事件発生
ヒトリミサキ 改
⻆谷 春那
事件発生
「…ねぇ、黒蛇女。」
「なーに、カレルちゃん。」
「暇。」
「それは大変!!どうしましょうね~。」
「…とっとと仕事を終わらせなさいって言う意味。」
何やら事務所的な空間で、黒い髪の女がデスクワークをさせられている。それを、銀髪の少女が眺めているのだが、何だか少女は浮いている。物理的に。
「あ、そう言う事。…カレルちゃん、学校は大丈夫なの?」
「『夏休み』って、知ってるかしら?」
「あ、夏休み!」
「…馬鹿なのかしら?季節感覚、どうなってんのかしら?」
「そんな~!」
「おかしいわね。爬虫類にとって外気温って、死活問題なんじゃないの?」
「爬虫類の見た目してるだけだから。」
「それを言っちゃ、おしまいでしょ…。」
「…カレルちゃん、宿題終わった?」
「馬鹿にしないで。ちゃんと取り組んでるし。今も。」
「えー、それじゃあ、このカレルちゃんは本体?」
「見て分からないの?」
「本体でしょ?」
「…。」
「ふふふ、当たっちゃった!コハルちゃん達の事は、何でも分かるんだから~!」
少女の、やや水色がかった灰色の髪が、左右にくるんと曲がる。明らかに、髪ではないのだろうが、髪にしか見えない。動いたのは、「触角」と呼ばれる部分である。少女は全く表情が変わっていないが、耳がピクッと動いた。どうやら少女は、人間ではないようであり、髪で隠れていて見づらいのだが、耳のみ獣だ。一般的に考え、浮遊している時点で人間ではない可能性の方が高いのかもしれないが、少なくとも此の国の人間には、割と多い能力だ。
「変態。」
「え?!そんな~。」
「はい、煙草を取り出さない。」
「えーーー!!!」
「黙りなさい、ヘビースモーカー。」
「蛇だけに?」
「…。」
「そんな!ツッコんで!!」
「無駄な労力は、使いたくないのよ。」
「酷い!!」
「他の奴も居るんだから。上司なら、もうちょっと、我慢と配慮を覚えなさい。全く、お前の部下が可哀想でならないわ。あ、我慢できない大人は、可哀想な大人に入る?」
「うぅー。ぐぅの音も出ないです…。」
「全く。リリーちゃんが可哀想だとは思わないの?」
入り口付近のデスクに座る、金髪の女性―恐らく、「リリーちゃん」―が、突然名前を出された事で驚く。
「わ、私ですか?!」
「…お前、前に
『煙草の臭いが嫌い』
とか、言ってなかった?」
「え、あ、え?」
「え?アタシの記憶違い?」
「い、いえ、事実ですが…!」
「ほら、リリーちゃん可哀想。」
「いやいや!ほら、前までは!あんまり巳禍さんも、吸ってなかったですよ?!」
「あら、虚春の前では吸ってなかったのね。流石に。」
「そうだよ!!…コハルちゃん、何時帰って来るんだろうね。」
「お前、馬鹿?」
「え?!酷い!!」
「虚春、言ってたわよね?
『とりあえず、今日は帰って来る。』
って。老化が進んでるんじゃないの?」
「あ!そうだね!!よーし、今日は早く仕事を終わらせなくっちゃ!!」
「そうしなさい。…ただでさえ、白蛇女も居なくて、暇なんだから。」
「そんな!私は?!私、巳捕とセットだよ!」
「え?変態が居なくて、心の平穏が保たれているわ。あ、でも。作り置きがそろそろ底を尽きそう。作れ。」
「…ひょっとしてカレルちゃん。寂しい?」
「…何でそう思うのよ。頭おかしいんじゃないの?国語の授業、アタシと受ける?」
「いや。カレルちゃんがこんなに甘えて来るの、久しぶりでさ。」
「やっぱり頭おかしいわね。妄想のし過ぎ。…寂しいと言うより、まだ現実味が湧かないだけよ。」
「そうだよね。カレルちゃん、仲良しだったもんね。」
「…虚春は探しに出てて居ないし。お前と白蛇女は、虚春達の補填で居ないし。」
「カレルちゃん...。可愛い。」
「頭おかしいんじゃないの?しんみりしときなさいよ、嘘でも。空気読めなさすぎるわよ。病院行ったら?」
「えー!?」
「…もうすぐ、終業時間よ。」
よくよく考えれば、可笑しい事務所である。何やら皆、制服のようなものを着ているが、オフィス的な感じではない。色は、「巳禍」(一人からは「黒蛇女」と呼ばれているが)と言う女は、黒い羽織の下に白い制服を着ているが、青いものを着ている者が多そうだ。階級によって、色が異なって来るのだろうか?また、「カレル」と呼ばれた少女は、ほぼ私服。どうして、此処に居るのだろうか。
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終業間際のトラブル―つまり、「残業確定演出」というものは、悲しきかな、どの業界にも存在しうる。つまり、この事務所にも。
あまり立場が上役ではなさそうな、若そうな者が飛び込んでくる。此の国は本当に人外共が多いため、見た目年齢は当てにならないのだが。「青々しさ」「若々しさ」とでも言うのだろうか。「新人です!」みたいなオーラを持った者が、電話を片手に飛び込んで来たのだ。大変に、慌てて。
「どうしたの?!」
「…嫌な予感。」
「た、大変です!!し、市内に、怪異が!!」
「…危険度はどのくらい?巳禍だけで良いなら、アタシ帰る。」
表情や声のトーンは変わらないが、恐らく不機嫌なのだろう。「私、不機嫌です」オーラを、ガンガン出している。
「ご、5です!!」
「MAXじゃない!?」
「あ、あの。今入っている情報によると。」
「…結論。」
「少なくとも、【水害】【神藤】【神木】【滝壺蜘蛛】【雨方の濡れ女】が、取り込まれた可能性大!?」
挙げられた二つ名の持ち主は相当有名らしく、みるみるうちに事務所内の者達の顔が、深刻そうになっていく。
「…は?」
「…カレルちゃん。出てくれる?」
「いや、出るも何も...。どうしてそんな状況に…?」
「理由は後でも出せる。…だけど状況は、刻一刻。早く、準備しなきゃ。」
そう言って、走り出す。他にも何人かが、同じように。しかし、残る者も居るらしい。そう言う、後方の段取りがあるのだろうか。
「…アタシも、出るわ。」
「本当?!」
「虚春に、頼まれてたし。…虚春の【真似】をして、アタシも出る。」




