野営
そこからさらに歩みを進め、開けた平地にたどり着いたところで、その日は野営をすることになった。
「アスターちゃん、火をお願いできる?」
グラッドに声を掛けられ、野営の準備を始める。
しかし、ローレルがいないだけで、思っていた以上に作業は大変だった。
火を起こし、薪を割り、火力を調整する。
さらに箸や皿を加工したり、椅子を用意したりと、細かな作業が次から次へと出てくる。
普段は気にも留めていなかったが、こうした雑務の多くをローレルが黙って引き受けてくれていたのだ。
「あいつ、意外と働いてたんだな…」
改めて、ローレルの存在の大きさを実感するのだった。
ローレルがいない夕食の準備は、想像以上に時間がかかった。
そのせいで、食事を終え、片付けまで済ませた頃には、辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。
焚き火の揺れる炎を眺めながら、一息ついていると、
「ほら。スピレア、アスターちゃんに言うことがあるでしょ」
グラッドが突然、スピレアに声をかけた。
自分の名前が聞こえた気がして、そちらを見る。
「まだ…心の準備ができていないというか…」
スピレアは顔を赤くしながら、もじもじと視線を泳がせていた。
「まったく…手のかかる子ね。そんなことをしていたら、アスターちゃんが離れていっちゃうわよ」
グラッドは呆れたように言う。
その口調は、まるで子供を叱る母親のようだった。
「それは…困る…かも」
スピレアは俯き、小さな声で呟いた。
「女は度胸! しっかりしなさいな!」
そう言って、グラッドはスピレアの背中を軽く叩く。
「ふぅ…」
スピレアは小さく深呼吸をした。
そして、意を決したように立ち上がる。
こちらへ向き直った彼女の瞳は、少し揺れていた。
「アスター…ちょっといいかな?」
赤くなりながらも、まっすぐこちらを見る。
最近では珍しく、スピレアの方から話しかけてくれた。
それだけで、少し嬉しく感じた。
「どうした?」
「その…最近、無視しちゃってごめんなさい」
スピレアは勢いよく頭を下げた。
そして、ゆっくり顔を上げると、続ける。
「でも…もう少しだけ。もう少しだけでいいから、待っていてほしいの」
切なそうな表情で告げる。
…話の意味がよく分からない。
「何を待てばいいんだ?」
「アスターちゃん、それを聞くのは野暮というものよ」
グラッドが呆れたように割って入ってきた。
思わずグラッドを見る。
「男なんて、女に待たされてなんぼのものなのよ」
「…?」
いまいち意味が理解できない。
とりあえず…待っていればいいということなのだろうか。
そんな疑問を抱いていると、
「明日からは…前みたいに話せるように頑張るから」
スピレアは恥ずかしそうにしながら、それでもはっきりと伝えてくれた。




