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ヒトリミサキ改  作者: ⻆谷春那
前日譚
2/8

大地震の直後に打ち上げられた魚を、浜辺で純粋に喜んではいけない。

ヒトリミサキ 改

⻆谷 春那

大地震の直後に打ち上げられた魚を、浜辺で純粋に喜んではいけない。


 ここは、帝立人魔妖霊学校。文字通り、様々な種族が通う学校。そんな学校の総務課に、学生らしき青年が、女性を引き連れてやって来ていた。


 「…あ、岬君。こんにちは。」

「こんにちは。」

「今日は、どのようなご用件d…あら、そちらの方は?妹様ですか?」

「いえ、妻です。」

「成程、奥様でs…『妻』?」

「はい。」


 ズッテンカラリヤ


 「だ、大丈夫ですか?何やら、後ろで凄い音が。」

「あ、あぁ。お気になさらず!ただの、聞き耳立てていた暇人の、自滅ですので…。」

「な、なんだか、大変そうですね。」

「…岬君、後ろの阿呆共を庇う訳ではないのですが。一応ですよ?危機感と言うか、『人間の常識』を適用させて下さい?確かに、岬君は【人外】ですね?でも、一応学生なんですから。あまり、迂闊に外―と言うか、此処で言わない方が良いですよ?誰が聞いているか、分かったもんじゃない。」

「あはははは。気を付けます。」

「…何だか、私のせいで申し訳ないです、海斗様。」


 後ろの女性―黒髪で、浴衣を着た、十代前半程の少女―に気を遣わせてしまい、慌てる窓口担当。


「いえ、奥様は何も悪くないです!…ただ。岬君は、その~。校内での、女性人気が非常に高い人の一人で~。」

「え?!」

「な、何故海斗様が逆に存じ上げていらっしゃらないんですか…?」

「い、いや!?僕、妻帯者ですよ?!」

「あまり、知れ渡っていないみたいですね…。」

「あ、え、えっと!ご、ごめん、澪子!!」

「いや、海斗様が人気なのは、別に構いませんよ…?」


 どうやら、「ヤンデレ」「メンヘラ」「地雷系」とはかけ離れた存在のようである。それ以前に、旦那の天然?もとい、誠実さのおかげで、修羅場になる確率は0の模様。

寧ろ、このままいったら、惚気を見せられそうな気分。それは何としても、裏方の暇人独身同僚共―さっき椅子から転げ落ちていた奴らの為に、避けた方が良い事である。また、「岬 海斗ファンクラブ」の一員や、予備軍に見られでもした暁には、もう、校内の安全面が心配されてしまう。そんな勘が働いた事務員が、すかさず話題を逸らす。


 「そう言えば、要件をまだ聞けていなかったですね?どうしたんですか?そのー、奥方まで連れて来られて。」

「あ、そうでした。実は…妻がこの学校に通いたいと、申しておりまして。」

「ほう!」

「そのー、最初は

『学校に通いたい』

と言っていて、探していたんですが、そのー…。僕の妻、怨霊でして…。」

「はい、どうやらそのようですね。」

「…幾つかの学校に、

『受け入れは難しい』

と、断られてしまって…。」

「確かに、怨霊を受け入れている学校さんは、あまり多くないですからね~。妖怪でも、異形系は受け入れ可能校が少ないですし。」


 悲しき種族の壁。


「…この学校は、

『どんな種族でも受け入れて下さる』

と伺いまして…。」


 少女が、意を決した様に声を発する。鈴のような声色であり、大変聞き取りやすい。「怨霊」と聞くと、禍々しく、恨みがましい存在をイメージしてしまうが、そんな事もないようだ。


「はい、全く持って、その通りですね。実際、怨霊の方々も少なからず在籍されてますよ?…ただ。」

「『ただ…?』」

「…入学に当たって、お願いしたい事があります。」

「な、何でしょう。」

「…奥様。」


 呼びかけられて、委縮する少女。


「は、はい。」

「つかぬ事をお伺いしますが…相当上位の怨霊なのではないのでしょうか?かなり長い期間、彷徨っているとか、生前、何か強い人だったとか。」

「は、はい?」

「あの~、あ、見せた方が早そうですね。…パソコンが、有りますね?」

「はい。」

「岬君。さっきまでこのパソコン、正常に動いてたんですよ。ほら、遠目で、『カタカタ』してる様子とか、見えていませんでしたか?」

「あ、あー、は、はい。」

「…もう、この調子ですよ。」


 そう言って見せてきた画面は、典型的な砂嵐。砂嵐の中に、見慣れたウィンドウが出たり消えたりを繰り返しており、まさに「バグってる」。


 「…わぁ。」

「な、何か、凄い事になってますね。」

「でしょう?」


 そう言って画面を、再び自分の方に戻す。


 「あのー。本当に言いづらいんですが…。奥様。霊障が、大変激しいです。もう、見たことないくらい。凄いです、いや、本当に。」

「え、えぇ…?」


 困惑する少女。


「岬君。家に、電子機器ありますか?」

「え、ありますよ…?」

「…気づいておられましたか?」

「い、いえ、全く。」

「…マジかー。え、家では、こんな事起きないんですか?」

「は、はい。」

「…心理的な要素も強く関わる現象ですしね。」

「ご、ごめんなさい。」

「謝る必要は、全くないです。ですが…正直、私もヤバいです。気を抜いたら、頭痛がしそうですね。もう、比喩表現ではなく。…ここまでだと、入学するまでに、訓練に必ず参加してもらう必要がありそうです。逆に、ある程度霊障を抑え込められるようになれば、選択肢も随分広がると思いますし。…一応、誰でも参加出来る講習が、此処にありますし。是非とも、いえ、本当に。前向きに参加を検討していただければと。」

―――――――――――――――

 「…いやー、凄かったね。」

「はい。まさか、あんな事が起きるなんて…」


 帰路につく岬夫婦一行。その鞄の中には、問題集がある。入学試験のためのものである。講習の参加届を出した後、同じく総務部で購入したものだ。


 「…どうしたの?」

「あ、えっと…。覚悟していたほど、難しそうではなくて、安心しました。」

「そう?良かっ、た。…?」


 突然、歩みが止まる。


「…海斗様?」

「ごめんね、澪子!先に、帰っていてくれないかい?」

「え、急に。ど、どうしてですか?」

「ちょっと、忘れ物をしたかもしれない。ごめんね。」

「そ、そう言う事なら。では、帰って試験勉強をしておきますね。」

「もう、受けるとしても、半年以上あるよ?」

「予習みたいなものですので。」

「勉強熱心だね、澪子は。」

「そ、そんな。か、海斗様に比べたら。」

「そんな事ないよ!じゃあ、また後で!!」


 そう言って走り出す岬 海斗。











 しかし、夕方になろうと、帰って来なかった。帰り道は、夏の日光が容赦なく降り注ぐ、正午辺りの時間だったというのに。

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