城門
野営を終えてから二日後。
ついに宗教国家パウロの正門へとたどり着いた。
パウロを囲む城壁は二重構造になっている。
外側の城壁は、魔物や侵略者から街を守るためのもの。
そして内側には、それをさらに上回る高さと厚さを誇る巨大な城壁がそびえ立っていた。
パウロへ入る者は、まずこの城門で厳しい検問を受けなければならない。
今、一行はその順番を待つため、門の前に並んでいた。
そこで、一つ重大な問題に気づく。
「なぁ…俺って、ちゃんと入れるのか?」
身分を証明するものは何一つ持っていない。
自分がどこの出身なのかすら分からない。
そんな俺が無事に検問を通れるとは、とても思えなかった。
「あっ…」
「あっ…」
「あっ…」
スピレア、グラッド、ルドベックの三人が、見事なまでに同時に声を漏らす。
…やっぱり駄目そうだ。
「まぁ、バルダック出身で、スピレアちゃんの幼なじみってことにしておけば大丈夫じゃないかしら?」
グラッドが苦笑しながらフォローを入れてくれる。
「最悪、貴様は門の前で待っていろ」
ルドベックは相変わらず容赦がない。
「その…ごめんね」
スピレアは申し訳なさそうに謝るだけだった。
つまり、誰も決定的な解決策は持っていないらしい。
他人事だと思って、ずいぶん気楽なものだ。
不安と少しの苛立ちを抱えていると、
「次の者、前へ!」
衛兵に呼ばれ、一行は城門へと進み出た。
「貴様らは何者だ?」
厳しい口調で問いかけられる。
スピレアが一歩前へ出ると、胸元のネックレスを見せた。
「私たちは精霊術師です。訳あってパウロで調べたいことがあり、訪れました」
迷いのない口調だった。
「精霊術師殿でしたか。失礼いたしました」
衛兵の表情が少し和らぐ。
そのまま仲間たちへ視線を移し、人数を数え始めた。
「一、二、三…」
しかし、ルドベックの顔を見た瞬間、その動きが止まる。
「ルドベックじゃないか! やっと帰ってきたのか!」
衛兵は嬉しそうに駆け寄ると、そのまま肩を組んだ。
「や、やめてください。私は騎士を辞めた身です。帰ってきたなどと…」
ルドベックは困った顔で、必死に衛兵から逃れようとする。
「何を言ってる。お前さん、まだ騎士団所属だぞ?」
衛兵はあっさりと言い放った。
「…はい?」
ルドベックの動きが止まる。
「今、何と?」
「だから、お前さんはまだ騎士団所属だ」
衛兵は笑顔のまま繰り返した。
「いえ! 私はきちんと辞表を提出しました!」
ルドベックは慌てて否定する。
「その辞表は受理されたのか?」
「…辞表を出した後のことまでは、確認していません」
急に声が小さくなる。
どうやら、辞表は受理されていなかったらしい。
「それにな、お前さん。真面目すぎてほとんど休みを取ってなかっただろ?」
衛兵は苦笑しながら続ける。
「だから今は、代休と有給をまとめて消化してる扱いになってる」
「そんな身勝手な!」
ルドベックが思わず声を上げる。
「周りの話も聞かずに騎士団を辞めようとしたお前の方が、よっぽど身勝手じゃないか?」
衛兵はニヤリと笑った。
その一言に、ルドベックは何も言い返せなくなる。
ただ黙って俯く姿を見て、どうやらこの勝負は、ルドベックの完敗だったようだ。




