大地震の直後に打ち上げられた魚を、浜辺で純粋に喜んではいけない。
ヒトリミサキ 改
⻆谷 春那
大地震の直後に打ち上げられた魚を、浜辺で純粋に喜んではいけない。
ここは、帝立人魔妖霊学校。文字通り、様々な種族が通う学校。そんな学校の総務課に、学生らしき青年が、女性を引き連れてやって来ていた。
「…あ、岬君。こんにちは。」
「こんにちは。」
「今日は、どのようなご用件d…あら、そちらの方は?妹様ですか?」
「いえ、妻です。」
「成程、奥様でs…『妻』?」
「はい。」
ズッテンカラリヤ
「だ、大丈夫ですか?何やら、後ろで凄い音が。」
「あ、あぁ。お気になさらず!ただの、聞き耳立てていた暇人の、自滅ですので…。」
「な、なんだか、大変そうですね。」
「…岬君、後ろの阿呆共を庇う訳ではないのですが。一応ですよ?危機感と言うか、『人間の常識』を適用させて下さい?確かに、岬君は【人外】ですね?でも、一応学生なんですから。あまり、迂闊に外―と言うか、此処で言わない方が良いですよ?誰が聞いているか、分かったもんじゃない。」
「あはははは。気を付けます。」
「…何だか、私のせいで申し訳ないです、海斗様。」
後ろの女性―黒髪で、浴衣を着た、十代前半程の少女―に気を遣わせてしまい、慌てる窓口担当。
「いえ、奥様は何も悪くないです!…ただ。岬君は、その~。校内での、女性人気が非常に高い人の一人で~。」
「え?!」
「な、何故海斗様が逆に存じ上げていらっしゃらないんですか…?」
「い、いや!?僕、妻帯者ですよ?!」
「あまり、知れ渡っていないみたいですね…。」
「あ、え、えっと!ご、ごめん、澪子!!」
「いや、海斗様が人気なのは、別に構いませんよ…?」
どうやら、「ヤンデレ」「メンヘラ」「地雷系」とはかけ離れた存在のようである。それ以前に、旦那の天然?もとい、誠実さのおかげで、修羅場になる確率は0の模様。
寧ろ、このままいったら、惚気を見せられそうな気分。それは何としても、裏方の暇人独身同僚共―さっき椅子から転げ落ちていた奴らの為に、避けた方が良い事である。また、「岬 海斗ファンクラブ」の一員や、予備軍に見られでもした暁には、もう、校内の安全面が心配されてしまう。そんな勘が働いた事務員が、すかさず話題を逸らす。
「そう言えば、要件をまだ聞けていなかったですね?どうしたんですか?そのー、奥方まで連れて来られて。」
「あ、そうでした。実は…妻がこの学校に通いたいと、申しておりまして。」
「ほう!」
「そのー、最初は
『学校に通いたい』
と言っていて、探していたんですが、そのー…。僕の妻、怨霊でして…。」
「はい、どうやらそのようですね。」
「…幾つかの学校に、
『受け入れは難しい』
と、断られてしまって…。」
「確かに、怨霊を受け入れている学校さんは、あまり多くないですからね~。妖怪でも、異形系は受け入れ可能校が少ないですし。」
悲しき種族の壁。
「…この学校は、
『どんな種族でも受け入れて下さる』
と伺いまして…。」
少女が、意を決した様に声を発する。鈴のような声色であり、大変聞き取りやすい。「怨霊」と聞くと、禍々しく、恨みがましい存在をイメージしてしまうが、そんな事もないようだ。
「はい、全く持って、その通りですね。実際、怨霊の方々も少なからず在籍されてますよ?…ただ。」
「『ただ…?』」
「…入学に当たって、お願いしたい事があります。」
「な、何でしょう。」
「…奥様。」
呼びかけられて、委縮する少女。
「は、はい。」
「つかぬ事をお伺いしますが…相当上位の怨霊なのではないのでしょうか?かなり長い期間、彷徨っているとか、生前、何か強い人だったとか。」
「は、はい?」
「あの~、あ、見せた方が早そうですね。…パソコンが、有りますね?」
「はい。」
「岬君。さっきまでこのパソコン、正常に動いてたんですよ。ほら、遠目で、『カタカタ』してる様子とか、見えていませんでしたか?」
「あ、あー、は、はい。」
「…もう、この調子ですよ。」
そう言って見せてきた画面は、典型的な砂嵐。砂嵐の中に、見慣れたウィンドウが出たり消えたりを繰り返しており、まさに「バグってる」。
「…わぁ。」
「な、何か、凄い事になってますね。」
「でしょう?」
そう言って画面を、再び自分の方に戻す。
「あのー。本当に言いづらいんですが…。奥様。霊障が、大変激しいです。もう、見たことないくらい。凄いです、いや、本当に。」
「え、えぇ…?」
困惑する少女。
「岬君。家に、電子機器ありますか?」
「え、ありますよ…?」
「…気づいておられましたか?」
「い、いえ、全く。」
「…マジかー。え、家では、こんな事起きないんですか?」
「は、はい。」
「…心理的な要素も強く関わる現象ですしね。」
「ご、ごめんなさい。」
「謝る必要は、全くないです。ですが…正直、私もヤバいです。気を抜いたら、頭痛がしそうですね。もう、比喩表現ではなく。…ここまでだと、入学するまでに、訓練に必ず参加してもらう必要がありそうです。逆に、ある程度霊障を抑え込められるようになれば、選択肢も随分広がると思いますし。…一応、誰でも参加出来る講習が、此処にありますし。是非とも、いえ、本当に。前向きに参加を検討していただければと。」
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「…いやー、凄かったね。」
「はい。まさか、あんな事が起きるなんて…」
帰路につく岬夫婦一行。その鞄の中には、問題集がある。入学試験のためのものである。講習の参加届を出した後、同じく総務部で購入したものだ。
「…どうしたの?」
「あ、えっと…。覚悟していたほど、難しそうではなくて、安心しました。」
「そう?良かっ、た。…?」
突然、歩みが止まる。
「…海斗様?」
「ごめんね、澪子!先に、帰っていてくれないかい?」
「え、急に。ど、どうしてですか?」
「ちょっと、忘れ物をしたかもしれない。ごめんね。」
「そ、そう言う事なら。では、帰って試験勉強をしておきますね。」
「もう、受けるとしても、半年以上あるよ?」
「予習みたいなものですので。」
「勉強熱心だね、澪子は。」
「そ、そんな。か、海斗様に比べたら。」
「そんな事ないよ!じゃあ、また後で!!」
そう言って走り出す岬 海斗。
しかし、夕方になろうと、帰って来なかった。帰り道は、夏の日光が容赦なく降り注ぐ、正午辺りの時間だったというのに。




