上流の増水を下流が知る術は無し
ヒトリミサキ 改
⻆谷 春那
上流の増水を下流が知る術は無し
岬 海斗が澪子嬢を連れて帝立学校に相談に来ていた頃。岬の友人達も、学校に来ていた。岬のようによっぽどの理由が有るわけでは無い男子生徒二人組が、どうして夏休みに学校にわざわざ来ているのか。…まぁ、補習に引っかかる年も、あるだろう。
「…お?木村、あれ!」
「んー…?って、お?あれって。」
「声かけてみよーぜ!おーい!岬ー!おk」
ここですかさず、肘鉄砲がクリティカルヒット。
「グハッ!な、何すんだよ?!」
「すまん、腕が当たった。そうだなー、岬と、『お綺麗なお姉さん』が居るな―。」
「あっ。え?!何処何処?!…って、あ!!そうだな!!あそこに、居るな!!」
挙動が不審過ぎる。岬(旦那)が女子人気が高すぎるのは、もはや周知の事実であるし、この男子生徒達も勿論知っている。体つきが良い方の男子生徒は、少しその事が頭から抜けていたようだが。岬に嫁が居ると彼ら彼女らに知れ渡ってしまった日にはもう、どんな恐ろしい事が起きるか。卒業まで、隠し通さねば。
「…でも、どうして?」
「補習か?」
「まっさかー。」
岬親衛隊の皆々様曰く、岬 海斗は頭脳明晰かつ運動神経も良く?尚且つ性格も良いと。…誇張が入っていそうな情報源なのはさておき、少なくとも。補習に引っかかるような人(妖だが)ではないらしい。
「にしても。何でおk…お姉さんまで居るんだろうな?」
「えー?…気になるな。」
「そうだな。」
理由に思い当たる節でもあるのだろうか。先程失言をしかけた方とは別の男子生徒が、暫く何かを考えている。そして、こんな結論を下した。
「…よし、尾行しよう。」
「…は?!」
「いや、気にならないのか?」
「いや、気になるけど!!」
「でも、分かんないだろ?」
「そうだが!!駄目だろ、家族の時間は!あと、大事な用事かもしれねぇじゃあないか?!」
「いや、声が聞こえないくらい遠くで見てればさ。それに、考えてもみろ?一般生徒ならともかく、何にとは言わないが『熱狂的な方々』に目撃されたら、どうする?!これは、見守り必須事案だろ!!」
「…そうだな!」
先程失言をした方の男子生徒は、何と言うか。悪い奴じゃないのだろうが、逆に「良い奴過ぎる」気がする。もう少し、疑う事を覚えるべきなのでは?とても、良いように丸め込まれたようにしか見えない。
「よし、じゃあ、岬見守り隊、出動だ!」
「おー!」
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「…職員室だな。」
「しかも、総務だな。」
「…入るか?」
「いや、流石にバレるだろ。」
「だよなー。」
ここで、もう昼食の時間な事に気付く二人組。
「…どうする?」
「…どうせ、後から本人に聞けば良い気がしてきた。」
「だよなー。」
「…昼飯食いに行くか。」
「だなー。…って、見守り隊どうすんだよ?!」
「あー。…なあ斎藤。俺、気付いた事があるんだ。」
「…何だ、木村。急に、改まって。」
「…夏休み真っ只中に学校に来るような物好き自体、あんまり居ない。」
「…あ。」
「と言うか、すれ違った生徒がほぼ0な時点で、気付くべきだったんだ…。」
【悲報】岬夫妻見守り隊、結成から1時間足らずで解散
「何か、毎日学校に行き過ぎて、もはや夏休みな事半分忘れかけてたな。」
「マジで。休みが欲しい。台風来ないかな。」
「いや、お前んとこの部活、文化部じゃん。」
「半分運動部みたいなもんだから。休み週一だぜ?」
…赤点取ったと決めつけてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
「それを言うならこっちだって、って。もはや水掛け論だな。飯食いにいこーぜ!」
変なところで理知的な対応である。
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学校から少し離れた、住宅街の中の路地で。
「すみませーん。」
突然、割と、いや、ガツンと。ガーリーと言うか、キューティーと言うか、ラブリーと言うか。とにかく、着るのに少し勇気が入りそうな、フワフワひらひらのショッキングピンクの御召し物を身に纏った女性が、話しかけてきた。
「え、どうしましたか?」
「その制服ー、帝立の学校の生徒だよね?」
「そうですよ。ひょっとして、迷ってしまいましたか?!」
「そうなのそうなのー!良かったら、道案内してくれなーい?」
「良いですよ!」
「ちょ、斎藤。マジか。」
「良いだろ?どうせ、行くんだし。…それとも、駄目か?」
「まぁ、そうだけどし、良いけどさ…。」
何か言葉にならない違和感を感じている、肘鉄砲を喰らわせた方の男子生徒—木村 永葉だった。
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「…そう言えば、人を探してるの。君たちと同じ学校に、居るらしいんだけど…?」
「ほう。どんな人っすか?」
「いや、俺達知ってるかどうか、分からないでしょ?マジで、広いし人多いしですし。」
