…………」
初めて会った時から、すべてを見据えられているかのように、拙者のすべてを理解してくれる……。拙者がご主君に依存しているのも承知の上であろう。
打算でご主君に従っている面もあるのかもしれない。だが、理屈ではないのだ……。ご主君の言葉を聞き、隣で戦えるだけで、どんなにか心強くあれる事か――。
「ふぅ……」
拙者もアデール殿もおそらく、ご主君に依存している……。だが、ご主君はそのような関係を求めていないようなのだ。愛人盟約だなどというものを持ち出したのも、少しは拙者に執心して欲しいという願いにほかならない。
(本当はわかっていたのだ……あの契約の意味も――)
拙者をケサナ渓谷の領主に据えるさいの条件……『二世の契り』は、拙者を死地に赴かせないための心遣いなのだと――。
だけど、ご主君との間に子どもをもうける誘惑が勝ってしまったのだ。この世界はかりそめの世ではあるけれど……それでも揺るがない愛情を感じてみたかったのだ。
(ご主君は、どうして受け入れてくれたのだろう……)
ご主君は意志の強さに比例するかのように、自身を曲げようとする物には全力で立ち向かう……。アデール殿も拙者も、ご主君を、拘束しようとしないから、受け入れてくれたのだろうか……。昨夜も、激しく愛してくれたけど。拙者にどれだけ執着してくれているのかが見えないのだ。
「はぁ……」
「ふぅ……」
アデール殿と同時にため息をつき、目があってしまう。考えてみれば、アデール殿もどこか変わったお人だ。最近は素直になられているようだけれども、以前は見ているこっちがいじらしくなるほど、甘えかたという物を知らないようだった。
かなりの時間がたったと思ったけれど、たき火の加減から見るに、一時間しかたっていないようだ。ご主君のいない夜の長さを実感してしまう。
◇◆◇ ここからエミル視点です ◇◆◇
「ふわぁ……おはようございます」
朝の六時ぐらいだろうか……。目が覚めるとお二人がもう起きているようでした。眠くないんスかねぇ……。
「おはよう、エミル……」
まだ寝ている人がいるので小声だったけど、アデールさんは少し疲労が残っているようっす。
「川で顔を洗ってくるっす……」
「では拙者も……」
ふだんから口数が多い方ではないけど、イレーネさんもどこか表情に精彩がないっす。
「ぷはぁ……気持ちいいっすね」
アビス峠から流れて来る川の水は冷たく、おいしかったっす。
「そうね……」
たった一日離れただけで、こんなにもやつれるものなんすかねぇ。アニキとお二人がそういう関係だって事は知ってるっすけど、どうしてケンカもせずにいられるのかが、よくわからないっス。
(わからないでも、ないっスけど……)
アニキは何というか、来る人拒まずというか、全方向に優しいような人で……脇が甘いんじゃないか? なんて、ボクにも思わせるぐらい身内を守る人なんスよ。そこにシビれるし、あこがれるんスけどねぇ……。
「あまり眠れなかったんっすか? イレーネさん」
「四時間は眠れました。平気ですから……」
六時間は眠れるはずなのに、二時間も眠れなかったんスね。
「ごちそうさまでした!」
急ぎの旅という事なので、朝食はパンをたき火であぶって食べる簡易的な食事だったっすけど、バターがあったので、おいしく食べられたっす。
ボクは、保護されている一般人という設定らしいので、ほかの人の目があるところでは、自重した方がいいんすよね?
「…………」
レックス殿って人が連れている護衛の人たちは、どこか妙な空気を背負っているような気がするっすね。石弓を持っている男の人は、きっと密偵とかをやってたんじゃないかって思うっす。
「それでは、参りましょう。急げば、日の暮れる前に合流できるやもしれません」
三十分後、レックス殿は全員の準備が整っているのを確認し、石弓使いの男の人を先行させてから、移動を開始したっす。
「はぁ……つかれたっす……」
日も暮れかけているというのに、もうすぐ制限地域の手前に着くというので、強行軍で歩かされているっす。
「合流するという相手はどこにいるのかしらね……。こんなところで、魔物から隠れていられるとは思いにくいんだけど」
アデールさんが小声でボクにささやいてくれたっす。
まだ制限地域じゃないとは言っても、朝から結構な数の魔物と戦い続けたっすから、みんなつかれてるはずなんスけど。
「荷馬車を発見しました! あと三十分も歩けば見えるはずです」
いつものように先行していた石弓使いの男の人が戻ったっスけど、ここまで戻れるのなら、救援なんていらないっすよね?
「わが愛する妹は、すぐ近くで救援を待っているのだ! すまないが、合流してから引き返す事にしよう!」
レックス殿はそう言って、先導して歩いていくんスけど……。
「おお、すまないな……こんな子どもに、こんな夜更けまで……。少しの間だけでも背負わせて欲しい」
一時間ぐらい経過したころ、レックス殿はそんな事を言ってボクに近づいて来たっす。狙いは見え見えなんスけどね。
「ホント? ありがとう、子爵のお兄さん!」
ボクはあえて、懐に飛び込んで行く事にしたっス。
「よし、茶番劇もここらで終幕と行こうか……おい!」
レックス殿は、黒光りする毒を塗った短剣を取り出して、ボクの首筋に当てながら合図をしたっス。
「このガキの命が惜しかったら、武器を捨てろ」
「なんという事を……」
「くっ、無念――」
アデールさんとイレーネさんは武器を足元に置いてしまったっス。
「命は奪えないから、制限地域の奥に向けて歩いてもらおうか」
レックス殿は態度を一変させて、牙をむいたっス!
いろんな意味でバレバレな展開なんですけど、
果たしてエミルはこの危機を切り抜ける事ができるのか! こうご期待!