「えっとね。岬君!」
若干空気が凍る。知っている。確かに知っているが…。と言うか、岬・木村・そして素直すぎる男子生徒―斎藤 信仕は、友人だ。人外仲間だ。
だが。この人に話しても良いのだろうか。知らない人に、勝手に話しちゃいけない気がする。と言うか、何故探しているのか?まさか、あの男、校外でこの御令嬢を惚れさせたのか?有り得る。校内のみならず、外でもファンをまた増やしているのか?しかも、無自覚で。妻帯者なのに。妻帯者の自覚は寧ろ、本人はありまくりなのに。
此の修羅場。どうやって切り抜けようか。「どうする?」とお互い、無言かつ直感的なやり取りで、出方を調整していた木村・斎藤両名。先陣を切ったのは、木村だった。
「いやー、知らないですね。あ、でも。噂は聞いた事あるかもしれないですね。」
何か情報を出した時の予防線を張りつつ、他人としてとりあえず様子を見る。見事なテクニック。
「え、岬って。あの岬 海斗君ですか?!モテモテって、校内中で噂になってる人っすけど…?」
「珍しく、斎藤が上手くフォローしている?!明日は、赤い雪でも降るのかもしれない…」
と内心で思いつつ、御令嬢の反応を見る木村。
すると突然、本当に恐ろしいと言うか禍々しいと言うか。本能的に恐怖を感じざるを得ない表情になって、こう言った。
「…違うよね?知ってるよね?友人だよね?嘘吐くの。」
「いや、そんなこt」
「斎藤君?木村君?…どっち?まぁ、良いわ。」
木村の顔がスっと、青くなる。まぁ、これが普通の反応である。人外とは言え、そんな反応をする。
見ず知らずの女に、超モテ男との関係性を知られていた(?)(まだこれは、適当でもいけるが)のみならず、名前も知られていたのだ。
まぁ、隣の人外は、相当変わっていると言うか、ポジティブ思考のようで。
「ストーカータイプだったかー!こっそり、遠回りしといて、良かったー!!!」
と、一番危なさそうな、当の本人から危機を遠ざけた事を、喜んでいる。
実は斎藤 信仕。ちょっと詳細は口にできないが、ボディーガード的な役割を担っているらしく。凄く、敵意と言うか殺意と言うか、邪気と言うかの察知能力が、高いのだ。木村でさえ不審に思う、突然話しかけてきた女。斎藤が、不審に思わない訳がない。
「こっちの方が、ちょっと遠いけど、坂道とか少なくて、歩きやすいんっすよ!」
とか、
「この道、ちょっと避けて良いっすか?いや、姫君だけの時は良いんっすけど。…実は俺、ちょっと恥ずかしいんっすけど、犬、苦手で。」
とか。とにかく、あの手この手で、遠回りファインプレーを実行し続けて来たのだ(しかも、女が不審に思わないような方法で)!
本来はその間に、感じた「邪気」の正体を探ろうとしていたのだろうが、意外と早めに判明したのだ。木村はとにかく恐怖を感じているが、斎藤は若干既に、臨戦態勢に入ってしまっている。普通は刺激しない方が良いだろう。勿論、斎藤もそれは弁えている。斎藤はその「役目」柄、「敵」についての勘が良いのだ。逆を言えば、そんな彼が即座に臨戦態勢をとった。相当に危険だという事だ。
どちらがどちらの名前か分かっていなかった事、何故か自分達の名前を知っている事。まだ謎な事はあるが、それを解明するのは、「護衛」の仕事ではない。
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「…何?それ?どっから出したの?」
「…姫君。貴女、何者ですか。」
「ねぇ、酷くない?どうして、刀を私に向けているの?野蛮ね。」
木村を含む、自分達の身が危険に晒されてしまう事。それは、護衛失格だろう。しかし、声を掛けられた時点で、既にあちらの視界―「ターゲット」の一員に、入っていたのだろう。相手の力量は、計り知れない。正体さえも、掴めない。だが、これだけは言える。
悪寒が、するのだ。斎藤は、感じ取っていた。恐らく、木村を守りながらでは。自己の敗北は、確定した未来だろう。木村に指三本位は、触れさせてしまうかもしれない。木村が逃げ切るまでの時間を、稼ぎきれないかもしれない。だが、それで良い。木村が逃げれば逃げる程、足止めが出来る。時間が出来るという事は、味方への伝令ができるかもしれない。この化け物退治が出来る人材まで、届くかもしれない。
「もはや、逃げ切る事が最善策ではない。自分は、逃げ切らなくて良い。木村を守りながら、被害を減らす。」
それが、斎藤の出した答えだった。しかし、逃げ切れるかどうかも、かなり確率が低い。「木村を守るために遣わされた」。なのに。
ついていない。本当に。どうして。こんな怪異が、どうしてこんな場所に。しかし、考えても、仕方のない事だ。十中八九、怪異だろう。敗北は、利敵行為を意味するだろう。怪異は、人外を取り込んで、力を付けるのだ。出来るだけ、全力を尽くさねば。
怪異を討伐するのは、いや、出来るのは。準備が無い自分には不可能だが、これから騒ぎを聞きつけ、来る者ならば。その者のために。誰だかは分からないが、未来のために。覚悟はもう、出来ている。木村には、申し訳ないが。




